No.1192 仕出し弁当を原因とする毒素原性大腸菌食中毒

[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性食中毒
登録日:2016/03/08
最終更新日:2016/05/27
衛研名:東京都健康安全研究センター
発生地域:千葉県船橋市 他
事例発生日:2004年8月10日
事例終息日:2014年8月16日
発生規模:572名(調査を実施した喫食者数)
患者被害報告数:133名
死亡者数:0名
原因物質:毒素原性大腸菌O169
キーワード:毒素原性大腸菌、ETEC、食中毒、仕出し弁当

背景:
毒素原性大腸菌(ETEC)は発展途上国・地域の下痢症の主要病原菌である。そのため、これらの地域への旅行者にみられる旅行者下痢症の原因菌として本菌は最も多く検出されている。わが国における病原大腸菌による食中毒事例のなかでは、ETECによる発生件数がもっとも多い。原因食品の特定は困難な場合が多いが、最近の傾向としては集団給食、仕出し弁当などが推定される大規模な事例が増加している。その主要な血清型はO169、O25、O148などである。

概要:
船橋市内の病院職員が2004年8月11日深夜より下痢・腹痛等の食中毒様症状を呈し、患者検便の結果、病原大腸菌が検出された旨、同病院の医師から同月17日に船橋市保健所に届出があった。患者の共通食は10、11日に喫食した仕出し弁当(東京都江戸川区内で調製)であったため、同月18日に船橋市保健所から東京都を通じ、江戸川区江戸川保健所に調査依頼があった。
当該施設に立ち入り、食品の取扱い状況等の調査を行い、検食等の収去検査、施設のふき取り検査、検便を実施したところ、従業員ふん便から毒素原性大腸菌O169が検出された。当該施設では10日、11日に合計5,851食の仕出し弁当を延べ539グループに提供していた。このうち572名を調査したところ、133名が下痢、腹痛等を呈しており、発症者61名のうち38名のふん便から毒素原性大腸菌O169が検出された。なお、発症者の共通食はこの仕出し弁当のみである。

原因究明:
食品および当該施設のふき取り計44検体の細菌検査を行ったが、いずれからも特記すべき食中毒起因菌は検出されなかった。発症のピークが11日および12日であることから、8月10日および11日の仕出し弁当の副食が原因食品として最も疑われた。そこでカイ2乗検定を行ったが、メニューを特定できるような有意差は得られなかった。また、10日、11日の両日ともこの仕出し弁当の副食を喫食している者が多数いたことから、どちらの日の副食が原因食品かの特定もできなかった。

診断:
食品および施設のふき取り検査はすべて食中毒起因菌陰性であった。検便を実施した患者61名のうち38名、従業員36名のうち14名のふん便から毒素原性大腸菌O169
(ST産生)が検出された。

地研の対応:
センターにおいて食品(検食)、ふき取り、従業員ふん便について食中毒起因菌の検査を行った。

行政の対応:
原因施設を管轄する江戸川区江戸川保健所は、仕出し弁当を調製した当該施設に対し、5日間の営業停止処分と施設および取扱改善命令をおこなった。

地研間の連携:
千葉県衛生研究所と検出された菌についての情報交換をおこなった。

国及び国研等との連携:
当センターから感染症情報センターに、食品に起因する流行・集団発生の情報として計上した。

事例の教訓・反省:
食中毒調査では迅速な対応、正確な調査が要求されるが、本件の場合は、行政への通報が患者発症日から1週間経過しており、必要な公的調査情報の確認に日数を要した。また、仕出し弁当屋という営業業態の性質上、食品の配達範囲が(行政の管轄区域を越えて)広域にわたることが多い。このような事例においては、発症状況や喫食状況等の調査に際し、関係自治体間の強い連携協力が必要となる。

現在の状況:

今後の課題:
限られた時間や情報の中で食中毒か否かの判断をし、被害拡大防止に必要な措置をおこなうため、正確な調査や情報収集、的確な判断、迅速な対応が今後も要求される。このためにも他府県の自治体や各関係機関と共通の認識を持ち、情報交換を密にし、連携を図りながら対応していくことが重要である。また、同様事件の未然防止を図るため、感染源を特定するための調査、研究が必要である。

問題点:

関連資料: