No.15020 都内公園が感染地と推定されたデング熱事例

[ 詳細報告 ] 分野名:ウィルス性感染症
登録日:2016/05/13
最終更新日:2016/05/27
衛研名:東京都健康安全研究センター
発生地域:代々木公園
事例発生日:2014年8月
事例終息日:2014年8月
発生規模:108名
患者被害報告数:108名
死亡者数:0名
原因物質:デングウイルス1型
キーワード:デング熱、国内発生、公園、蚊媒介感染症

背景:
デング熱は、感染症法に定める四類感染症であり、デングウイルス(DENV)を保有した蚊によって媒介される急性熱性感染症である。主なデングウイルス媒介蚊は、ネッタイシマカとヒトスジシマカであり、わが国においては、ヒトスジシマカによる媒介が危惧されている。また、デングウイルスには4つの異なる血清型があり、異なる型に感染すると重篤化(デング出血熱)のリスクが高まるとされている。

概要:
デングウイルスの国内感染は、1940年代以降、約70年間発生がない状態が続いていた。しかし 2014年8月末から10月にかけてデング熱の国内感染例が発生し、最終的に都内では108名、全国で162名のデング熱患者が報告された。初発患者の聞き取り調査等によって推定感染地が都立代々木公園であることが判明し、東京都では同公園における蚊の駆除とともに、疑い例を含むデング熱患者の検査、当該公園内を中心に蚊の密度調査とDENV保有調査(蚊サーベイランス)を実施した。

原因究明:
患者検体の検査では、リアルタイムPCRによるウイルス遺伝子の検出と型別確認が感染地の推定において有効であった。また蚊の検査では、過去、国内で捕集した蚊から直接ウイルスを検出した例はなく、今回初めて都内にも広く分布するヒトスジシマカ(シマカ亜属)からDENVが検出された。
患者及び蚊から検出したウイルスの遺伝子解析の結果、①シマカ亜属がDENVを媒介していたこと、②感染蚊が比較的長い期間存在していたこと、③単系統のDENVによって感染が拡大していったことが明らかとなった。

診断:
リアルタイムPCRによるデングウイルスの検出及び血清型別判定、イムノクロマト法によるウイルス非構造蛋白(NS1抗原)及びIgM抗体の検出を行った。また、リアルタイムPCR陽性検体については、ウイルス分離試験とPCR-ダイレクトシーケンス法によるデングウイルスの系統樹解析を行った。

地研の対応:
<患者検体の検査>
2014年8月29日から11月12日の間、都内の公園等でDENVに感染した可能性のある患者について感染症法に基づく積極的疫学調査にて検査を実施した。搬入された約240検体について検査した結果、リアルタイムPCR検査では57検体が陽性と判定された。これら陽性検体について血清型を確認した結果、DENV-1型が53検体であり、他に2、4型が各1検体、3型が2検体であった。DENV-1型以外の4例については、疫学調査(関連資料2)によりデング熱流行地への海外渡航歴が認められた。

<ウイルス保有蚊の検査>
2014年8月26日から11月6日の間、初発患者の推定感染地とされた都立代々木公園内に定点を設置し、蚊の密度調査を行った。蚊の捕集はCDC型ライトトラップにより週1回の頻度で実施し、約900匹(103検体)を捕集した。捕集した蚊についてDENVの保有を確認した結果、14検体(13.0%)からDENV-1型が検出され、これらウイルス陽性蚊は9月2日から3週連続検出された。

<患者及び蚊から検出されたDENVの遺伝子解析>
患者及び蚊検体のうち、リアルタイムPCR検査でウイルス遺伝子が検出された検体について、PCR-ダイレクトシーケンス法により塩基配列の決定と分子系統樹解析を行った。その結果、患者及び蚊由来のDENV-1型はほぼ同じ塩基配列を示し、公共データベースから取得した国内初発患者由来のデータ(D1/Hu/Saitama/NIID100/2014)と単一のクラスターを形成した。

行政の対応:
○平成26 年8月末、海外渡航歴のないデング熱患者の発生報告があった。患者の聞き取り調査の結果、都立代々木公園渋谷門付近で蚊に刺されたことが確認された。
○これを受け、都は代々木公園渋谷門付近に薬剤を散布するなどして蚊の駆除を実施した。
○公園内の蚊の調査により、複数箇所からDENVを持つ蚊(感染蚊)が確認されたため、公園の一部区域の閉鎖を行うとともに、区及び近隣施設と協力して蚊の生息調査や駆除等を行った。
○一連の経過や対応について検証し、今後の蚊が媒介する感染症の対策に反映させるため、東京都蚊媒介感染症対策会議を設置することとした。
○9月19日に第1 回対策会議を開催し、以降3 回の作業部会を含めて同会議を計6回開催した。

地研間の連携:
特になし

国及び国研等との連携:
東京都蚊媒介感染症対策会議等を通じ、情報交換を行っている。また、国立感染症研究所との情報交換(不定期)を実施している。

事例の教訓・反省:
初発患者の発生以降、その都度得られた情報を基に対応してきた。しかし結果として、多数の患者が発生したことから、一連の経過や対応について検証し、今後の蚊が媒介する感染症の対策に反映させる必要があった。そこで都内でのデング熱感染事例の検証と今後の防止対策を策定するために、東京都蚊媒介感染症対策会議を設置した。

現在の状況:
2014年事例の解析を踏まえ、2015年度からは以下の対応を行った。
①デング熱媒介蚊サーベイランスの実施
既存の16定点(東京都感染症媒介蚊サーベイランス)に加え、代々木公園を含む9施設の都立公園を対象に新たな定点を50ポイント設定し、DENVを媒介するシマカ亜属(成虫及び幼虫)の密度調査とウイルス保有調査を実施
②都内届出デング熱患者の全数検査
DENVの血清型別と遺伝子解析、DENV同様に蚊が媒介する輸入感染症であるチクングニアウイルスについても検査を実施

今後の課題:
デング熱海外感染者の国内侵入を完全に防ぐことはできない。しかし日頃から蚊の発生の抑制に取り組むとともに、患者発生時の迅速な対応により、感染の拡がりを限局的なものにとどめることは可能である。そのためには、東京都蚊媒介感染症対策会議等を通じ、行政をはじめとした関係機関や都民が協力して対策に取り組むことが重要である。

問題点:
特になし

関連資料:
1. 東京都蚊媒介感染症対策会議報告書 平成26年12月24日
2. 関なおみ、岩下裕子、本涼子ら, 東京都におけるデング熱国内感染事例の発生について, 日本公衛誌, 62, 238-250, 2015