No.15028 新規遺伝子型ノロウイルスGII.P17-GII.17の流行

[ 詳細報告 ] 分野名:ウィルス性食中毒
登録日:2016/05/13
最終更新日:2016/05/27
衛研名:川崎市健康安全研究所
発生地域:川崎市
事例発生日:2014年3月
事例終息日:
発生規模:
患者被害報告数:
死亡者数:
原因物質:ノロウイルスGII.P17-GII.17
キーワード:ノロウイルス、GII.17、感染性胃腸炎、アウトブレイク

背景:
ノロウイルスGII.17は、日本国内でも報告が少ない遺伝子型である。2014年3月に川崎市内の感染性胃腸炎患者2名からこのGII.17が検出され、全長に近い遺伝子配列を解読したところ過去に報告のない遺伝子配列を有することが判明したため、ノロウイルス国際研究機関に連絡を取り、新規遺伝子型GII.P17-GII.17として登録した。このGII.17変異株の検出状況について調査したところ、広い地域で2015年1月以降に流行を引き起こしていたことが明らかとなった。そこでこの株について更に詳細に調べるために、遺伝子配列解読及び遺伝子解析を行った。

概要:
2014年3月に川崎市内で発生した感染性胃腸炎患者からノロウイルスGII.17が検出された。GII.17は日本国内でも報告が少ない遺伝子型であったため、この株について全長に近い遺伝子配列の解読を行ったところ、GII.17の変異株であることが判明した(GII.P17-GII.17と命名)。このGII.17変異株は、川崎市を含む広い地域で流行を引き起こしていたことも明らかとなったため、この株について詳細な分子疫学解析を行った。

原因究明:

診断:

地研の対応:
感染性胃腸炎患者の検体について通常のノロウイルス検査を行い、PCRにて陽性であったため、シークエンス反応後遺伝子型を確認した。その結果、これまでに報告が少ない遺伝子型であるGII.17が検出されたことから、確認のため系統樹解析を行ったところ、既報のGII.17とは異なる配列を持つことが示された。川崎市内における初めてのGII.17検出事例であることやキメラウイルスの可能性も考慮し、ウイルスRNAの増幅に関与するRdRp領域の遺伝子配列を決定し遺伝子型をNorovirus genotyping toolで検索したところ、既知の遺伝子型に分類することができないことから、新規遺伝子型であることが示唆された。そこでノロウイルスの国際研究機関に報告をしたところ、RdRp領域に新規遺伝子型番号であるGII.P17が与えられた。また、ウイルスのキャプシドの主要構成タンパク質に関係するVP1領域においても過去のGII.17とは配列が異なることが確認され、この株はHu/GII/JP/2014/GII.P17-GII.17(GII.17 Kawasaki 2014)と命名された。
このGII.17変異株は2015年1月以降、川崎市内での流行が確認されたため、近隣自治体に連絡を取り流行状況調査を行った結果、2015年1月以降に埼玉県、栃木県、長野県でも流行を引き起こしていたことが明らかとなった。そこでこの変異株について更に詳細に調べるために、近隣自治体の協力を得て収集した株6検体について、国立感染症研究所の協力を得て次世代シーケンサーを用いたゲノムシークエンスを行い、得られたデータを用いて時系列系統解析、立体構造解析等を行った。カプシドの時系列系統解析の結果、このGII.17変異株6検体は既報のGII.17とは1861年に分岐し異なる進化を遂げており、近年アジアで報告されているGII.17と近縁であることが示された。またRdRp領域の時系列系統解析においても新規遺伝子型であることを支持する結果が得られた。次に、GII.17変異株及びGII.4の立体構造を構築し、まずこれまでの主要流行遺伝子型であるGII.4に対するB細胞エピトープ(抗体が認識する抗原の一部分)の推定を行い、GII.17変異株のアミノ酸配列との比較を行った結果、予測されたエピトープ部分においてアミノ酸変異が多く見られたことから、GII.4に感染し免疫を獲得している人もGII.17変異株に感染することが示唆され、このGII.17変異株が人の免疫を逃れ流行を引き起こした可能性が考えられた。さらに、GII.17に対する推定B細胞エピトープ上においても、3つに分かれたGII.17クラスター間でアミノ酸変異が認められたことから、今後、GII.4のように速い速度で変異を繰り返しながら流行する可能性が示された。
これらの情報を学術論文にまとめ、英文専門誌「Eurosurveillance」に投稿した他1)、IASRにも投稿し2)、新たなノロウイルスが流行する可能性があることを国内のみならず全世界に発信した。
地衛研での通常の検査の結果を深く掘り下げ探求することが、今回の新規遺伝子型ノロウイルスの発見に繋がった。

行政の対応:
川崎市、厚生労働省などによるノロウイル流行に対する注意喚起が行われた。

地研間の連携:
長野県、埼玉県ならびに栃木県との情報交換を行い、GII.17の検出状況を確認した。また、解析に用いるために、GII.17変異株のDNA抽出物を長野県、埼玉県から分与していただいた。

国及び国研等との連携:
次世代シーケンサーを用いたゲノムシークエンスを実施していただいた。また、遺伝子解析及び論文投稿に際して多大なるご協力をいただいた。

事例の教訓・反省:

現在の状況:
GII.17変異株はこれまで流行しておらず、多くのヒトは免疫をもっていないと考えられる。
2014/15シーズンに日本のほか中国3)、香港4)などのアジア圏でも流行が確認されており、また2015/16シーズンにはアメリカ(ミネソタ州)でもアウトブレイクの報告があった5)ことから、このタイプが既に全世界に拡散していることが推測され、今後もアウトブレイクを引き起こす可能性があり、今後の動向を注視するとともに感染防止対策の一層の徹底が望まれる。
また、市販のイムノクロマト迅速診断検査キットは、このGII.17変異株に対して検出感度が低い傾向が認められており6),7)、診断にも注意が必要であるが、現在試薬メーカーにおいて改良が進められている。

今後の課題:
地方衛生研究所での通常の検査の中で見つかった株が、今回のような新たな発見に繋がったことは、公衆衛生の維持・向上に寄与する地方衛生研究所の存在の重要性とともに、通常の検査から疑問を感じ研究として突き詰めていく姿勢の重要性を改めて示すことになった。
今後のノロウイルス流行予測に生かすためにも、各衛生研究所での通常検査に加え、
RdRp部分を含む遺伝子検査と、それらデータの蓄積・解析が重要であると思われる。

問題点:

関連資料:
1) Matsushima Y, Ishikawa M, Shimizu T, et al. Genetic analyses of GII.17 norovirus strains in diarrheal disease outbreaks from December 2014 to March 2015 in Japan reveal a novel polymerase sequence and amino acid substitutions in the capsid region. Euro Surveill. 2015 Jul 2;20(26). pii: 21173.
2) 松島勇紀ら, 新規遺伝子型ノロウイルスGII.P17-GII.17の流行 (IASR Vol. 36 p. 175-178: 2015年9月号)
3) Lu J, Sun L, Fang L, et al. Gastroenteritis outbreaks caused by norovirus GII.17, Guangdong Province, China, 2014–2015. Emerg Infect Dis. 2015 Jul;21(7):1240-2.
4) Chan MC, Lee N, Hung TN, et al. Rapid emergence and predominance of a broadly recognizing and fast-evolving norovirus GII.17 variant in late 2014. Nat Commun. 2015 Dec 2;6:10061.
5) New Strain Of Norovirus Leads To Outbreaks In Minnesota, Could Increase Infections By 50%
http://www.medicaldaily.com/new-strain-norovirus-leads-outbreak-minnesota-could-increase-infections-50-366918
6) Khamrin P, Thongprachum A, Takanashi S, et al. Evaluation of immunochromatography tests for detection of novel GII.17 norovirus in stool samples. Euro Surveill. 2015 Jul 16;20(28). pii: 21185
7) 楠原一ら, ノロウイルスGII.17型の流行とその特徴について-三重県 (IASR Vol. 36 p. 91-92: 2015年5月号)

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