[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性食中毒
登録日:2016/03/11
最終更新日:2016/05/27
衛研名:大阪府立公衆衛生研究所
発生地域:大阪府、京都府、兵庫県
事例発生日:2003年9月4日
事例終息日:2003年9月9日
発生規模:
患者被害報告数:患者数 358名
死亡者数:0名
原因物質:多剤耐性Salmonella Typhimurium
キーワード:多剤耐性、Salmonella Typhimurium、大規模食中毒、DT104、パルスフィールド・ゲル電気泳動
背景:
最近、世界各地で各種の抗生物質に対して耐性を示す多剤耐性Salmonella TyphimuriumファージタイプDT104による下痢症が発生している。我が国においても本菌による散発、集団食中毒の報告はあるが、本事例のように大規模、広範囲にわたる食中毒事例は初めてである。
概要:
2003年9月4日京都府内の事業所において昼食弁当を食べた者の中に、腹痛、下痢、発熱の症状を呈し、職場を休んでいる者がいるとの報告が所轄の保健所に入った。京都府の調査では弁当は大阪府内の給食会社が配達したことがわかり、翌日、大阪府の食中毒担当の部署に連絡があった。さらに9月9日、大阪市の医療機関から給食弁当を食べ、腹痛、嘔吐、下痢等の食中毒症状を呈した幼稚園児を診察した旨連絡があった。これらの連絡を受けた大阪府は弁当を調製した業者を調べたところ、大阪府豊中市のA給食株式会社であることがわかった。A給食株式会社は大阪府内をはじめ兵庫県および京都府内の3081施設の事業所に一日当たり18,681食、28施設の幼稚園に1,100食の弁当を配達しており、患者数は事業所144名、幼稚園214名であった。患者の症状は下痢(99%)、腹痛(83%)、発熱(72%)であった。原因食品としては事業所は9月1日、幼稚園は9月4日に調製した弁当が疑われた。
原因究明:
大阪府内(大阪市、堺市、東大阪市を除く)の患者のうち、10名について食中毒原因物質の検索を行ったところ、5名からSalmonella Typhimuriumが検出された。また、大阪市、京都府、兵庫県からも患者から同菌型を分離したとの連絡を受けた。一方、A給食株式会社の弁当の8月27日から9月2日までの保存食46検体、幼稚園の弁当の9月1日から9月5日までの保存食40検体施設の拭取り10検体についてSalmonellaの検出を試みたがすべて陰性であった。
患者から分離されたSalmonella Typhimuriumの5株についてパルスフィールド・ゲル電気泳動による遺伝子解析を行った。制限酵素Bln IおよびXba Iによる切断パターンを比較したところ、すべての株が同一の泳動パターンを示した。また、12薬剤(ABPC、SM、TC、CTX、KM、CPFX、OFLX、CP、ST、GM、NA、FOM)に対する薬剤感受性試験では5株ともABPC、SM、TC、CPに耐性を示す多剤耐性菌であった。
当所ではSalmonella分離株のすべてについてパルスフィールド・ゲル電気泳動および薬剤感受性試験を継続して実施しているが、2003年7月17日に散発患者から分離され、府内の保健所から同定依頼されたSalmonella TyphimuriumはABPC、SM、TC、CPに耐性の多剤耐性菌で、かつパルスフィールド・ゲル電気泳動による遺伝子解析では前述の大規模食中毒の原因菌と同一の泳動パターンを示した。しかしながらこの散発患者と大規模食中毒との関係は不明であった。
診断:
地研の対応:
患者便および原因食品である弁当の保存食、施設の拭取りを対象に食中毒原因物質を検索した。また、分離株については薬剤感受性試験およびパルスフィールド・ゲル電気泳動による遺伝子解析を行った。
行政の対応:
9月5日に京都府内の事業所での食中毒発生の報告を大阪府の食中毒担当者が受けたが、原因施設の特定まで到らなかった。9月9日に大阪市内の3ケ所の幼稚園でA給食株式会社の弁当を食べ、食中毒を呈しているとの情報により、当該会社が調製した弁当の疑いが強まったため、翌9月10日から営業自粛を要請した。9月11日に患者便からSalmonella Typhimuriumが検出されたため、同日から6日間の営業停止を命令した。
地研間の連携:
京都府保健環境研究所および大阪市立環境科学研究所から患者分離株の分与を受け、当所で多剤耐性およびパルスフィールド・ゲル電気泳動を行った結果、すべての分与株について当所の分離株と同一のパターンを示した。
国及び国研等との連携:
当所で分離した株を国立感染症研究所にファージ型別を依頼した結果、これらの株はいずれもDT104であることがわかった。
事例の教訓・反省:
近畿地研間の協力、特に最初に食中毒患者の発生した京都府保健環境研究所からの連絡により、迅速な検査体制を確立することができ、Salmonella Typhimuriumを原因物質としてあげることができた。大規模かつ広域食中毒には地研間の協力、緊密な情報交換は必須であろう。
現在の状況:
今後の課題:
問題点:
関連資料:
多剤耐性Salmonella Typhimuriumによる大規模食中毒、病原微生物検出情報、25(4)、6-7(2004)