[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性食中毒
登録日:2016/03/11
最終更新日:2016/05/27
衛研名:広島市衛生研究所
発生地域:
事例発生日:事件1 2003年7月4日
事件2 2003年7月29日
事例終息日:事件1 2003年7月12日
事件2 2003年8月11日
発生規模:広島市
患者被害報告数:被害者数事件1患者数386名,事件2 患者数 22名
死亡者数:0名
原因物質:Salmonella Enteritidis
キーワード:Salmonella Enteritidis、洋菓子店、洋生菓子
背景:
我国では1990年頃からSalmonella Enteritidis(以下S. Eという。)による集団食中毒事例がみられ、同年、本市でも洋生菓子のティラミスケーキによる1府9県にまたがる大規模な食中毒が発生した。その後も全国的に発生が続き、本市における平成13年~15年までの過去3年間のサルモネラ食中毒事件数は、毎年その全件数の20~30%を占め、そのうちS. Eの占める割合は80%前後である。
概要:
本食中毒事件は同一洋菓子店を原因として短期間内に連続して発生した特異な事件であった。患者は7月4日~12日および7月29日~8月9日の間に発生し、それぞれ386名および22名であった。
原因食品はいずれも生クリームを使用した洋生菓子であった。二事件とも製造残品、患者便、従事者便からS. Eを検出し、病因物質はS. Eと断定された。
原因究明:
事件1の発生要因は、生クリームの持ち越し使用および不十分な手指消毒、器具の洗浄消毒により、製品への継続的なS. E汚染があったと考えられた。
事件2では事件1で指導した事項が従事者一人一人に十分認識されず、衛生管理が守られなかったことによるものと考えられた。なお、二事件とも従事者にS. Eの保菌者の存在があった。
診断:
地研の対応:
事件1では7月9日~24日にかけて、保健所が採取した検体179検体についてサルモネラ等の食中毒病原検索を行った。検体の内訳は製造所で保管されていた洋菓子類およびその原材料32検体、患者宅にあった残品8検体、施設スワブ30検体、患者便等(菌株を含む。)98検体、従事者便11検体で、そのうち患者宅の残品8検体、患者便等83検体、従事者便1検体の計92検体からS. Eを検出した。
制限酵素Bln1を用いたパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)解析では、事件1においては従事者由来株、患者由来株および残品由来株全てが同一泳動像を示した。
また、分離株78株(他機関で分離された株を含む。)の12薬剤(SM、KM、TC、AM、NA、CP、CIP、CTX、SXT、TMP、GM、FF)に対する感受性試験で全ての株がAM、TMP、SXTの3剤に耐性を示した。
事件2では8月6日~10月27日にかけて、保健所が採取した検体340検体についてサルモネラの検索を行った。検体の内訳は製造所で保管されていた洋菓子類およびその原材料202検体、施設スワブ102検体、患者便等(菌株を含む。)12検体、従事者便24検体でそのうち生クリームを使用したケーキ類60検体(57検体は同一製品)、患者便等11検体、従事者便1検体の計72検体からS.Eを検出した。
また、分離株80株(他機関で分離された株を含む。)の6薬剤(SM、KM、TC、AM、NA、CP)に対する感受性試験で全ての株がAMに耐性を示した。
行政の対応:
保健所は原因施設の洋菓子店を営業禁止処分とし、施設・器具の洗浄消毒の実施、その確認、従事者の健康確認・衛生教育の実施後、営業禁止処分の解除を行った。特に二度目の食中毒事件後、従事者の衛生意識の向上と作業マニュアルの作成とその定着化を指導した。
地研間の連携:
特になし
国及び国研等との連携:
国立感染症研究所に依頼した結果、事件1で分離した従事者由来1株、患者由来18株、食品由来3株(患者宅の残品)の計22株および事件2で分離した食品由来2株(原因施設で保管中のもの)、患者由来2株の計4株についてのファージ型はいずれも5cであった。
事例の教訓・反省:
ソフト面の衛生管理と作業動線を見直し、大幅な施設の改造・改善を行い、従事者の衛生意識の向上を図っても、具体的な行動につながらなければ食中毒事件の再発がありうる。このことから確実に実施される作業マニュアルを作成し、その履行確認と習慣化を図るため、継続した衛生指導・啓発が求められる。なお、食品へのS. E汚染は従事者によるものか食品原材料によるものかは特定できなかった。
現在の状況:
本市では、サルモネラ食中毒予防対策として鶏卵の汚染状況の実態把握、データ集積および生産者への情報提供による自主管理の促進を図るためGPセンター等を対象としたモリタリング検査の実施を行っている。
今後の課題:
今後の問題点として、S. Eの食中毒事件の汚染原因が従事者によるものか、食品原材料によるものかを断定ができないことが多く、調査当初からS. Eによる食中毒事件が疑われる場合はこれらのことを念頭において原因究明の調査や検査を行うことが必要であろう。
課題として菌株検査を統一的に実施し、汚染原因を究明するために保健所とのより一層の情報の共有化による連携強化を図る必要がある。
問題点:
関連資料: