No.1423 グロリオサによる食中毒

[ 詳細報告 ]
分野名:自然毒等による食中毒
登録日:2016/03/08
最終更新日:2016/05/27
衛研名:静岡県環境衛生科学研究所
発生地域:静岡県掛川市
事例発生日:2007年10月21日
事例終息日:
発生規模:1家族
患者被害報告数:1名
死亡者数:1名
原因物質:コルヒチン
キーワード:グロリオサ・コルヒチン・塊茎・誤食・HPLC・LC/MS/MS

背景:
グロリオサはユリ科植物で、全草にコルヒチンを含有し、特に球根(塊茎)に多く含まれる。コルヒチンは痛風の特効薬として知られているが、毒性が強く、多量に摂取すると多臓器不全等で死亡することもある。コルヒチンが原因と推定される食中毒は全国で散発している。近年様々な植物が観賞用に一般家庭で栽培されるようになり、本事例のグロリオサの塊茎も容易に入手できるが、一方でこのような植物の毒性等についてはほとんど知られていないのが現状である。

概要:
2007年10月21日の昼頃、自宅で観賞用として栽培していたグロリオサの塊茎をヤマイモと誤って喫食した男性が、同日夜、嘔吐、下痢等の症状を呈し、2日後に多臓器不全で死亡した。患者宅から採取したグロリオサ塊茎中のコルヒチンをHPLC及びLC/MS/MSで分析したところ、コルヒチン0.59mg/gを検出した。

原因究明:
1 検査方法
グロリオサ塊茎を細切後、メタノールを加えてホモジナイズし、定容した後、メンブレンフィルターでろ過したものを試験溶液とした。
分析はLC/MS/MS及びHPLCにより定性及び定量試験を行った。
LC/MS/MS条件
カラム:XBridge C18(φ2.1mm×150mm、3.5μm)
移動相:5mM酢酸アンモニウム・65%メタノール水溶液
イオン化モード:ESIポジティブ
測定モード:SIM、MRM、プロダクトスキャン
HPLC条件
カラム:MightysilRP-18(φ4.6mmX250mm、5μm)移動相:50%メタノール水溶液
測定波長:UV 242nm及び280nm
2  検査結果
LC/MS/MSによる分析で、コルヒチン標準品と検体のスペクトルが一致した。また定量イオンと確認イオンのイオン比も、標準品と一致した。HPLC分析により、コルヒチン含有量は0.59mg/gであった。
コルヒチンのヒトにおける最小致死量は経口で0.086mg/kg(体重)とされている(ナカライテスク株式会社:製品安全データシートNo.09305より)。今回の事例の場合、わずか10g程度の摂取で成人(体重50kg)の致死量(4.3mg)以上となることが明らかとなった。

診断:

地研の対応:
事件発生後、管轄保健所から、患者宅に残っていたグロリオサ塊茎(患者が摂食したものとは別の塊茎)中のコルヒチン検査の依頼があった。このため、文献等によりコルヒチン分析法の確認、標準品の入手等、検査の準備を進め、塊茎中のコルヒチンの定性及び定量試験を行った。

行政の対応:
再発防止のため、報道媒体を通じて、本来食用を目的としない植物の誤食に注意するよう広く県民に啓発を行った。

地研間の連携:
横浜市衛生研究所及び高知県衛生研究所より、分析上の情報を得た。

国及び国研等との連携:
特になし

事例の教訓・反省:
特になし

現在の状況:
植物中に含有されるコルヒチンに関しては、迅速に検査を行うことが可能である。

今後の課題:
今回は、検体がグロリオサ塊茎のみであったが、より低濃度で妨害物質の多い患者血清等、生体試料の分析を行う場合は、検査法の検討が必要である。

問題点:

関連資料:
佐藤正幸他:道衛研所報、53、82-83(2003)
桐ヶ谷忠司他:横浜衛研年報、45、91-96(2006)
荒尾真砂他:第44回全国衛生化学技術協議会年会講演集、67-68(2007)