No.15019 生サラダが原因と推定されたチフス菌による食中毒事例

[ 詳細報告 ] 分野名:細菌性食中毒
登録日:2016/05/13
最終更新日:2016/05/27
衛研名:東京都健康安全研究センター
発生地域:東京都内8区,2県
事例発生日:2014年9月
事例終息日:2014年9月
発生規模:患者18名、無症状病原体保有者1名
患者被害報告数:
死亡者数:0名
原因物質:チフス菌
キーワード:チフス菌,腸チフス,生サラダ,無症状病原体保有者

背景:
チフス菌による感染者数は近年減少傾向にあり,東京都では毎年20名程度である。その多くは海外渡航歴がある患者からの検出であるが,国内感染が疑われる事例も少なからず報告されている。2014年8~9月,都内で国内事例チフス症患者の報告が増加したため調査を行った結果,共通の飲食店が原因であることが判明した。本事例は食品衛生法が1999年に改正され食中毒起因菌に指定されて以降,初めてのチフス菌による食中毒事例となった。

概要:
2014年9月3日、C区に腸チフス発生届があり調査を開始したが、患者に潜伏期間内の海外渡航歴はなかった。翌9月4日、S区に患者2名の届出があったため調査を行ったところ,2名は同じ会社の同僚で,共通食としてC区内の飲食店が調製した弁当が確認された。再度,1人目の患者の喫食状況を調査したところ,8月8日当該飲食店を利用していたことが判明した。最終的に患者は,都内8区および2県で確認され,腸チフスと診断され届出のあった患者14名、および医療機関では菌検査が実施されず腸チフスと診断されなかったが,発症状況,喫食状況等から本件の患者と認定された4名,計18名となった。この他に,無症状病原体保有者1名が確認された。

原因究明:
担当保健所により原因究明調査が行われた。患者らは,カレーを中心とした料理または弁当を喫食し,①共通する未加熱食材に、生サラダがあった。また、施設状況および調理工程を調べた結果、②施設内に手洗設備および手指消毒装置が無く、調理従事者は手指の消毒をせずに調理に従事していたこと、③チフス菌の無症状病原体保有者であった調理従事者は、生サラダの調理に関与していたことから、原因食品は、無症状病原体保有者によって二次汚染を受けた未加熱のサラダと推定された。

診断:
調理従事者から分離された1株、および医療機関で分離され、当研究センターに搬入された患者13名由来14株の合計15株についてパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)解析等の疫学的性状試験を行った。PFGE解析の結果、制限酵素XbaⅠで消化したものでバンド1本程度の違いが認められた株が6株あったが、ほぼ同一のパターンであった。17種類の薬剤を用いた薬剤感受性試験の結果は、すべての株でナリジクス酸耐性であった。分離株のうち14株について国立感染症研究所でファージ型別試験を行った結果、13株のファージ型はUVS1(Untypable Vi strain group-1)、1株のみUVS4であった。本事例由来株は、同時期に分離された国内散発事例由来株および海外散発事例由来株とは疫学的性状が異なっていた。以上の解析結果から総合的に判断し、患者および調理従事者由来株は、すべて同一クローン株であると推定した。

地研の対応:
9月5日から有症者および従事者の糞便や尿,食品(参考品),環境のふき取り検体についてチフス菌の検出を試みるとともに,分離菌株について疫学的性状解析を行った。
糞便11検体,尿7検体,食品8検体および環境のふき取り16検体について検査を実施した結果,調理従事者糞便1検体からチフス菌を検出した。

行政の対応:
保健所は当該飲食店を原因施設とするチフス菌による食中毒事例と断定し,9月10日から3日間の営業停止を行った。

地研間の連携:
菌株の分与を依頼した。

国及び国研等との連携:
分離株のファージ型別試験は,国立感染症研究所で実施した。

事例の教訓・反省:
調理従事者糞便1検体から検出したチフス菌は、直接分離培養ではSS寒天で検出されたが、DHL寒天およびクロモアガーサルモネラでは検出できなかった。このことから排菌量は非常に少ないものと推定された。使用する分離平板は1種類ではなく,抑制力の異なる複数種類を使用することが分離率を上げるために有効である。

現在の状況:

今後の課題:
食品や環境の拭き取り検体からのチフス菌検出法について検討する必要がある。

問題点:
感染初期患者の糞便中には,チフス菌が排菌されていないことがあるため,感染からの病日をみて検便を実施したほうがよい。無症状病原体保有者の糞便中には,常に糞便中にチフス菌が排菌されているとは限らないので,1回の検便のみではなく,複数回検便を行う必要がある。

関連資料:
生サラダが原因と推定されたチフス菌による食中毒事例―東京都
IASR (国立感染症研究所)Vol. 36 p. 162-163: 2015年8月号