No.1424 VOC成分が原因と疑われた酒精綿の異臭

[ 詳細報告 ]
分野名:その他
登録日:2016/03/08
最終更新日:2016/05/27
衛研名:福岡県保健環境研究所
発生地域:福岡県、長崎県
事例発生日:2008年2月21日
事例終息日:2008年3月4日
発生規模:
患者被害報告数:0名
死亡者数:0名
原因物質:VOC成分(エチルベンゼン、キシレン)
キーワード:酒精綿、異臭、揮発性有機化合物(VOC)、GC/MS

背景:
消毒用のアルコール綿(酒精綿)は医薬品及び医薬部外品として複数のメーカーから販売されており、医療現場で広く使用されている。今回の事例は病院で使用時に開封された酒精綿に明らかな異臭が認められたものである。

概要:
平成20年2月21日、福岡市内の病院から「購入した酒精綿を開封したところ異臭がした」との苦情が福岡市に寄せられた。同製品は国内メーカーが中国の工場で製造した医薬部外品であり、同様の苦情が長崎県でも寄せられていた。メーカーは民間の検査機関に成分検査を依頼したが「、他の薬剤が混入した事実はない」との結果であり、原因は不明のままであった。2月25日に検体が搬入され、本研究所で臭気を確認したところ、苦情品からは鉱物油のような異臭を認めた。GC/MSで分析を実施したところ、2月26日にVOC成分と疑われるピークが検出された。そこで、揮発性有機化合物(VOC)の混入が疑われたため、VOCの分析を行った。酒精綿中のVOC成分の抽出には固相マイクロ抽出(SPME)法とヘッドスペース法を用い、ガスクロマトグラフ/質量分析計(GC/MS)で測定を行った。その結果、苦情品からはエチルベンゼン及びキシレンが検出され、これらのVOC成分が異臭の原因と関連があることが推測された。

原因究明:
苦情品と同じロットの製品が3検体、苦情品と同じ製品でロットの異なる製品がコントロールとして1検体の合計4検体が搬入された。検体の開封直後に臭気の有無を確認したところ、苦情品からは強い異臭が認められた。
まずGC/MS(SCANモード)で原因物質の探索を行った。製品の主成分であるエタノール、イソプロパノール、グリセリン等はすべての製品から検出され、苦情品のうち、特に異臭の強かった2検体からはVOC成分と思われるピークが検出された。そこでGC/MSのカラムをVOC分析用のものに交換し、GC/MS分析(SCANモード)を行った。酒精綿中のVOC成分の抽出には固相マイクロ抽出(SPME)法とヘッドスペース法を用いた。苦情品からはエチルベンゼン及びキシレンとスペクトル及び保持時間が一致するピークが検出された。GC/MS分析(SIMモード)で定量及び確認を行った結果、苦情品から検出されたVOC成分の濃度はエチルベンゼン(0.053~0.062μg/g)、m, p-キシレン(0.021~0.025μg/g)、及びo-キシレン(0.0062~0.0067μg/g)であった。
念のため有機リン系農薬の分析も実施したが、いずれの検体からも検出されなかった。またSCAN測定においても農薬と疑われるピークは検出されなかった。
以上の結果から、エチルベンゼン及びキシレンが酒精綿の異臭の原因であるとまでは断定できないが、原因物質と何らかの関連があるのではないかと考えられた。

診断:
苦情品とコントロールを比較したところ、異臭の強かった検体からはエチルベンゼン(0.053~0.062μg/g)、m, p-キシレン(0.021~0.025μg/g)、及びo-キシレン(0.0062~0.0067μg/g)が高濃度に検出された。

地研の対応:
平成20年2月22日に県薬務課から酒精綿の異臭原因について調査依頼があり、当研究所で分析を行うこととした。2月22日に検体が搬入され、2月25日に、担当する課だけでなく、異臭分析の経験を持つ環境部門の担当者も加わって該当製品の臭気を確認した。2月25日にGC/MS分析を開始し、苦情品からVOC成分を検出した。2月25日に念のため農薬についても分析を行い、農薬が検出されないことを確認した。

行政の対応:
平成20年2月21日17時40分に福岡市から県薬務課に本件について情報提供があり、同日17時54分、県薬務課が病院やメーカーと連絡を取ったところ、(1)製品は中国の工場で製造したものであり、長崎県でも同様の苦情があったこと、(2)メーカーが民間の検査機関に検査を依頼したが原因不明であったこと、が判明した。そこで原因究明のため本研究所で分析を行うこととなった。分析の結果、苦情品からVOC成分が検出され、福岡県からメーカー(製造販売業者)を管轄する自治体に対し、薬事法第60条(第56条)違反の疑いとして通報を行った。
なお、当該製品は2月25日にメーカーによる自主回収が発表された。

地研間の連携:
特になし

国及び国研等との連携:
特になし

事例の教訓・反省:
原因不明の苦情に迅速に対応するためには、他の部門の担当者とも連携し、様々な方面から検証を行う必要がある。

現在の状況:
VOC分析のために、VOC標準品及びVOC分析用カラムを整備している。

今後の課題:
突発的な健康危機事例や苦情等に対応するためには、常日頃から幅広い情報を収集し整理しておくこと、また他部門との連携を強化しておくことが必要である。

問題点:
VOC成分が検出されたが、それが異臭の原因物質であるとは断定できず、詳細な原因は不明であった。

関連資料:
苦情酒精綿中に検出された揮発性有機化合物成分、新谷依子ほか、第45回全国衛生化学技術協議会年会講演集、213-214(2008)