No.1244 仕出し弁当を介したA群溶血性レンサ球菌による集団感染事例

[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性食中毒
登録日:2016/03/08
最終更新日:2016/05/27
衛研名:相模原市衛生試験所
発生地域:相模原市
事例発生日:2005年7月31日
事例終息日:
発生規模:425名(イベント参加者489名のうちの喫食者数)
患者被害報告数:269名(発症者数)
死亡者数:0名
原因物質:A群溶血性レンサ球菌
キーワード:A群溶血性レンサ球菌、食中毒、集団発生、発熱・咽頭痛、咽頭ぬぐい液

背景:
A群溶血性レンサ球菌は、咽頭痛や発熱などの風邪様症状を呈し、飛沫感染により伝播する感染症であるが、時に食品を介し、経口感染により集団発生を引き起こすことがある。過去、国内における集団感染の報告は数件あるが、食中毒と断定できなかった集団有症事例も報告されている。腸管系で増殖する微生物だけでなく、呼吸器系で増殖する本菌でも食中毒の原因となり得ることを念頭におく必要があるだろう。

概要:
平成17年7月末に、市内の医療機関関連施設で開催されたイベントで配布された弁当を介し、イベント参加スタッフがA群溶血性レンサ球菌に集団感染したものである。
1)イベント開催日 2005年7月30日~31日
2)喫食者 425名(イベント参加スタッフは約489名)
3)発症者 269名(うちA群溶血性レンサ球菌検出者数 69名
4)従業員数 19名(うちA群溶血性レンサ球菌検出者数 7名;調理時に体調不良を訴えた者はいなかった)
5)主な症状 発熱(38℃程度)、咽頭痛
6)共通食 7月31日の弁当

原因究明:
イベント開催日両日に配布された弁当の保存食、弁当調理前食材、31日配布の開封済み弁当残品(開封品のため参考品扱い)、31日に同食堂内で提供されたメニューの保存食、調理場のふき取り液及び調理従事者便について、食中毒菌の検査を実施した。検体数については下記に示す。
このうち、イベント開催日両日に配布された弁当の保存食、弁当調理前食材、31日配布の開封済み弁当残品及び31日に同食堂内で提供されたメニューの保存食については、神奈川県衛生研究所へA群溶血性レンサ球菌の分離及び血清型別検査を含む同定検査を依頼した。併せて、医療機関より分離された発症者8名と調理従事者3名の菌株についてもA群溶血性レンサ球菌の血清型別検査を依頼した。
食中毒菌検査検体数(カッコ内はA群溶血性レンサ球菌検査検体数)
30,31日弁当保存食 14(11)
弁当調理前食材 7(2)
31日開封済み弁当残品 8(5)
31日同食堂内で提供されたメニュー保存食 3(3)
調理場ふき取り液 15(0)
調理従事者便 19(0)

診断:
神奈川県衛生研究所へ検査依頼を行った食品21検体のうち7検体(31日弁当保存食2検体、31日に同食堂で提供されたメニューの保存食1検体、31日開封済み弁当残品4検体)から溶血性レンサ球菌が検出され、血清型は全てT25型であった。また、血清型別検査を依頼した11菌株については、10検体がT25型、1検体が型別不能であった。
一方、当所で実施した食中毒検査については、食品9検体(31日弁当保存食1検体、弁当調理前食材1検体、31日開封済み弁当残品7検体)から黄色ブドウ球菌が検出されたが、すべてエンテロトキシン非産生であった。

地研の対応:
保健所生活衛生課からの依頼に基づき、原因究明のため食中毒指定菌について、細菌検査を実施した。A群溶血性レンサ球菌については、神奈川県衛生研究所に検査を依頼した。

行政の対応:
当初、保健所は集団感染症、食中毒の両面で調査を開始したが、発症者の共通食が本イベントで配布された弁当のみであること、発症者の症状が共通していること、発症日時のピークが単一暴露によるものと考えられることなどの疫学調査結果から、食中毒として対応した。後日、検査により発症者及び調理従事者の咽頭ぬぐい液から同一血清型のA群溶血性レンサ球菌(T25型)が検出された。事例の概要については、保健所生活衛生課より厚生労働省へ報告した。

地研間の連携:
平成18年2月に開催された「平成17年度地研全国協議会関東甲信静支部細菌部会」にて報告。

国及び国研等との連携:

事例の教訓・反省:
本事例では、調査対象者の咽頭拭い液については、採取が医療行為となるため、医療機関の協力の元では発症者の検体しか採取することができず、非発症の調理従事者や喫食者についての検査ができなかったことで、被害の拡大規模が正確に把握できなかった。
また、他地研にA群溶血性レンサ球菌の検査を依頼したため、検体数を限定せざるを得ず、全ての食品について検査を行うことができなかった。

現在の状況:
当所でのA群溶血性レンサ球菌検査実施に向けて整備を行っている。

今後の課題:
本事例は、イベント開催が医療関係機関であったため、発症者の検査は当該機関で行い、早期に群溶血性レンサ球菌が原因菌と推定できた稀な事例であった。今後咽頭痛、発熱症状を呈する集団発生事例では、本菌による食中毒の可能性も考慮し、調査や検査を行う
必要があると思われる。

問題点:
食品調理従事者に対し、A群溶血性レンサ球菌による食中毒の発生が起こりうることを広く啓発していく必要があるだろう。また検査においても、状況に応じ食中毒指定菌以外の原因菌も念頭において検査を行う必要があるだろう。しかし、検体となる咽頭拭い液の採取は医療行為にあたるため、感染症対策担当課と連携し、医師による採取ができる体制を整えておくなど、検討する必要があると思われる。

関連資料:
1)田向香織 他:オープンキャンパスの仕出し弁当によるA群溶血性連鎖球菌の食中毒事例.第18回地研全国協議会関東甲信静支部細菌研究部会抄録:4(2006年度)
2)林さやか 他:A群溶血性連鎖球菌による食中毒事例について.平成18年度衛生監視員等研究発表会抄録:2(2007年度)