No.1176 保育所での腸管出血性大腸菌O26とノロウイルスの複合感染事例

[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性感染症
登録日:2016/03/08
最終更新日:2016/05/27
衛研名:島根県保健環境科学研究所
発生地域:島根県
事例発生日:2005年1月
事例終息日:
発生規模:
患者被害報告数:有症者数 55名
死亡者数:0名
原因物質:EHEC O26:H11(VT1)、Norovirus GII/4
キーワード:EHEC O26:H11(VT1)、Norovirus GII/4、複合感染、集団感染、

背景:
2004年12月中旬から県内の複数の施設でノロウイルスによる集団発生事例が認められ、本事例もその最中に発生した。

概要:
2005年1月、A保育所(園児72名、職員12名)の乳幼児21名が下痢、嘔吐の症状を呈し欠席しているとの通報があり、保健所が調査した結果、発症者は通報までの4日間で28名に上っていて、複数の園児の家族にも同様の症状を呈する者が認められたが、職員に有症者は認められなかった。また、患者の発症時間に幅があることからウイルスあるいは細菌による感染症が疑われた。最初に把握された有症者のうち園児16名、家族6名の便についてリアルタイムPCR法あるいはRT-PCR法にてNorovirus(NV)検査を実施したところ園児14名、家族6名からNV GIIを検出した。さらに園児1名と職員4名を加えた27名について行った細菌検査の結果、園児6名、家族3名からEHEC O26:H11(VT1)を分離したため、園児と職員全員、症状のあった家族およびO26患者家族、計88名についてO26の検査を実施した。その結果、新たに園児1名(有症)、家族2名(健康)からO26:H11(VT1)を分離した。なお、検食および調理室、保育室、トイレの拭き取り細菌検査を実施したが、すべて陰性であった。
初発でO26とNVが検出された園児の発症日以降に嘔吐または下痢があった者を患者と定義すると有症者は約2週間認められ、有症者数は園児35名、家族20名、計55名であった。なお、園児5名と家族3名からO26:H11(VT1)とNV GIIの両方を検出した。保育所のクラスはほぼ年齢別に5つに分かれており、クラスによって発症率、検出率に差はあるものの発症日のピークにクラスによる偏りはなく、複数のクラスでほぼ同時に感染が広がったものと思われる。O26、NVの検出の有無と発症日との間に関連は認められなかった。また、O26、NV検出の有無と臨床症状との関係を検討したが、園児でO26陽性者が発熱の頻度が高かった以外差は認められなかった。さらに家族内感染と推定される例を11例認めたが、1例を除き家族に先行して園児が発症しており二次感染と考えられた。
分離したEHECO2612株のパルスフィールド・ゲル電気泳動パターンはすべて一致しており、また、検出されたNVは遺伝子解析の結果GII/4型であり、G2SKF/Rプライマーを用いたPCR増幅産物の一本鎖高次構造多型解析(SSCP解析)像が一致したことからEHEC、NVいずれの感染も保育所を感染拡大の場とした同一の株による感染事例と考えられた。

原因究明:
なし

診断:

地研の対応:
保健所経由で搬入された保育所園児、職員、有症者家族計115名の便の細菌検査、検食および調理室、保育室、トイレの拭き取り細菌検査、O26陽性者の陰性化確認検査、有症の園児および家族計22名のウイルス検査

行政の対応:
10日間の給食の自粛、シャワー室等施設内の消毒指導、保護者への感染予防に関する説明会

地研間の連携:

国及び国研等との連携:
EHEC O26分離株12株のパルスフィールド・ゲル電気泳動によるパターン解析を依頼

事例の教訓・反省:
NV流行期であり、臨床症状からもNV感染が疑われる事例であったが、細菌検査を実施してはじめてO26との複合感染が判明した稀な事例であった。今後はこのような事例もあることを念頭に置き、検査をおこなう必要がある。

現在の状況:

今後の課題:

問題点:

関連資料:
1) 飯塚節子、他;保育所での腸管出血性大腸菌O26とノロウイルスの複合感染事例ー島
根県.病原微生物検出情報,26, 6, 147~148, 2005
2) Setsuko Iizuka, et al: An Outbreak of Mixed Infection of Enterohemorrhagic Escherichia coli O26:H11 and Norovirus Genogroup II at a Kindergarten in Shimane, Japan. JJID, 58, 5, 329~330, 2005