No.1496 病院内給食施設を原因とするサルモネラ食中毒

[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性食中毒
登録日:2016/03/08
最終更新日:2016/05/27
衛研名:浜松市保健環境研究所
発生地域:静岡県浜松市
事例発生日:2009年5月29日
事例終息日:2009年6月2日
発生規模:喫食者206名
患者被害報告数:21名
死亡者数:0名
原因物質:Salmonella Enteritidis
キーワード:Salmonella Enteritidis、鶏卵、二次汚染

背景:
サルモネラを原因とする国内の食中毒事件は、事件数、患者数ともに2000年以降減少傾向にあり、近年は年間事件数約60件、患者数3,000人前後で推移している。しかしながら、鶏卵および鶏肉が主な原因となるサルモネラ食中毒は、仕出し屋、給食施設、宿泊施設で発生することが多く、1事件あたりの患者数が多いという特徴がある。

概要:
2009年6月2日、市内の医療機関より、院内給食施設で調理された入院食を喫食した入院患者14名が、5月29日午後8時から6月2日午後2時にかけて下痢、発熱等の食中毒様症状を呈している旨の連絡があり、医師の診察を受けたところ食中毒と診断された。また、患者からはいずれもS. Enteritidisが検出されているとのことであった。浜松市保健所生活衛生課による調査の結果、5月28日午後6時に提供された食事を喫食した入院患者206人のうち、21人が発症していることが判明し、当日の検食からS. Enteritidisが検出された。

原因究明:
搬入された検体の検査の結果、患者由来菌株21検体、および検食のうち5月28日夕食の「魚の冷製クリーム」1検体からS. Enteritidisが検出された。また、食品中の菌数は、9,300MPN/100gであった。
患者由来菌株20検体および食品由来菌株1検体について薬剤感受性試験を行った結果、すべての株においてエリスロマイシンに耐性、テトラサイクリンおよびナリジクス酸に中間であった。また、これらの株についてPFGE(制限酵素:Xba I、Bln I)を実施した結果、すべての株の切断パターンが一致した。

診断:

地研の対応:
患者由来菌株20人分21検体、検食(5月25日~29日分)51検体、施設拭き取り20検体、厨房排水1検体、計93検体が搬入され、患者由来菌株についてはサルモネラ属菌検査、その他の検体は食中毒菌全般について検査を行った。さらに、サルモネラが検出された食材については、Buffered Peptone Water3本法による最確数検査も実施した。また、検出されたサルモネラ菌株について、薬剤感受性検査およびパルスフィールド・ゲル電気泳動法(PFGE)による遺伝子解析を行った。

行政の対応:
浜松市保健所生活衛生課における調査では、発症者はすべて当該施設の入院患者であり、共通喫食は病院食に限られた。5月28日夕食の「魚の冷製クリーム」からS. Enteritidisが検出され、なおかつ発症者全員が「魚の冷製クリーム」のメニューを選択・喫食していたため、これを原因食品と断定した。
その後の調査で、「魚の冷製クリーム」には、原材料として鶏卵が使われておらず、他のメニューにも鶏卵、鶏肉などが使用されていないことがわかった。しかし、当該食品の調理に使用された器具が、1週間前に鶏卵を用いたメニューの調理に使用されていることが判明し、この器具はそれ以外の調理行程で使用されていないことから、この器具の洗浄不足により当該食品がS. Enteritidisに汚染されたものと推定された。
以上のことから、今回の食中毒は当該施設が調理した食品が原因と断定し、施設に対して食品衛生法に基づき3日間の営業禁止の行政処分を行った。

地研間の連携:
なし

国及び国研等との連携:
検出されたS. Enteritidisのファージ型別を国立感染症研究所細菌第一部に依頼した。その結果、すべてRDNCであった。

事例の教訓・反省:
今回の事例は、原因食品の原材料が病因物質に汚染されていたのではなく、調理器具の洗浄不足からの二次汚染が原因であると推定された。このことから、鶏卵、食肉類、鮮魚介類など食中毒菌が付着するおそれのある食材の調理には万全の対策を施すとともに、使用した器具類には徹底した洗浄・消毒が重要であることが再認識された。したがって、食品等事業者に対し、このような食中毒に対する知識の普及や指導を積極的に行っていく必要があると考えられた。

現在の状況:
浜松市保健所生活衛生課による下記指導の後、営業を再開した。
(1)営業施設および設備・器具の清掃、消毒
(2)病因物質に汚染された可能性のある食品の廃棄
(3)調理従事者に対し、衛生講習会を実施

今後の課題:
食中毒事例に際しては、行政担当部署の迅速な情報収集・解析、検体の確保など、検査担当部署では迅速かつ正確な検査の実施、かつ、この2つの部署が緊密に情報交換を行い、連携を取ることが早期の原因究明につながることが確認された。

問題点:
関連資料:
「病院内給食施設を原因とするSalmonella Enteritidis食中毒事例について」:第46回静岡県公衆衛生研究会抄録集(2009)