[ 詳細報告 ]
分野名:ウィルス性感染症
登録日:2016/03/11
最終更新日:2016/05/27
衛研名:愛媛県立衛生環境研究所
発生地域:愛媛県松山市内のM幼稚園
事例発生日:2003年12月8日
事例終息日:2003年12月12日
発生規模:
患者被害報告数:発症者数 55名/129名(園児53名/118名,職員2名/11名)
死亡者数:
原因物質:サポウイルス
キーワード:急性胃腸炎、集団発生、幼稚園、サポウイルス
背景:
県内の感染性胃腸炎は、全国的な動向と同様に、毎年秋季から翌年の初夏(10月から6月)にかけて、2峰性のピークを示す大きい流行が観察されており、継続的な病原体サーベイランスの結果、これら散発性胃腸炎は、多種類の胃腸炎起因性ウイルス(ノロ(NV)、ロタ、サポ(SV)、アストロ、アデノウイルス等)が関与していることが明らかになっている。一方で、NVを主原因ウイルスとする食中毒や胃腸炎集団発生は、毎年冬季を中心に多く発生し、公衆衛生行政上の大きな問題となっている。2003年1月~12月の間、県内のウイルス性胃腸炎集団発生は6事例発生し、そのうち5事例はNVが、1事例はSVが原因ウイルスであった。SVは、散発性胃腸炎患者便から毎年検出されており、検出される胃腸炎起因ウイルスのうち、SVの占める割合は、2001年13%、2002年5.2%、2003年16.3%であった。特にこの事例の発生した2003年12月には、検出ウイルス29例中SVが8例(27.6%)とNVに次いで多く、この時期には散発性のSV感染者が多数存在していたと推察された。
概要:
2003年12月中旬、松山市内のM幼稚園において嘔気、嘔吐(有症率約80%)、腹痛(40%)、下痢(30%)、発熱(20%)を主徴とする急性胃腸炎の集団発生が届けられた。118名の園児のうち53名(発症率44.9%)、11名の職員のうち2名が発症した。これらの患者発生状況は12月8日、9日に各1名、10日に39名、11日に14名と一峰性の発生パターンを示し、また学年別、クラス別の発症にはほとんど差異がなかったことから、食中毒様の単一暴露が疑われた。しかしながら、この幼稚園に提供された給食は、同時に他の小中学校3校でも食されていたが、胃腸炎患者発生はなかったため、給食を原因とする食中毒とは断定できなかった。
患者糞便および保存食の細菌検査では、病原菌は検出されなかったので、ウイルス検査(電子顕微鏡検査(EM)、NV検出用リアルタイムPCR(影山ら)、SV検出用nested-PCR(岡田ら))が行われた。園児便11検体、調理従事者便14検体の検査の結果、園児10名からSVが検出(EMで園児8名がSRSV陽性、SV用PCRで10名陽性、NV用PCRは全て陰性)された。このことから、この胃腸炎集団発生はSVを原因とするものであったことが明らかとなった。また、検出されたSVの遺伝子解析により、集団発生から検出された株間および、同時期にこの地域の散発性胃腸炎から検出された株との、塩基配列相同性は100%一致した。
原因究明:
患者便からのSV検出により、胃腸炎の病因物質は究明できたものの、給食が原因食品とは断定できず、また給食以外の感染経路の特定も出来なかった。しかし、この集団発生の背景として同時期にこの地域で流行していたSVが、何らかの理由で園内に持ち込まれ、集団発生の原因となったと考えられた。
診断:
地研の対応:
松山市保健所および県保健福祉部の依頼を受け、患者および調理従事者の検体について、ウイルス検査を実施するとともに、原因究明のための疫学的調査の解析について、可能な範囲の意見を述べた。ウイルス検査では、園児便からEMではSRSVが陽性にもかかわらず、NV用リアルタイムPCRで全例陰性であったため、引き続きSV用nested-PCRを行いSVを検出した。また、検出されたSV株の遺伝子解析を行い、この集団発生事例とその背景となっている、散発性胃腸炎との関連性を明らかにし、この事例を通して感染性胃腸炎における、SVの重要性を提示した。
行政の対応:
患者発生の届出がされた松山市保健所が、患者発生状況調査をはじめとする疫学調査を行い、患者検体の細菌検査を実施するとともに、その状況からウイルス検査の必要性があるとの判断で、県保健福祉部と相談の上、衛生環境研究所に検体検査を依頼した。幼稚園に対しては、患者発生がピークとなった翌日の給食を中止し、午後からと翌日の1日半を休園とした。
地研間の連携:
国及び国研等との連携:
事例の教訓・反省:
現在の状況:
今回のSVによる胃腸炎では、嘔気・嘔吐以外の症状の発現率は低く比較的軽症で、1日半の休園に続く土・日の休日で、園児および職員の健康は回復した。
今後の課題:
毎年、冬季を中心に流行する感染性胃腸炎には、多種類のウイルスが関与しているが、これらのうち特にNVはしばしば食中毒の原因となり、また学校や施設における集団発生を引き起こすことから、衛生行政上の課題となっている。食中毒や集団発生の制御のためには、地域におけるこれらのウイルスの動向を把握しておくことが重要である。NVほどの頻度ではないものの、この数年SVの検出頻度は増加しその重要性は高まっている。今後SVの動向を監視するとともに、より精度が高くSVを検出できる方法の開発が期待される。
問題点:
関連資料:
1)大瀬戸光明ほか:平成15年度新興・再興感染症研究事業研究報告書(厚生労働科学研究費)