No.1550 腸管出血性大腸菌O121による集団食中毒事例

[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性食中毒
登録日:2016/03/08
最終更新日:2016/05/27
衛研名:岩手県環境保健研究センター
発生地域:岩手県
事例発生日:2012年5月26日
事例終息日:2012年6月1日
発生規模:感染者数23名
患者被害報告数:患者数19名
死亡者数:0名
原因物質:腸管出血性大腸菌O121:H19(VT2)
キーワード:腸管出血性大腸菌、O121、食中毒、集団発生

背景:
腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症は、3類感染症であり、全国で毎年3,000~4,000人の感染が報告されている。近年、浅漬けや焼き肉、ユッケ、レバーの生食による集団感染事例があり、漬物の衛生規範の改正や牛レバーの生食禁止などの感染予防対策が取られている。

概要:
平成24年6月4日、某高校養護教諭からスポーツ大会参加のため旅館に宿泊した生徒の多くが嘔吐、下痢、発熱の症状を呈している旨の通報があった。
聞き取り調査の結果、スポーツ大会のため5月24日~26日の3日間、生徒・顧問24名で旅館を利用、うち19名が5月26日~6月1日にかけて腹痛下痢等の食中毒様症状を訴えていたことが判明した。6月5日~18日に渡って実施した検便検査の結果、喫食者24名中8名および調理従事者4名中2名から腸管出血性大腸菌O121(VT2)を検出した。また、接触者32名について検便を実施したところ、家族2名から腸管出血性大腸菌O121(VT2)が検出された。患者および従業員から分離された菌株は、パルスフィールドゲル電気泳動(PEGE)による解析の結果、同一のパターンを示した。

原因究明:
患者グループは、スポーツ大会参加のため同一行動をとっており、共通食品である旅館の検食は2日間冷蔵保存されていたが、調査時には既に廃棄されていて、原因食品の特定には至らなかった。

診断:

地研の対応:
初動調査で検査依頼された有症者4名についてサルモネラ属菌、カンピロバクター、下痢原性大腸菌など一般的な食中毒菌およびノロウイルス等の下痢症ウイルスの検査を実施した。下痢原性大腸菌についてはPCRによる病原因子の検索の結果、2名からVT遺伝子が検出された。VT遺伝子陽性検体から分離された大腸菌の中から菌株の生化学性状、血清型、毒素検査を行い、腸管出血性大腸菌O121(VT2)を検出した。
分離された菌株の生化学性状においてラフィノース非分解であることが判ったため、分離培地にセフィキシム・亜テルル酸カリウム添加ラフィノースマッコンキー寒天培地(CT-RFMAC)を併用し、ラフィノース非分解の集落を選択したこととTSI寒天培地において-/Aであったことから、その後の喫食者や接触者検便の際、比較的効率よくO121を分離する事が出来た。

行政の対応:
保健所は6月4日通報があった後、有症者および旅館の調査を実施するとともに、手洗い等二次感染予防の徹底について指導した。その後、O121が検出された生徒宅を訪問し、生徒の医療機関の受診勧奨と家族の健康調査を行った。

地研間の連携:
特段の連携はなかった。

国及び国研等との連携:
特段の連携はなかった。

事例の教訓・反省:
本事件の原因施設では、調理従事者の検便や毎日の健康チェックを実施していなかったため、いつから保菌していたのか不明であった。調理従事者全員の健康チェック、検便の実施、手洗いの徹底など基本的な事項の普及啓発の重要性を再認識した。
検査においては、O121など稀な血清型の腸管出血性大腸菌について、データを蓄積し緊急時に活用できるようにしていたことが、O121の集団検査の迅速な検査対応につながったといえる。今後もデータの蓄積に努め、内容を充実させていく必要がある。

現在の状況:

今後の課題:

問題点:

関連資料:
なし