[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性食中毒
登録日:2016/03/08
最終更新日:2016/05/27
衛研名:埼玉県衛生研究所
発生地域:埼玉県を含む1都4県
事例発生日:2009年8月17日
事例終息日:2009年9月14日
発生規模:
患者被害報告数:29名
死亡者数:0名
原因物質:腸管出血性大腸菌
キーワード:STEC、O157、diffuseoutbreak、PFGE、チェーン店
背景:
近年、食品流通の広域化・複雑化に加え外食産業の大規模チェーン店化が進んでいる。そのため、食品を原因とする感染症(食中毒)において、患者発生が複数の自治体で散発的・広域的に見られることが多くなっている。また、感染性胃腸炎として重要な腸管出血性大腸菌(以下「STEC」)感染症は、発症菌量が少なく、そのほとんどが散発的な発生のため、原因施設や原因食品を特定することが容易でなく、食中毒としての立証が難しいこともある。このような場合、患者からの聞き取り情報に加えて、分離菌株の性状やPFGE解析等の菌株情報を総合的な疫学情報として用いることが有用とされている。従来のdiffuse outbreakは薬剤感受性や分離菌株のPFGE解析において一致あるいは類似する例が多かった。しかし、今回、ステーキチェーンの複数店舗での患者発生がdiffuse outbreakである疑いが濃厚であったにもかかわらず複数の解析パターンがみられた事例を経験した。
概要:
関東近県でチェーン展開し、埼玉県内に加工工場を持つステーキ店Sにおいて、STECO157:H7(VT1&2)による腸管出血性大腸菌感染症の患者発生があり、埼玉県内では患者20名と従事者3名を含む4名の保菌者の届け出があった。喫食日が判明した患者20名は8月17日~9月14日の間に発症しており、そのうち11名が9月1日~4日の4日間に発症していた。また、利用店舗は全部で11店舗で、そのうち6店舗では複数患者の報告があったが、残り5店舗は1名ずつであった。利用日は8月13日~30日で、30日が10名と最も多かった。保健所職員による聞き取り調査により喫食状況等の詳細な疫学情報が得られた患者16名は、ハンギングテンダーを原材料とする角切りステーキ等を喫食していた。これらの患者の症状は軟便のみであった1名を除き、下痢・腹痛があり、10名は血便を呈していた。患者の発生を受けて、各保健所では店舗への立ち入り調査を実施し、肉(参考品)、調理場フキトリ検体及び従事者便を採取し、当所において検査を行った。肉や拭き取り検体から当該菌は分離されなかったが、従事者検便では2店舗3名から分離された。また、当該チェーン店の加工工場において保存されていた原材料を外部検査機関に検査依頼したところ、8月9日加工分の肉からSTECO157(VT1)が分離された。
原因究明:
本事例の患者はいずれも、ハンギングテンダーを原材料とする角切りステーキ等を喫食しており、喫食日や発症日が一定の期間内に限られていることから、各店舗で提供された角切りステーキ等の食肉が原因食品と推定された。しかし、一部の店舗で複数の患者分離株のPFGEパターンが一致したものの、全体としては10パターンに分かれるなど分離株のPFGEパターンが複数認められたことや原料肉の原産国や仕入れ日と患者の発生状況が必ずしも一致しないこと、患者が喫食したメニューで使用された食材の残品が残っていなかったことなどから、本事例の原因の特定は困難であった。
診断:
地研の対応:
当所では、保健所が採取した肉や拭き取り検体及び患者家族や従事者便の検査を実施するとともに、届け出があった患者及び保菌者24名中23名の分離株を収集し、その性状を確認した。血清型及びベロ毒素型は、STECO157:H7(VT1&2)とすべて一致していた。薬剤感受性は供試12薬剤(CP,SM,TC,KM,ABPC,NA,CTX,CPFX,FOM,GM,NFLX,SXT)では、19株が感受性であり、3株がSM,TC耐性、1株がCP,SM,TC耐性であった。PFGE法では制限酵素Xba Iにより10パターンに分けられた。そのうち5パターンは複数株の集積が見られたが、残り5パターンは1株ずつであった。
また、患者が発生した近隣自治体の衛生研究所とE-mailによるPFGE画像の交換等を行い、情報収集に努めた。また、国立感染症研究所に菌株を送付し、パターンの多様性を確認するとともに、パルスネット上での全国の状況を確認した。
行政の対応:
各保健所により、患者の喫食調査及び各店舗の調査が行われた。また、複数の自治体に関連する事例であったことから、県食品安全課が情報の収集と調整を図った。その上で、食品健康被害情報分析部会を2回開催し、情報共有、検査結果の分析、営業者への対応等
を協議した。
地研間の連携:
国及び国研等との連携:
事例の教訓・反省:
患者の発生が複数の自治体に及び、STECO157:H7(VT1&2)によるdiffuse outbreakと思われたが、患者分離株の性状やPFGEパターンが多様性を示したことで、特定の原因によるものでなく、複数の汚染要因が関わって発生した事例であることが示唆された。本事例のように漬け込み処理などを行う加工食肉を使ったメニューについては、不十分な加熱調理により複数の性状を示す菌が分離される可能性があることが認識された。さらに、今回パルスネットにより近隣自治体及び国立感染症研究所と密に情報交換を行ったことで、お互いの検査結果の信頼性を高めることができ、パルスネットの有用性を確認できた。
現在の状況:
今後の課題:
問題点:
関連資料: