[ 詳細報告 ]
分野名:化学物質による食品汚染
登録日:2016/03/08
最終更新日:2016/05/27
衛研名:大阪府立公衆衛生研究所
発生地域:大阪市
事例発生日:2008年4月
事例終息日:
発生規模:単発
患者被害報告数:1名
死亡者数:0名
原因物質:グリベンクラミド(推定)
キーワード:血糖降下薬、グリベンクラミド、サプリメント、いわゆる健康食品、医薬品成分
背景:
近年、インターネットの普及により、世界中から色々なものが購入できるようになり、いわゆる健康食品やサプリメント、処方箋の必要な医薬品や未承認の医薬品などもインターネット上で購入もしくは個人輸入などの形で簡単に入手することができてしまう時代になった。そのため無許可輸入販売として取り締まることも容易ではなくなった。厚生労働省では、それら問題のある医薬品成分のリストを作成して、個人輸入のような少量であっても輸入を止める対策(H17.3.31薬食監麻発第0331003号、H20.10.16薬食監麻発第1016003号)を取ったり、HPなどで注意喚起を行っている。しかし、これらによる健康被害は多数報告されており、報告されない例ははるかに多いものと推定される。
概要:
大阪市内医療機関から健康食品の服用によると疑われる健康被害の情報が大阪市健康福祉局にあった。患者はインターネットサイトにおいて購入したサプリメントを服用し、冷汗、手指が冷たくなる症状がでてきたため、医療機関を受診し、低血糖の精査、加療目的のため9日間入院後、回復し退院した。医療機関を通じて提供を受けた残品が大阪市健康福祉局、大阪府薬務課を通じて搬入された。当所で試験を行い、当該品から経口血糖降下剤成分グリベンクラミドおよび勃起不全治療薬成分シルデナフィルを検出した。
原因究明:
経口血糖降下剤成分グリベンクラミド122.7mg/capおよび勃起不全治療薬成分シルデナフィル7.7mg/capを検出した。従って、このサプリメントは「無承認無許可医薬品」であると判断された。
診断:
検出されたシルデナフィルは、通常使用量(25~50mg)に比べて僅かで、一方、検出されたグリベンクラミドの量は1回投与量(1.25~2.5mg)の50~100倍、1日最大使用量(10mg)の10倍であり、低血糖症状はこのサプリメントの服用によるものと強く疑われる。
地研の対応:
残品の量はわずかであったが、患者が服用したサプリメント(「男根増長素」)での被害が、広島県(H20.2.24発表)、郡山市(H20.2.29発表)、埼玉県(H20.3.11発表)で発生していたので、分析可能と判断し、従前から行っている方法により分析した。より同定を確実なものとするため当所の食品化学課に応援を求めLC/MSによる分析も行った。
行政の対応:
大阪市健康福祉局、大阪府健康福祉部薬務課と連携して対応した。大阪市はH20.5.1、H20.5.7に報道発表してHPにおいて注意喚起を行っている。
地研間の連携:
今回の事例においては特にない。無承認無許可医薬品の調査においては、新規アナログなどを検出した場合など国立医薬品食品衛生研究所と連携したり、全国衛生化学技術協議会年会での情報交換を行ったりしている。
国及び国研等との連携:
厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課
事例の教訓・反省:
薬事法上の権限委譲の関係で試験の依頼文書を大阪市健康福祉局、大阪府薬務課のいずれに求めるのか悩んだ。結果的に大阪市→大阪府→衛研の形とした。
現在の状況:
LC/PDA
今後の課題:
今回、緊急時でありLC/MSでの分析を当所食品化学課に依頼した。同課のLC/MSは、ほぼフル稼働しており、かなり無理な状況下で対応してもらった。今後、医薬品成分のアナログなどに対応した検討を行ったり、日常検査を行うためには薬事部門にもLC/MSが必要であり、特にアナログの構造決定という面からは精密質量の測定できる装置(IT-TOF)等が必要であると考える。
問題点:
今回の事件の原因食品「男根増長素」は個人輸入を代行するというインターネット上の海外サイトで今なお宣伝されており、取り締りが非常に難しいことが伺える。
関連資料:
1) 土井崇広、梶村計志、高取聡、田口修三、岩上正藏:グリベンクラミドとシデルナフィルが検出された健康食品について,大阪府立公衆衛生研究所研究報告, 46,55-60(2008)
2) 医薬品成分(シルデナフィル及び類似成分)が検出されたいわゆる健康食品について(厚生労働省HP)
http://www.mhlw.go.jp/kinkyu/diet/other/050623-1.html
3)医薬品成分(グリベンクラミド)が検出されたいわゆる健康食品について(厚生労働省HP) http://www.mhlw.go.jp/kinkyu/diet/other/030414-1.html
4)インターネットで購入した無承認無許可医薬品による健康被害の疑いについて(大阪市HP)http://www.city.osaka.jp/kenkoufukushi/new/080502.html
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