[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性感染症
登録日:2016/03/08
最終更新日:2016/05/27
衛研名:福井県衛生環境研究センター
発生地域:福井県敦賀市
事例発生日:2011年12月9日
事例終息日:2011年12月21日
発生規模:患者および無症状病原体保有者27名
患者被害報告数:有症者18名
死亡者数:0名
原因物質:腸管出血性大腸菌O157:HNM(VT1+2c)
キーワード:腸管出血性大腸菌、O157、VT1+2c、保育所、集団発生
背景:
腸管出血性大腸菌感染症は、血便等を主徴とし症状が重症化しやすい疾患であるが、病原体が保有する毒素型によっては、無症状もしくは軽症で終わることがある。本事例は、変異型の毒素VT1+2cを保有する腸管出血性大腸菌O157を原因とし、症状が軽症であったために保育所内での感染が一層拡大することとなった集団感染事例である。
概要:
平成23年12月9日に健康福祉センターに腸管出血性大腸菌感染症発生届(初発)が提出された。初発患者の疫学調査等の結果、患者が通う保育所で数名の有症者がいたことから、患者の濃厚接触者(家族)、患者の便を処理した保育所の職員および有症園児の検便を当センターが実施した。
12月10日に搬入された便のうち、有症園児2名および職員1名かO157:HNM(VT1+2)が検出されたため、検便対象を全園児(142名)および全職員(24名)に広げた。最終的に園児131名、職員24名および濃厚接触者75名の計230名の検査を当センターで実施し、園児
10名、職員2名、濃厚接触者10名がO157:HNM(VT1+2)陽性となった。医療機関で検便を実施し陽性となった4名を含めると、27名のO157:HNM(VT1+2)感染が確認され、うち有症者は18名で無症状病原体保菌者が9名であった。
園児および職員の発症日は、12月2日~12月10日の間で散発しており、保育所給食による食中毒の可能性は否定された。菌陽性者は3~4歳が多く、症状は腹痛、軽い下痢や軟便もしくは無症状で、血便症状のある者はいなかった。初発患者の感染源は疫学調査等の結果からは不明であった。
医療機関からの発生届5件のうち、4件はVT1のみの検出報告で、当センターのPCR結果(VT1+2陽性:小林らのPrimerを使用)と食い違ったため、検査方法について調査したところ、2件がデュオパスベロトキシン(極東製薬)、2件がVTEC-RPLA(デンカ生研)を使用とのことであった。その後、当センターにおいて詳細な検査を実施したところ、VT1+2cを保有することが判明した。分離株について制限酵素Xba I処理によるパルスフィールド・ゲル電気泳動を実施したところ、ほぼ同一パターンを示した。
原因究明:
初発患者は、発症前に原因となるような行動をとっておらず、原因は不明であった。本事例の原因菌は、VT1およびVT2cを保有するO157:HNMであり、軽症または無症状であったがために、探知が遅れ、感染が広がってしまったのではないかと推察された。
診断:
なし
地研の対応:
福井県衛生環境研究センターにおいて、230名の検便を実施し、22検体の陽性を確認した。また、医療機関で分離された菌株5株を含む27株について、血清型別、毒素型別、薬剤感受性試験およびPFGEを実施した。
行政の対応:
管轄保健所は保育所に対して、施設の消毒を実施し、二次感染予防対策をとるよう指導した。
地研間の連携:
なし
国及び国研等との連携:
なし
事例の教訓・反省:
VT2毒素のバリアントが検査方法によっては検出できないということを知らない保健所職員もおり、若干の混乱が生じた。常時からの情報、知識の共有が不足していた。
現在の状況:
保健所の新任感染症担当者に対する技術研修会において、VT2毒素のバリアントについての説明を実施した。
今後の課題:
血便等の特徴的な症状がなくても異常にいち早く気づけるよう、また、異常に気づかなくても感染が拡大しないよう、適切な排せつ物処理を日ごろから徹底する等の指導が改めて必要であると思われる。
問題点:
関連資料:
保育所で発生した腸管出血性大腸菌O157:HNMの集団感染事例-福井県,病原微生物検出情報,Vol. 33 No.7(2012.7) p14-15
志賀毒素産生量が低い傾向を示すstx1ならびにstx2vha遺伝子保有enterohemorrhagic Escherichia coli,感染症学雑誌,第80巻,第2号(2006) p124-125