No.1538 A群溶血性レンサ球菌による集団食中毒事例

[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性食中毒
登録日:2016/03/08
最終更新日:2016/05/27
衛研名:愛媛県立衛生環境研究所
発生地域:愛媛県新居浜市
事例発生日:2012年8月
事例終息日:
発生規模:喫食者89名
患者被害報告数:46名
死亡者数:
原因物質:A群溶血性レンサ球菌
キーワード:A群溶血性レンサ球菌・食中毒・集団発生

背景:
わが国では、A群溶血性レンサ球菌による食中毒の届出は極めて少ない。患者の多くが上部気道炎症状を呈するため、医療機関で受診しても風邪や咽頭炎と診断されることが多いと推定されている。

概要:
平成24年8月18日、新居浜市内の医療機関から西条保健所へ「8月13日~17日の間、発熱、咽頭痛等のかぜ様症状を呈している15名の患者を診察した。」との連絡があった。患者は8月12日に行われた自治会主催の夏祭りで提供されていた食事を喫食しており、西条保健所は夏祭りの参加者及び運営者等に対して、感染症及び食中毒の両面から疫学調査等を実施した。
調査の結果、T飲食店で調理し、夏祭りで販売されていた「おにぎり」を喫食した参加者及び参加者が持ち帰った「おにぎり」を喫食した家族等89名中31名が、8月13日0時頃から発熱、咽頭痛、悪寒、下痢等の症状を呈し、うち24名が医療機関を受診していた。最終的な患者数は46名であり、「おにぎり」を喫食後発症するまでの時間は、概ね一峰性であった。

原因究明:
今回の事例は、患者の咽頭拭い液、従事者の手指及び調理器具から6株のA群溶血性レンサ球菌(T – B3264型)が分離され、制限酵素SmaIおよびSfi IによるPFGEパターンがそれぞれ一致したことから、同一由来株であることが考えられた。原因食品の検査は、残品がなく、実施できなかったが、調理従事者の咽頭拭い液、手指の拭取り検体からA群溶血性レンサ球菌が分離されていることから、調理従事者により汚染された食品を喫食したことが原因と推察された。

診断:

地研の対応:
患者の咽頭拭い液5件、調理従事者の咽頭拭い液・手指の拭取り検体各2件、調理施設・調理器具の拭取り検体13件の計22件を対象に菌の分離・同定検査を実施した。分離されたA群溶血性レンサ球菌について、生化学的性状試験、発赤毒素型別、パルスフィールドゲル電気泳動(以下PFGE)解析を行った。その結果、患者の咽頭拭い液3件、調理従事者の咽頭拭い液・手指の拭取り検体各1件、調理器具の拭取り検体1件から、A群溶血性レンサ球菌(TB3264型)が分離された。生化学的性状試験については、同定キットにより、6株すべてStreptococcus pyogenesと判定された。発赤毒素型別は、spe遺伝子の検出をPCRで行った。
その結果、6株すべてspeB、speC、speFの3種類の遺伝子を保有していることが分かった。PFGE解析では、分離株6株について、制限酵素Sma IおよびSfi IによるPFGEパターンがそれぞれ一致した。

行政の対応:
患者に共通する食事は、飲食店が調理し夏祭りで販売された「おにぎり」のみであること、医師から食中毒届出があったこと、患者の症状、潜伏期間などの疫学調査の結果及び患者の咽頭拭い液、従事者の手指及び調理器具からA群溶血性レンサ球菌(T – B3264型)が分離されたことから、T飲食店が調理した「おにぎり」を介したA群溶血性レンサ球菌による食中毒と断定した。
原因施設に対して、食品衛生法に基づき5日間の営業停止処分とするとともに、食品の衛生的な取扱いの徹底について文書で指導を行った。

地研間の連携:
なし

国及び国研等との連携:
なし

事例の教訓・反省:
関係各課との連携(食品衛生担当、感染症対策担当、試験検査担当)

現在の状況:
なし

今後の課題:
食中毒予防の啓発・指導
(A群溶血性レンサ球菌の食中毒原因菌としての認識、調理従事者の健康管理)

問題点:

関連資料:
なし