[ 詳細報告 ]
分野名:ウィルス性感染症
登録日:2016/03/08
最終更新日:2016/05/27
衛研名:東京都健康安全研究センター
発生地域:東京都
事例発生日:2007年3月25日
事例終息日:2007年5月12日
発生規模:
患者被害報告数:241名
死亡者数:0名
原因物質:麻しんウイルス
キーワード:大学、麻しん、集団発生、集団接種
背景:
都内では平成19年5月~6月を中心に大規模な麻しん流行がみられた。特に成人麻しんはサーベイランス開始の1999年以降で最も報告数が多く、ピークの第21週(5/21~5/27)には1.08人/定点だった。都の独自調査(対象期間は平成19年1月~7月22日)によれば、麻しん患者2人以上が発生した施設数はのべ440か所で、その中の患者数は計2,763人だった。施設数では高等学校が110か所(25.0%)、患者数では大学が1,065人(38.5%)と多かった。これらの事例から分離された麻しんウイルスはD5型であり、遺伝子系統樹解析の結果、過去にわが国で流行したウイルスと同じグループに分類された。
概要:
平成19年4月16日、管内医療機関および大学保健センターから保健所に連絡があり、同一大学(全校生徒9,154名、教職員304名)の学生10数名が麻しんと判明。入寮していた新1年生が中心であった。4月17日時点で学生35名、教員1名の発症を認めたため、大学側は4月18日から5月6日までの19日間を全学休講とし、さらに4月20日から、学生、教職員の未罹患者全員を対象としたワクチン集団接種を開始し、大学保健センターで計5,242名に投与した(これとは別に、他の医療機関での接種818名)。5月5日の発症者を最後に以降の患者発生は見られなかった。寮生の発症者中、過去の接種歴ありは50%、接種歴なしは40%、接種歴不明が10%であった)
原因究明:
初期の症例群は入寮していた新1年生を中心としており、寮内から学内に拡大していったと考えられた。
診断:
本事例の検体ではないが、都内で同時期に発生した他の複数の集団発生事例から分離された麻しんウイルスはD5型で、遺伝子系統樹解析の結果、過去にわが国で流行したウイルスと同じグループに分類された。
地研の対応:
都内の麻しん流行状況を把握する目的で、4月中旬より麻しん患者2人以上が発生した施設について各保健所から週単位で報告をもらい、集計・解析を行った。また、流行している麻しんウイルスの遺伝子的特徴を把握する目的で、集団発生事例等から検体を収集し、RT-PCRおよび遺伝子系統樹解析を行った。本事例においては、保健所等と連携して疫学情報の収集に努めた。
行政の対応:
保健所は探知した時点で、大学側に37.5℃以上ある人は外出を控えさせること、麻しん流行の告知をした上での病院受診することを指導しており、休講措置についても大学側と協議を行った。ワクチン接種については、国立感染症研究所からの助言を元に決定された。
地研間の連携:
流行状況や流行株に関するパーソナルな情報交換
国及び国研等との連携:
感染症検査情報オンラインシステムを通じて、国立感染症研究所ならびに各地方衛生研究所の検査情報について、情報交換を実施している。
事例の教訓・反省:
本事例の初期の症例群は新1年生を中心としており、入学前のワクチン接種歴確認をルーチンに行うことを検討すべきと考えられた。
現在の状況:
国レベルで2008年1月からの全数サーベイランス体制への移行が予定されている(2007年11月現在)。
今後の課題:
本事例では、発生時期が比較的早かったこともあり必要量のワクチン確保が可能であったが、ワクチンの確保と費用負担、人的資源の確保およびその迅速な対処が今後も課題となりうる。
問題点:
検体収集、詳細な疫学調査を含めた、行政-施設間のコミュニケーションの強化
関連資料:
1.創価大学における麻疹対応、宮澤裕ほか(創価大学保健センター)、IASR Vol. 28 p247-249:2007年9月号