No.1067 K町民大会での黄色ブドウ球菌食中毒事例

[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性食中毒
登録日:2016/03/11
最終更新日:2016/05/27
衛研名:埼玉県衛生研究所
発生地域:埼玉県K町
事例発生日:2002年10月13日
事例終息日:
発生規模:喫食者数不明(弁当出荷数727食)
患者被害報告数:患者数275名(入院者数88名)
死亡者数:0名
原因物質:黄色ブドウ球菌 コアグラーゼIV型 エンテロトキシンA産生株
キーワード:食中毒、集団発生、仕出し弁当、黄色ブドウ球菌、コアグラーゼ、エンテロトキシン

背景:
わが国において黄色ブドウ球菌による食中毒は、1990年頃までは年間100件以上発生し、患者数も数千人にのぼったが、最近は減少傾向にあり、患者数も千人前後であった。ところが、2000年6月の雪印乳業食中毒事件では、患者数13,420人という大規模かつ広域食中毒事件となり、再び黄色ブドウ球菌食中毒が注目されていた。

概要:
2002年10月13日、埼玉県K町内のスポーツ広場で行われた体育祭の参加者が、昼食の弁当を食べ、吐き気、嘔吐、下痢等の食中毒症状を呈した。参加者の昼食用弁当は、複数の業者により準備されたが、発症者は、K町内の業者Tの仕出し弁当を喫食したものに限られた。喫食者数は不明だが、弁当出荷数は、727食であった。発症者数は、275名で、そのうち88名が入院した。発症率は、推定37.8%、平均潜伏時間は4.1時間であった。細菌学的検査の結果、患者吐物、患者便、食品残品(おむすび、ハンバーグ、揚げ物等)、従事者手指からコアグラーゼIV型、エンテロトキシンA産生の黄色ブドウ球菌が検出された。
特に、おにぎりの具である鮭フレークから1.4×109個/gの黄色ブドウ球菌が検出され、主要原因食品と考えられた。

原因究明:
検査材料は、ふき取り26検体、食品32検体、調理従事者便5検体、患者便17検体、患者吐物13検体で、そのうちふき取り5検体(従事者手指2検体、使い捨て手袋の外側1検
体、冷蔵庫内1検体、ほぐした鮭の容器の外側1検体)、食品14検体、患者便14検体、患
者吐物8検体からコアグラーゼIV型、エンテロトキシンA産生の黄色ブドウ球菌が検出された。
特に業者Tから提供された未開封品の仕出し弁当では、鮭おにぎり、おかかおにぎり、うめおにぎり、ハンバーグ、揚げ物、煮物から、本菌が検出された。なかでも鮭のおにぎりからは、2.8×108個/g検出され、さらに、原材料の自家製鮭フレークからは、1.4×109個/gの菌が検出され、原因食品と推定された。
また、本事例由来の37株(患者便14検体、患者吐物6検体、ふき取り5検体、食品12検体)の薬剤感受性試験については、NCCLSの基準に準拠し、一濃度ディスク法(センシ・ディスク)によって測定した。使用薬剤は、6薬剤(CEZ、CLDM、PCG、MPIPC、ABPC、VCM)である。その結果、37株中36株がPCG、ABPCの2剤耐性であった。
PFGE解析においては、37株いずれも同一のDNA切断パターンを示し、同一由来であると推定された。

診断:

地研の対応:
当所において、患者吐物、患者便、食品残品、施設及び従事者手指の拭き取り等について細菌学的検査を実施した。その結果、黄色ブドウ球菌を検出し、その分離菌株についてコアグラーゼ型別およびエンテロトキシン産生の確認を実施した。
さらに、薬剤感受性試験およびパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)による染色体DNAの解析を行い、菌株間相互の類似性を検討することによって疫学的解明を行った。

行政の対応:
原因施設を管轄するS保健所が中心となり疫学調査を実施し、食品衛生法に基づく食中毒事件として対応した。行政措置は、原因施設に営業停止処分5日間であった。

地研間の連携:
なし

国及び国研等との連携:
なし

事例の教訓・反省:
警察から「K町民大会で多数の参加者が嘔吐などの症状を呈している」旨の通報をうけ
たS保健所は、直ちに調査を開始した。同日、茨城県から「G町運動会の参加者が嘔吐等の症状を呈している」との通報を受け調査した結果、G町で同時に発生した食中毒の原因食品の調製販売業者が、K町民大会に納入した仕出し弁当屋と重複していることが判明した。このことが、非常に短時間で原因施設の特定に至った要因となった。本事例では、関連自治体とのすばやい連携が、原因究明に役立ったと考える。

現在の状況:

今後の課題:

問題点:

関連資料:
1) 平成14年の埼玉県における黄色ブドウ球菌食中毒について:第4回埼玉県健康福祉研究発表会35-36(2002)
2) PFGE法による黄色ブドウ球菌食中毒関連株の型別:平成14年度日本獣医公衆衛生学会年次大会:426(2002)
3) 情報ひろば「食中毒等事件例」:日本食品衛生学雑誌,44,5(2003)