[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性食中毒
登録日:2016/03/08
最終更新日:2016/05/27
衛研名:札幌市衛生研究所
発生地域:札幌市、江別市、千歳市他
事例発生日:2012年8月2日
事例終息日:2012年8月14日
発生規模:
患者被害報告数:患者数169名
死亡者数:8名
原因物質:腸管出血性大腸菌O157:H7(VT1&2)
キーワード:腸管出血性大腸菌、O157、食中毒、浅漬、IS-printing system
背景:
腸管出血性大腸菌感染症は3類感染症であり、全国で毎年3,000~4,000人の感染が報告されており、食品との関連が調査されている。近年ユッケや生食の肉類が感染源となっている例が多く、漬物については報告例がほとんどなかった。
概要:
平成24年(2012年)8月7日、医師から札幌市保健所(以下「保健所」という。)あて、「札幌市内の高齢者関連施設(以下「高齢者施設」という。)の入所者7名が下痢、発熱、血便等の症状を呈して受診している。」との届出があった。調査したところ、上記を含む高齢者施設9施設(札幌市内5施設、北海道立保健所管内4施設)で同様の食中毒症状の有症者が発生しており、共通食として、市内の漬物製造施設で製造された「はくさいの浅漬(包装日12.07.30、消費期限12.08.03)」が提供されていることが判明した。高齢者施設の有症者の便、高齢者施設の検食の浅漬、製造従事者の便から腸管出血性大腸菌O157(以下「O157」という。)が検出されたこと、有症者の症状が同菌によるものと一致したことなどから、当該浅漬を原因食品とするO157による食中毒事件と断定し、製造施設を営業禁止処分とした。当該浅漬は高齢者施設以外にも道内の食品スーパーやホテル、飲食店等に流通していたことなどにより、患者は札幌市を中心に広範囲な地域で発生し、最終的に患者数は169名となった。
原因究明:
保健所は施設での再現試験を実施するとともに、事件の原因究明にあたって、国立感染症研究所への専門家職員(FETP)派遣を依頼するなど、精力的に事件の原因究明に尽力した。原材料の遡り調査、製品の流通調査、再現実験による製造状況の調査を実施したが、何らかの原因で製造施設に持ち込まれたO157により、はくさいの浅漬が汚染されたと推定されるが、汚染経路の特定には至らなかった。
診断:
地研の対応:
初動調査で検査依頼された有症者便について、サルモレラ属菌、カンピロバクター等の食中毒菌及びノロウイルスの検査を実施した。有症者便からO157(VT1&2)が検出され、共通食品として「はくさいの浅漬」が疑われ、検食用として保存されていた残品からO157(VT1&2)が検出された。高齢者施設ばかりでなく、ホテルや飲食店、スーパーでも提供や販売されていたことから、患者認定の参考情報として遺伝子レベルでの確認の要望があ
り、IS-printing system法により便由来76株、はくさいの浅漬由来3株を検査したところバンドパターンが一致した。
行政の対応:
保健所は8月7日に通報があり調査したところ、市内外の高齢者施設で同様の食中毒症状を呈していることが判明し、市内製造業者のはくさいの浅漬が共通に提供されていた。検食の浅漬、有症者便からO157が検出されたことから食中毒と断定し、製造業者を営業禁止処分とした。ホテルや飲食店、スーパーでも提供や販売されていたことから調査も広範囲となった。喫食状況、症状、発症日などの疫学調査結果に加え、菌株のIS-printing system法による解析結果も判断材料として169名を患者と認定した。
地研間の連携:
O157による感染症法の届出も多く、菌株のIS-printingsystem法による解析結果から事件との関連性を調査するとともに、地研間、行政間の連絡体制を強化した。
国及び国研等との連携:
事件の原因究明にあたって、国立感染症研究所への専門家職員(FETP)派遣を依頼し、合同で調査を実施した。また、保健所は厚生労働省にて行われた薬事・食品分科会食中毒・食品規格分科会へ出席し、事件概要について報告した。その後、漬物の衛生規範の改定が通知された(平成24年10月12日)。
事例の教訓・反省:
腸管出血性大腸菌は全数報告の感染症であり、早期に菌株のIS-printingsystem法等でパターン分析を行うことは、食中毒事例との関連性や、別の事件の解明などに有効であり、今後も積極的に実施し、広範囲に連携をはかる必要性が示唆された。
現在の状況:
この事件を受けて全国の漬物製造施設に対する調査や衛生指導が実施され、漬物の衛生規範に基づく指導を行っている。
今後の課題:
問題点:
関連資料:
白菜浅漬による腸管出血性大腸菌O157食中毒事例について(病原微生物検出情報Vol. 34 p.126:2013年5月号)
白菜浅漬による腸管出血性大腸菌O157食中毒事例におけるIS-printing system解析事例について(病原微生物検出情報Vol. 34 p.127-128:2013年5月号)