[ 詳細報告 ]
分野名:ウィルス性感染症
登録日:2016/03/11
最終更新日:2016/05/27
衛研名:杉並区衛生試験所
発生地域:杉並区
事例発生日:2003年12月
事例終息日:2004年2月
発生規模:
患者被害報告数:発症者数約250名
死亡者数:
原因物質:Norovirus(Genogroup II)
キーワード:ノロウイルス、高齢者福祉施設、感染症
背景:
ノロウイルスは、冬季に発生するウイルス性食中毒、乳幼児や高齢者の感染性胃腸炎の主要な原因である。以前は検査法が電子顕微鏡法であったため、他のウイルスも含めて小型球形ウイルス(SRSV)と総称されていた。しかし、遺伝子解析の進歩により、カリシウイルス科に属するウイルスであることが判明し、検査法はRT-PCR法が主体となった。また、二つのgenogroup(GI及びGII)に分類され、さらに多数のgenotypeが存在する。厚生労働省の食中毒統計によれば、ノロウイルスは、冬季食中毒の主な原因である。また、食中毒のみならず、ヒトーヒト伝播や伝播経路不明の集団発生事例も多発している。
概要:
平成15年12月31日に、高齢者福祉施設Aより、嘔吐下痢症の患者が特定階で多発しているとの連絡が杉並保健所にあり、調査を行った。食事摂取の状況から食中毒ではなくヒト-ヒト感染と考えられた。感染の拡大防止と原因究明のため、保健所では各種の調査が引き続き行われたが、施設Aでは他の階へと感染が広がり、平成15年12月25日から平成16年1月16日までの間に、嘔吐・下痢症状を認めたものが、合計138人(入所者106人、職員32人)となった。有症者検便36件中28件がノロウイルスRT-PCR陽性であった。有症者6人が施設A・Bと隣接する病院Cに入院した。
平成16年1月20日に、施設Aと隣接した高齢者福祉施設Bの特定階から、嘔吐・下痢症状の入所者が多数でているとの連絡が保健所にあり、調査が開始され、施設Aと同様に食事摂取の状況から食中毒ではなくヒト-ヒト感染と考えられた。平成16年1月16日から平成16年2月6日までの間に、嘔吐・下痢症状を認めたものは合計58人(入所者35人、職員23人)であった。有症者検便8件中6件がノロウイルスRT-PCR陽性であった。施設Bの初発患者は発症前日まで病院Cに入院していた。また、施設Bの特定階で終息すると思われた1月28日に、病院Cから退院し、施設Bへ移った入所者が発症している。
病院Cでは、平成16年1月30日から2月7日までの間に、嘔吐・下痢症状を認めたものは53人(職員16人、患者37人)であった。有症者検便6件中3件がノロウイルスRT-PCR陽性であった。1月初旬から中旬にかけて下痢患者を多数認めていたこともわかった。
また、施設Aと施設Bの給食施設が同一であったため、給食施設調理従事者の糞便31件(内4件は再検査)について1月下旬にノロウイルス検査を行い4件がノロウイルスRT-PCR陽性であった。しかし、給食施設従事者では、体調異常者は認められなかった。
ノロウイルスRT-PCR陽性となった産物の一部12件について遺伝子配列決定検査を行い、高齢者福祉施設A,B由来株及び病院C由来株では完全に一致したが、調理従事者由来株は一致しなかった。
原因究明:
保健所の調査によると、施設Aでの初発患者の感染源は不明であるが、他の階には職員の手を介して広がった可能性が考えられている。施設Bの初発患者は病院Cから施設Bに入所した翌日に発症していること、また、施設Bで一度終息しつつあった時期に発症した入所者も、病院Cから退院後12時間で発症していたことから、施設Bでの感染は病院Cからの退院者が発端と考えられた。施設Aと施設Bとの間では職員・入所者ともに出入りはなかった。病院Cでの集団感染の開始時期は不明であるが、施設Aで集団感染が起きた1月初旬から中旬に脱水症状等で病院Cに入院した患者があったことから、施設Aから病院Cに入院した患者を発端として病院Cで感染が広がった可能性も考えられた。
診断:
地研の対応:
杉並保健所が回収した施設Aの12月26日から29日までの検食12検体、調理器具等の1月1日のふきとり8検体及び施設Bの1月14日から16日までの検食9検体について細菌検査を実施した。また、施設A・Bの入所者及び従事者、病院Cの患者糞便計50検体についてノロウイルス検査を行い、41検体について細菌検査も行った。施設Aと施設Bの給食施設が同一であったため、給食施設調理従事者の糞便31検体(内4検体は再検査)についてノロウイルス検査を行い、4検体について細菌検査も行った。また、病院Cで下痢症状を示した6人に対し、ノロウイルス検査を行った。
行政の対応:
地研間の連携:
東京都健康安全研究センターに患者由来株と調理従事者由来株の遺伝子配列決定検査を依頼。
国及び国研等との連携:
事例の教訓・反省:
ノロウイルスによる集団感染が生じている高齢者福祉施設で、状態が悪くなった入所者が病院に入院する。その後、受け入れ先の病院でノロウイルスの集団感染が生じてしまう。また、逆に、ノロウイルスによる集団感染が発生している病院から、施設に退院した患者が高齢者福祉施設でノロウイルスによる胃腸炎を発症し、施設内で感染が広がってしまう。このように施設と病院の間でお互いに感染を拡大させてしまうという悪循環の可能性が考えられた。
現在の状況:
今後の課題:
ノロウイルスの二次感染予防対策が重要性であり、日頃から発生要因を啓発していくことが、更なる拡大を防ぐために重要である。また、迅速簡便な検査法の開発が待たれる。
問題点:
関連資料:
山崎匠子,他:高齢者福祉施設におけるノロウイルスの感染事例,杉並区衛生試験所年報,22,31~33,2004