No.1111 給食当番児童を介して集団発生したと考えられるノロウイルスによる急性胃腸炎事例

[ 詳細報告 ]
分野名:ウィルス性感染症
登録日:2016/03/11
最終更新日:2016/05/27
衛研名:福井県衛生環境研究センター
発生地域:福井県福井市
事例発生日:2001年2月1日
事例終息日:2001年2月2日
発生規模:
患者被害報告数:患者・被害者数 17名
死亡者数:0名
原因物質:ノロウイルス
キーワード:ノロウイルス、集団発生、感染源、給食当番、先行発症児童

背景:
近年、ノロウイルスを原因とする急性胃腸炎集団発生が数多く報告されているが、学校などの集団給食施設で単一曝露が疑われる場合、給食もしくは給食調理従事者が感染源と推定されるケースがほとんどである。複数の給食配給クラス中、患者発生が1クラスに限定されており、給食や調理従事者が感染源とは考えにくい事例において、給食当番の児童が感染源となった可能性が示唆される疫学情報・検査結果が得られたので報告する。

概要:
福井市内の小学校の2年生1クラスで、27名中17名が嘔吐、腹痛、下痢、発熱などの症状をうったえる急性胃腸炎の集団発生がみられた。自校調理の給食は併設の幼稚園を含め7クラスに提供されていたのに他のクラスで発症者がいなかったこと、また、調理実習のようなクラス独自の喫食機会は特になかったこと、などから、食中毒だけでなく感染症の可能性も疑われた。
病原体検索の結果、患者6名および無症状の調理従事者1名の糞便よりノロウイルスが検出され、その遺伝子配列を解析したところ感染源が同一である可能性が高かった。2月2日未明をピークとする一峰性の流行曲線およびノロウイルスの潜伏時間を考慮すると、1月31日のお昼ごろが曝露時期として疑われる(このとき患者における平均潜伏時間は約32時間)が、その1月31日に先行して発症した児童が午前中に嘔吐などの症状がでていたのに給食当番をつとめており、その際ウイルス粒子が付着した手指で食品や食器を汚染したと考えると、潜伏時間・1クラスのみに集中した発症状況等によく合致した。

原因究明:
先行発症した児童が、給食当番をつとめたときにウイルス粒子が付着した手指で食品や食器を汚染したと考えると、潜伏時間も合致するし、クラス内のみで64.0%と高い発症率も頷ける。一方、不顕性感染の調理従事者1名が給食を汚染したとの見方もできるが、2年生1クラスの給食だけを特異的に汚染したとは考えにくい。また検査時の糞便に含まれていたウイルス量においても、先行発症児童は電子顕微鏡法で検出可能なレベル、調理従事者はRT-PCR法のみ陽性、であり、先行発症児童が感染源となった可能性がより高いと思われた。なお先行発症児童の兄と母親も同じように嘔吐・下痢を呈していたことから、先行発症児童の感染源としては家族内感染(食中毒)が疑われた。

診断:

地研の対応:
所轄保健所からウイルス検査の打診があった際、インフルエンザ流行期であったため、糞便や嘔吐物に加え咽頭拭い液の採取も要請した。その結果、患者および給食調理従事者の糞便と咽頭拭い液が、所轄保健所を通して搬入されたので、糞便については食中毒菌と下痢症ウイルスを、咽頭拭い液については呼吸器系ウイルスを、それぞれ対象として検査した。
発症者16名分の咽頭うがい液および9名分の糞便、無症状の給食調理従事者3名の咽頭うがい液と糞便を検査したところ、患者6名と給食調理従事者1名の糞便においてRT-PCR法でノロウイルスが検出され、うち患者3名分は電子顕微鏡法によってもSRSV様粒子を確認した。計7検体の増幅産物について塩基配列をダイレクトシークエンス法で決定したところ、genogroup IIに属するノロウイルス遺伝子の一部と確認するとともに、塩基配列が100%一致し、感染源が同一である可能性が高いと判断した。

行政の対応:
小学校から連絡を受けた所轄保健所は、食中毒と感染症の両方を想定し疫学的調査を行った。また、ノロウイルスが原因病原体と判明した後には、小学校が保護者等を対象に開いた説明会で、先行発症児童が特定できないよう配慮して事例の経過を説明するとともに、ノロウイルスについての情報を提供した。

地研間の連携:

国及び国研等との連携:

事例の教訓・反省:
場合によっては、発症時期が早すぎるから無関係、と切り捨てられかねない先行発症児童の存在が、感染経路究明に重要な意味を持った事例で、あらためて遡り調査の必要性を感じた。また先行発症児童の詳細情報は、小学校養護教諭の協力により得られており、疫学的調査において重要な協力者といえる。

現在の状況:

今後の課題:
給食当番制の学校においては、調理従事者や食品取扱業者に対する衛生管理と同様に、胃腸炎症状を示す児童は当番から外すなどの対策が必要である。また急性胃腸炎集団発生時には、汚染源候補に給食当番の児童などをも想定したうえでの疫学調査を行うことが望ましい。

問題点:

関連資料:
1) 給食当番児童を介して集団発生したと思われるノーウォーク様ウイルスによる感染性胃腸炎-福井県 病原微生物検出情報月報,vol.22,No.9
2) 小学校の1クラスで発生したノーウォークウイルスによる急性胃腸炎集団発生例 小児科,vol.43,No.11
3) 冬場に気をつけてほしい病気はインフルエンザだけでありません!!~嘔吐下痢症の対応と予防~ 健,第31巻,第11号