No.1443 ノロウイルスとサポウイルスによる複合感染事例

[ 詳細報告 ]
分野名:ウィルス性食中毒
登録日:2016/03/08
最終更新日:2016/05/27
衛研名:島根県保健環境科学研究所
発生地域:
事例発生日:2008年6月6日
事例終息日:2008年6月9日
発生規模:
患者被害報告数:38名
死亡者数:0名
原因物質:ノロウイルス、サポウイルス
キーワード:ノロウイルス、サポウイルス、複合感染、食中毒、二枚貝、系統樹1解析

背景:
遺伝子学的検査法の開発により、従来、乳幼児の感染性胃腸炎の原因ウイルスとして知られていたサポウイルス(SaV)による成人を含めた集団感染事例が散見されるようになった。一方、河川水、シジミといった環境中からのサポウイルス検出1),2)が報告されるようになり、ノロウイルス(NV)と同様の感染経路によるサポウイルスを原因とする食中毒の発生が危惧されていた。

概要:
2008年6月6日に松江市内の飲食店で食事をした3グループ39名中30名と翌7日に同飲食店の仕出し料理を食べた1グループ11名中8名が胃腸炎症状を呈した。ふん便の検査をした有症者23名の臨床症状は下痢78.3%、嘔気・嘔吐60.9%、腹痛60.9%、発熱(37.5℃以上)26.1%であり、平均潜伏時間36.0時間であった。

原因究明:
検体採取が可能であった6日の2グループ19名(有症18名、無症1名)と7日の1グループ5名(すべて有症)のふん便について食中毒原因菌およびNV、SaVの検査をした結果、6日のグループ14名、7日のグループ4名からSaVおよびNV(G IおよびG II型)が検出された。内訳は6日のグループはSaVのみ検出7名、NVG Iのみ4名、SaVとNVGI 1名、SaVとNVG II 1名、NVG とGII1名、7日のグループはNVG Iのみ1名、SaVとNVG I 1名、SaVとNVG II 1名、SaVとNVGIとNVG II 1名である。保健所の聞き取り調査で6日の3グループに共通したメニュー“サーモンアサリのグラタン”が加熱不十分であったとの情報を得たことから、グラタンに使用された冷凍のむき身アサリが原因食品として疑われた。むき身アサリは1kg入りを9袋購入したもので、飲食店に残っていた未開封の3袋についてアサリ中腸腺および保存液を検査したところ、SaVあるいはNVを検出した。患者由来株とアサリ由来株の塩基配列の相同性は、SaV(Capsid領域の約400bp)は99.3~100%、NVG I(Capsid領域の約280bp)は98.6~99.7%、NVG II(Capsid領域の約280bp)は99.3%と極めて高かった。したがって、本事例は6日のグループが加熱不十分なむき身アサリの直接摂取、7日のグループはアサリを喫食しておらず、がアサリによって汚染された調理台や従事者の手指等を介した二次汚染を原因とする食中毒事例と考えられた。なお、調理従事者10名(無症)のふん便のウイルス検査の結果、1名からNVGII/4が検出されたが、患者およびアサリ由来株とは遺伝子型が異なることから事例の発生とは無関係と考えられた。

診断:

地研の対応:
患者、調理従事者、食材、施設の拭き取りの検査を実施し、原因物質および感染経路の解明を行った。主管課、保健所に対しSaVに関する文献情報を提供した。

行政の対応:
患者への聞き取り調査。患者・調理従事者のふん便、施設の拭き取り、推定原因食材の採取。施設に対する衛生指導を行った。

地研間の連携:

国及び国研等との連携:
患者、食材とも同一検体から複数種のウイルスが検出されたことから塩基配列の決定にはPCR産物のクローニングが必要であり、当所では技術的、施設的にクローニングができないため、クローニング以降の解析は国立感染症研究所に依頼した。また、SaVのリアルタイムPCRによる定量も国立感染症研究所に依頼した。ウイルス検出における二枚貝中腸腺の前処理法として有効だと報告のあるアミラーゼ処理法および細胞破砕法のプロトコールを国立医薬品食品衛生研究所から入手した。

事例の教訓・反省:
二枚貝関連の食中毒事例というとNVを原因物質と考え検査を実施するが、本事例のようにSaVとの混合感染もありうる。本事例では高発症率にもかかわらず、初回のNV検査で陽性率が低かったことから他の原因物質の可能性も考えてSaV等の検査を行った結果、複合感染が明らかとなった。検出ウイルスと症状の間には関係が認められず、二枚貝関連の食中毒の場合、本事例のような複合感染もあることからNV以外のウイルスの検索も行う必要がある。

現在の状況:
SaVのリアルタイムPCR検出系を導入予定。

今後の課題:
食品からのNV、SaV等の効率的な検出法の開発。

問題点:

関連資料:
厚生労働科学研究費補助金 食品の安心・安全確保推進研究事業“食品中のウイルスの制御に関する研究”平成20年度 総括・分担研究報告書 P207-217
参照文献
1) Hansman GS, Sano D, Ueki Y, Imai T, Oka T, Katayama K, Takeda N, Omura T. 2007.
Sapovirus in water, Japan. Emerg Infect Dis 13(1):133-135.
2) Hansman GS, Oka T, Okamoto R, Nishida T, Toda S, Noda M, Sano D, Ueki Y, Imai T, Omura T, Nishio O, Kimura H, Takeda N. 2007. Human sapovirus in clams, Japan. Emerg Infect Dis 13(4):620-622.