[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性感染症
登録日:2016/03/11
最終更新日:2016/05/27
衛研名:福岡市保健環境研究所
発生地域:福岡市H区
事例発生日:2003年12月12日
事例終息日:2003年12月18日
発生規模:
患者被害報告数:感染者数61名
死亡者数:0名
原因物質:腸管出血性大腸菌O157(VT1&2)
キーワード:腸管出血性大腸菌,集団感染事例,O157,修学旅行,高校生,パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE),オーストラリア
背景:
腸管出血性大腸菌(Enterohemorrhagic Escherichia coli)感染症は,1999年4月から3類感染症とされ,全数把握の感染症となっている.感染症発生動向調査によると患者および無症状病原体保有者は毎年3,000名前後が報告されている.感染者のほとんどは国内感染例で,海外由来の本菌感染症の報告はあまり例をみない.
2003年12月市内の高校において海外の修学旅行が原因と推察された腸管出血性大腸菌O157集団感染事例を経験したので報告する.
概要:
2003年12月12日,高校2年生女子生徒から腸管出血性大腸菌O157が検出されたと管轄保健福祉センターへ届出があった.調査の結果,患者は12月2日から8日にかけてオーストラリアへの修学旅行に参加しており,修学旅行に参加した生徒等419名のうち十数名に12月7日から下痢,腹痛,嘔吐等の食中毒症状を呈していることが判明し,集団感染が疑われたため,健康調査,喫食調査,行動調査等の防疫活動が開始された.
その結果,最終的に菌陽性者は61名となり,代表菌株によるパルスフィールド電気泳動(PFGE)は同一のパターンが認められた.
原因究明:
分離されたO157はPCR法によりベロ毒素遺伝子の型別を行い,全てVT1&2を確認した.最終的な菌陽性者は医療機関を受診した3名を含めると高校2年生58名(14.7%),教職員
2名(13.3%)および菌陽性者の家族(市外分は除く)1名(1.1%)の計61名となった.
医療機関から入手した菌株と当所で分離された菌株の代表株についての制限酵素Xba Iによるパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)は同一パターンが認められた.しかし,2003年日本で報告され,国立感染症研究所に搬入された他のO157VT1&2株のPFGEパターンとは異なっていたことから,修学旅行での感染曝露が疑われた.
修学旅行はA班(12月2日出発),B班(12月3日出発)の2つの班に分散し,オーストラリアへ出発した.A班,B班はそれぞれの日程により行動していたが,唯一12月4日(A班),5日(B班)に同じ場所での動物(馬,羊,山羊,牝牛)との接触歴が確認された.しかも,接触歴がないものは感染していないことが判明したことから,動物との接触が要因であると示唆された.食事に関しては共通性に乏しく,感染要因の可能性は低いと思われた.
診断:
地研の対応:
初発患者の届出を受けた翌日の12月13日から15日にかけて,修学旅行に参加した生徒,教員,添乗員を対象に第1回目の検便を実施した(419名).その結果,修学旅行に参加した生徒394名中50名および教職員15名中1名の計51名から腸管出血性大腸菌O157が検出された.しかし,これら51名の菌陽性者に無症状保菌者が多く見受けられたことから,潜伏期間も考慮して,第1回目検便陰性者(368名)および菌陽性者の家族等接触者に対して第2回目の検便を実施した.その結果,新たに生徒7名,教職員1名の計8名および菌陽性者の家族1名からも本菌が分離された.
行政の対応:
同時期,福岡市での腸管出血性大腸菌O157の発生は11月に2例の散発事例があったものの,他に本菌の流行はみられず,高校に限局された集団感染が疑われた.しかも高校関係者のなかでも感染者は修学旅行に参加した高校2年生を中心に感染が拡大していたことから,管轄保健福祉センターは国立感染症研究所FETPに調査協力依頼を行い,健康調査,喫食調査,行動調査および積極的症例探査,記述疫学等の疫学調査を行った.
地研間の連携:
国及び国研等との連携:
国立感染症研究所FETPに支援を要請.
国立感染症研究所へDNA解析を依頼.
2004年7月,さいたま市で開催された衛生微生物協議会第25回研究会にて報告.
事例の教訓・反省:
昨今,国内外を問わず,動物とのふれあいを目的とした教室,体験施設が多々見受けられるようになってきた.本事例は,動物との接触も危険因子となりうる可能性を示唆していることから,動物との接触後は手洗い等の徹底を喚起する必要があると思われる.
今回の集団感染事例は,オーストラリア修学旅行中での感染が推測されたが,国外での調査には情報収集に限界があり原因を究明することはできなかった.しかしながら,海外旅行が頻繁に行われている現状を踏まえると,感染症が国を越えて発生する可能性が増大すると予測される.海外旅行者に対して感染症への注意喚起および国際間の円滑な情報交換等の連携強化が必要と思われる.
現在の状況:
今後の課題:
問題点:
関連資料:
1) 尾﨑延芳,他:修学旅行生(オーストラリア)の腸管出血性大腸O157集団感染事例-福岡市.病原微生物検出情報,25,6,10(147)~11(148),2004
2) 尾﨑延芳,他:海外の修学旅行が原因と推察された腸管出血性大腸菌O157集団感染事例,福岡市保健環境研究所報,29,163~166,2004