[ 詳細報告 ]
分野名:ウィルス性感染症
登録日:2016/03/08
最終更新日:2016/05/27
衛研名:茨城県衛生研究所
発生地域:茨城県水海道市(現:常総市)他
事例発生日:2005年6月27日
事例終息日:2006年6月23日
発生規模:40農場(殺処分:約326万羽、監視対象:約240万羽)
患者被害報告数:なし
死亡者数:0名
原因物質:高病原性鳥インフルエンザAウイルス(H5N2亜型)
キーワード:高病原性鳥インフルエンザAウイルス(H5N2亜型)、養鶏場
背景:
アジア地域における高病原性鳥インフルエンザ(以下HPAI)は近年では1997年に香港において発生が見られ、その後21世紀に入り2004年1月にわが国において80年振りに発生が見られた(H5N1亜型)ことは記憶に新しいところである。一方で、家畜伝染病予防法で定められるHPAIに属するものの病原性が低いウイルス(H5N2亜型)も存在する。今回茨城県において発生したウイルスは後者に属するものであり、ヒトに対する健康被害の知見が乏しく大変な不安があった。
概要:
2005年6月にウイルスが分離されて以来、感染が確認された養鶏場は40養鶏場に達し、うち9養鶏場でウイルスが検出された。防疫作業期間は約8箇月に及んだため,防疫作業に従事した者の健康管理の難しさが浮き彫りとなった。また、国立感染症研究所が実施した発生養鶏場従業員の血清抗体検査において、養鶏場従業員が高病原性鳥インフルエンザ(H5N2)に感染した可能性が示唆された。しかし、家きんとの接触歴のない防疫作業者に高い抗体価がみられたなど、疑問点があることから、県では、「H5N2鳥インフルエンザヒト感染調査検討委員会」を設置し、ヒトへの感染の有無について検討した。当所では、独立行政法人動物衛生研究所からH5N2亜型ウイルスの分与を受け、感染した鳥との接触のない者(県内166人及び県外100人)を対象に、本人の同意を得て血清抗体検査(中和抗体法)等を実施した。
原因究明:
当県で分離されたウイルス(H5N2亜型)は、国に設置された「高病原性鳥インフルエンザ感染経路究明チーム」の調査から、遺伝学的性状が中南米において流行している株と近縁であることが報告された。しかし、感染経路については当該ウイルスが渡り鳥等による偶発的な伝播によるものではなく、人為的な行為により持ち込まれた可能性が示唆さたが,未だ不明のままである。
診断:
原因ウイルスは動物衛生研究所において分離された。赤血球凝集抑制試験、ならびにノイラミニダーゼ抑制試験によりH5N2亜型であると同定された。また、RT-PCR法により増幅されたHA遺伝子の解析により、HA1およびHA2ドメインの開列部位におけるアミノ酸配列は弱毒型のHAであることが示された。
地研の対応:
2005年、発生養鶏場従業員等のインフルエンザウイルス検出検査(RT-PCR法)を実施した。
2006年、ヒトへの感染の有無について検討するため、感染した鳥との接触のない者(県内166人(農業従事者:58人、農業非従事者:56人、未発生養鶏場従業員:52人)及び県外100人)の血清抗体検査(中和抗体法)等を実施した。さらに、抗インフルエンザウイルス薬(リン酸オセルタミビル)が中和抗体検査法に与
える影響についても同時に検討した。
行政の対応:
茨城県高病原性鳥インフルエンザ対策本部を設置するとともに、保健福祉部では健康危機管理対策委員会等を開催し、国立感染症研究所や県内の感染症専門家、労働衛生専門家及び保健所長などの参加を得て、対策の検討を行った。
保健福祉部では、ヒトへの感染防止を最大の主眼として、発生養鶏場の従業員等の健康調査や防疫作業者の健康調査等を実施した。
また、2006年3月、ヒトへの感染の有無について検討するため、「H5N2鳥インフルエンザヒト感染調査研究委員会」を設置し、一般集団におけるH5N2亜型インフルエンザウイルスに対する血清抗体価(中和抗体法)を把握するとともに、抗インフルエンザウイルス薬(リン酸オセルタミビル)が中和抗体価に与える影響について検討した。
地研間の連携:
特になし
国及び国研等との連携:
2005年、発生養鶏場従業員等の血清抗体検査(中和抗体検査)を国立感染症研究所に依頼した。
2006年、感染した鳥との接触のない者の抗ウイルス感染価を中和抗体法により測定するため、国立感染症研究所ウイルス第三部の技術的指導を受けた。
事例の教訓・反省:
発生養鶏場従業員からペア血清で抗体陽性者が見られたことは、高病原性鳥インフルエンザ(H5N2)のヒトへの感染の可能性が示唆されたものであり、養鶏場従業員等への通常時の感染対策(専用の作業服、マスク、帽子、手袋及び長靴の着用)の徹底が望まれる。
当所における検査体制については、国の決定を受けてから開始したため、準備に時間がかかったことが反省点である。常日頃から危機管理対策にはアンテナを巡らせ、いつでも対処できるよう準備を怠らないようにすることが肝要である。
現在の状況:
本県における「高病原性鳥インフルエンザ発生時における対応マニュアル」の改正
今後の課題:
H5N2インフルエンザウイルスに対する抗体測定法の判断基準は未だもって確立されておらず、高病原性鳥インフルエンザ(H5N2)のヒトへの感染の有無については、今回の調査からは結論を出すことはできなかった。これは病原体がヒトから未だ分離されていないこと等によるものであるが、同様のケースが起きた際に迅速に対応できるよう、またはっきりと感染の有無を判断出来るだけの知見の蓄積が急務である。
問題点:
関連資料:
・茨城県におけるH5N2鳥インフルエンザヒト感染調査の結果について(茨城県保健予防課HP)
http://www.pref.ibaraki.jp/bukyoku/hoken/yobo/kansen/tori-influenza/hito-kansen-cyousa-kekka/teikyou-shiryou-all.pdf