No.1498 A型肝炎ウイルスによる食中毒

[ 詳細報告 ]
分野名:ウィルス性食中毒
登録日:2016/03/08
最終更新日:2016/05/27
衛研名:千葉市環境保健研究所
発生地域:千葉市
事例発生日:2010年12月20日
事例終息日:2011年2月10日
発生規模:
患者被害報告数:49名
死亡者数:0名
原因物質:A型肝炎ウイルス
キーワード:A型肝炎ウイルス、遺伝子型、寿司店、食中毒

背景:
A型肝炎の潜伏期間は長く、感染源や感染経路の特定が極めて困難である。また、感染拡大を防止するためには、患者発生届の徹底、及び医療機関や保健所との情報共有が重要である。本事例は複数の医療機関から速やかにA型肝炎発生届が出され、保健所と衛生研究所の連携によって探知から約1週間で原因施設を特定できた貴重な事例であった。

概要:
2011年1月21日、4件のA型肝炎発生届が市内医療機関から千葉市保健所にあり、同保健所は食品や井戸水等の同一感染源を介した集団発生を疑い調査を開始した。その後、複数の市内医療機関からA型肝炎発生届があり、千葉市外を含めて患者数は合計49名となった。
調査の結果、患者49名は2010年11月下旬から12月下旬にかけて千葉市内の飲食店(寿司店)を利用していたことが明らかとなった。
リアルタイムPCR法により、市内の患者33名の糞便からA型肝炎ウイルス(HAV)遺伝子が検出された。同様に寿司店の従事者便について遺伝子の検出を行ったところ、寿司店の調理従事者2名及びフロア従事者1名(その後の調査で日頃から当該寿司店の寿司を喫食していたことが判明し、本事件の患者であると認定された)からHAV遺伝子が検出された。
一方、寿司店における参考食品及び拭き取り検体からHAV遺伝子は検出されなかった。さらに、二次感染の有無を把握する目的で、協力が得られた患者家族の糞便について検査を行った結果、HAV遺伝子は検出されなかった。
なお、患者と調理従事者から検出されたHAV遺伝子の塩基配列は一致し、同一感染源に由来する株であることが明らかとなった。
以上の結果から、本事例は2名の調理従事者を介した食品汚染により発生した食中毒であることが強く示唆された。

原因究明:
リアルタイムPCR法によってHAV遺伝子が検出された市内の患者33名及び従事者3名についてVP1/2A領域(200bp)の解析を行ったところ、全てgenotype 1Aに分類され、2006年に滋賀や新潟で小流行した株(1A-NiigataC/2006J)と同じクラスターに属していたことから、10年程度前から国内に常在していた株であり、2010年に日本で広域的に流行した株(1A-HAV-DE-2007/08-196)とは異なる株であると考えられた。また、患者と調理従事者の塩基配列は一致し、同一感染源に由来する株であることが明らかとなった。
以上のことから、本事例では2名の調理従事者による食品の直接的な汚染、あるいは調理従事者によって汚染された調理施設等を介した食品の汚染が強く示唆された。

診断:
リアルタイムPCRにより、患者33名の糞便から1g当たり5.2×104~8.7×109コピーのHAV遺伝子が検出された。また、従事者3名から糞便1g当たり5.3×104~3.5×1011コピーのHAV遺伝子が検出された。
なお、発症前から糞便中にHAVを排出している患者(1.1×108コピー)と従事者(3.5×1011コピー)がそれぞれ1名ずつ存在することが明らかとなった。

地研の対応:
保健所が採取した市内の患者便33検体、寿司店の従事者便34検体、患者家族の糞便26検体、寿司店における参考食品5検体、及び拭き取り6検体についてリアルタイムPCR法(平成21年12月1日付食安監発1201第2号「A型肝炎ウイルスの検出法について」)によるHAV遺伝子(5UTR領域)の検出を行った。