No.1162 京都府で発生した鳥インフルエンザ(2004年)

[ 詳細報告 ]
分野名:ウィルス性感染症
登録日:2016/03/11
最終更新日:2016/05/27
衛研名:京都府保健環境研究所
発生地域:京都府船井郡京丹波町(旧丹波町)
事例発生日:2004年2月29日
事例終息日:2004年4月13日
発生規模:2カ所の養鶏場で発生(死亡:24万羽、殺処分:4万羽)
患者被害報告数:0名
死亡者数:0名
原因物質:高病原性鳥インフルエンザウイルスA/H5N1
キーワード:高病原性鳥インフルエンザウイルス A/H5N1、養鶏場、国内発生、カラス、ウイルス分離

背景:
アジア地域での高病原性鳥インフルエンザ(以下、HPAI)は、近年では1997年に香港で、その後、2003年にはアジア各地で発生し、2003年12月には韓国にも波及した。我が国では2004年1月に山口県、2月初旬に大分県、さらに、2月末から3月にかけて京都府船井郡京丹波町の2カ所の養鶏場でHPAIが相次いで報告され、79年ぶりの発生となった。その後も拡大を続け、2005年12月現在でアジア地域を始め、中東、ヨーロッパにも拡大している。

概要:
2004年2月26日(木)の夕刻に京丹波町のA農産養鶏場で鶏の大量死があるとの匿名電話が園部保健所及び南丹家畜保健衛生所にあり、発生探知の端緒となった。また、3月3日(水)に同町内のB養鶏場でも感染を疑わせる事例が相次いで発生した。いずれも検査によりHPAIウイルスA/H5N1による発生であることが確定された。
半径30km以内の移動制限措置及び他の養鶏場の監視、さらに消毒、殺処分及び約28万羽の埋却処分等、防疫措置が講じられたが、防疫措置の最中にカラスがHPAIウイルスに感染し、死亡することが判明し、住民に大きな不安を抱かせることになった。そこで、住民の不安を払拭するため、当所がカラス等、野鳥の検査を分担担当することになった。

原因究明:
感染源及び感染経路は特定されていないが、我が国で分離されたHPAIウイルスと2003年12月に韓国で検出されたHPAIA/H5N1ウイルスとの相同性が極めて高いと報告されている。

診断:
死亡カラス33羽からのウイルス分離は孵化鶏卵接種法により行った。ウイルスの増殖はHA法で確認し、PCR法でH亜型を推定した。京都府中央家畜保健衛生所でニューカッスル病を否定した後、ウイルスを(財)動物衛生研究所に送付し、HPAIA/H5N1であることが最終確定された。
なお、他の一般野鳥201羽のイムノクロマト法による検査結果は全て陰性であった。

地研の対応:
防疫作業は市町村、自衛隊の応援も得た全庁的対応となり、当所も緊急避難的に死亡カラス等の検査を分担することになり、死亡カラス33羽からのウイルス分離及び他の一般野鳥の簡易検査による検査を行った。その結果、死亡カラス2羽からHPAIウイルスA/H5N1が検出された。
なお、通常はヒトのインフルエンザウイルスを扱う当所のP3実験室で鳥インフルエンザウイルスを扱うことは、2004年2月19日にWHOが提示した黄金律に反することになることから、国立感染症研究所の助言に基づき、当該検査業務終了後、4日間かけてP3実験室のホルマリン薫蒸を専門業者に委託し実施した。

行政の対応:
知事を本部長とする京都府対策本部を設置するとともに、現地対策本部も設置した。

地研間の連携:
特になし

国及び国研等との連携:
検査業務終了後のP3実験室の清浄化について国立感染症研究所の助言を受けた。

事例の教訓・反省:
京都府で鳥インフルエンザが発生した2004年2月末頃は幸いにも人インフルエンザが沈静化しており、検査需要がなかったため、緊急避難的に当所が死亡カラス等の検査を分担することになったが、このことは、結果的にP3実験室の清浄化に時間と経費を要することになった。
HPAIウイルスにカラスが感染し、死亡することを想定していなかったことがP3実験室の清浄化を余儀なくされた原因の一つであるが、今後は感染症発生に伴うあらゆる事態を想定し、事前に検査上の役割分担を決めておく必要がある。

現在の状況:
京都府では高病原性鳥インフルエンザ発生の経験を踏まえ、検査施設の充実・強化を図っており、2005年度中に中丹西保健所及び中丹家畜保健衛生所にP3実験室が整備される予定である。

今後の課題:
人の感染症の多くを人獣共通感染症が占めており、その対策強化が求められているとともに、P3実験室で扱うべき病原体が増加している中、多くの地方衛生研究所におけるP3実験室等の整備状況は不十分であり、感染症の現実と乖離していると考えられる。対策強化
のためにも、P3実験室の一層の整備が緊急の課題である。

問題点:
感染症対策のうち、人に関わることは衛生部局が担当し、家畜及び家禽に関わることは農林水産部局が担当することになっている。しかし、家畜・家禽以外で病気の媒介及び伝搬に重要な役割を果たす動物に関わる担当部局が明確でない問題点がある。

関連資料:
京都府保健環境研究所年報 第49号、1~4(2004)