[ 詳細報告 ]
分野名:化学物質による食品汚染
登録日:2016/03/08
最終更新日:2016/05/27
衛研名:横浜市衛生研究所
発生地域:横浜市中区
事例発生日:2006年9月3日
事例終息日:2007年1月30日
発生規模:7名
患者被害報告数:7名
死亡者数:0名
原因物質:油脂の酸化物
キーワード:乾パン、食中毒、油脂の酸化物、酸価、過酸化物価
背景:
2006年9月に防災訓練で配布した乾パンによる食中毒が発生した。
概要:
2006年9月3日(日)に区役所で、防災訓練に参加した市民に約3,200人分の乾パンを配布した。その後、乾パンを食べた市民から下痢症状を呈した旨、及び油臭が強いとの苦情が寄せられた。苦情者のうち、症状が重く、受診して食中毒と診断された1名の方が食べ残した乾パンを検査したところ、酸価14mg/g、過酸化物価360meq/kgと高い値であった。その後、町内会を通じ、配布した乾パンを食べないように、また、症状のある方は申し出るように、広報したところ、被害者は計7名となった。
原因究明:
1 検査方法
試料をジエチルエーテルで抽出、濃縮し、得られたエーテル可溶分について、衛生試験法・注解(2000)1)に従って、酸価及び過酸化物価の検査を行った。
2 検査結果
食中毒関連の検査は乾パン11検体を行った結果、酸価は1.0~14mg/gであり、過酸化物価は9~360meq/kgであった。乾パンは脂肪分が5%前後で油菓子には該当しないが、油菓子の指導要領の基準値2)を超えるものは5検体であった。
また、当所での原因究明関連の検査は4箇所の防災用倉庫などに保管されていた一斗缶4缶(1缶は64袋入りで、1袋は5枚入り)のうち18袋30検体(同一袋内の検体も含む。)を行った。酸価は15検体について行ったが、1.1~2.3mg/gで基準値を超えるものはなかった。過酸化物価は30検体について行い、13~115meq/kgで、50meq/kgを超えるものは11検体であった。
基準を超えていた乾パンはいずれも同一メーカーであり、製造後約4年6か月が経っていたが、賞味期限(5年)は過ぎていなかった。乾パンは一斗缶に入れられ、直射日光の入らない空調施設のない倉庫に室温で保管されていたが、合成樹脂製の袋に入った乾パンの中には脱気不良品が一部発見された。福祉保健センターが製造所を所管する自治体の保健所に製造所の調査を依頼したところ、4年前に当時の乾パンを製造した工場は取り壊され、製造記録等は残っておらず詳細な調査は行えなかった。今回の調査から、酸化の原因が製造上のものか、保存中によるものかの判断はできなかった。
診断:
地研の対応:
2006年9月6~15日に、食中毒と診断された人並びに異常を訴えた人の食べ残し、配布した残品、保管してあった乾パンなどの検査依頼があり、食中毒関連の調査としてこれらの乾パンの酸価及び過酸化物価の検査を行った。
また、2006年10月4~5日に区福祉保健センターからの依頼による原因究明の調査として、配布した乾パンを保管していた倉庫のもの、他の倉庫に保管されたもの並びに他のメーカーの乾パンについても検査を行った。
行政の対応:
町内会を通じ、配布した乾パンを食べないように、また、症状のある方は申し出るように広報した。さらに、乾パンによる食中毒事例をマスコミに公表することにより、市民に危険性の周知等を図った。
地研間の連携:
なし
国及び国研等との連携:
なし
事例の教訓・反省:
なし
現在の状況:
特になし
今後の課題:
問題点:
乾パンの酸化の原因が製造上の要因か、保存中の要因によるものか究明ができなかったこと。
関連資料:
1)衛生試験法・注解(2000),p198~200,金原出版,2000
2)厚生省環境衛生局長通知(菓子の製造・取扱いに関する衛生上の指導について)油菓子において、製品中に含まれる油脂の酸価が3を超え、かつ過酸化物価が30を超えないこと。又は、製品中に含まれる油脂の酸価が5を超え、又は過酸化物価が50を超えないこと。