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本ページでは現在連載中の、健康局結核感染症課の浅沼一成課長によるコラムを掲載しています。
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◆「あさコラム」vol.17「西のマダニ、北のマダニ」(2016年8月19日)
こんにちは、厚生労働省健康局結核感染症課長の浅沼一成です。
リオ五輪、日本選手の熱い戦いをTV中継で観るために、毎晩寝不足になっている方も多いのではないでしょうか?
わが国のメダルラッシュもさることながら、国を問わず出場選手の健闘ぶりを見るたびに、感動を覚えます。
そんなリオ・デ・ジャネイロですが、報道によると当局の徹底した蚊の駆除により、蚊がほとんどいないという状況だとか。
とはいえ、ブラジルが蚊媒介感染症の流行国であることには違いはありません。今後も油断せず、ブラジルからの帰国者を中心とする蚊媒介感染症対策に努めていきます。
しかし、蚊以外にも、小さくても、ヒトに恐怖を与える厄介な生き物がいます。
それはダニです。
刺されるとかゆい、発赤や腫れを起こす、アレルギーの原因となるなど、ダニはヒトの健康に様々な悪影響を与えます。
ダニの種類は確認されているだけで2万種を越えているそうですが、中でも、
今回のトピックスにも取り上げられたマダニは感染症対策上、注意すべきダニの一つです。
マダニに刺されると、日本紅斑熱やライム病などの感染症にり患することが知られていますが、特に問題となっているのは「重症熱性血小板減少症候群(以下、SFTS)」です。
SFTSは平成23年(2011年)に命名された感染症で、SFTSウイルスを持ったマダニに刺されてウイルスに感染します。
6日〜2週間の潜伏期間を経て発症した場合、発熱、嘔吐、下痢などを起こし、致死率は6〜30%程度とのこと。
このウイルスを持ったマダニは国内で広く分布していますが、感染症発生動向調査によりますと、これまでに203人の患者さんが西日本の20府県から届出られています。
このうち48人の方が、残念にも亡くなられましたが、現在のところ特異的な治療法はなく、対症療法が中心となる感染症です。
また、今年7月には、北海道でマダニに刺された方が「ダニ媒介脳炎」を発症したことが確認されました。
フラビウイルスであるダニ媒介脳炎ウイルスを持ったマダニに刺されることによりウイルスに感染し、7〜14日の潜伏期間を経て、発熱や神経症状を呈する感染症です。
致死率はウイルスによって数%〜20%と言われています。
わが国では、平成5年(1993年)以来2例目の発症でしたが、感染した方は残念にもお亡くなりになりました。
ご冥福をお祈りいたします。
このような重篤な感染症を引き起こすマダニに対しては、徹底的に戦っていかなければなりません。
では、戦い方はどうするか?
まずは、マダニに刺されないこと。
特に、マダニの活動が盛んな春から秋にかけては、マダニに咬まれる危険性が高まります。
農作業や野山を散策をする場合、長袖・長ズボン、足を完全に覆う靴、帽子、手袋を着用し、肌の露出を少なくすることが大事です。
草むらやヤブなど、マダニが多く生息する場所に入る時は、特に注意が必要です。
マダニの付着が確認できるよう明るい色の服を着るなどの工夫をするとともに、ディートなどの虫除け剤を活用することも効果的です。
また、マダニに刺された場合、皮膚科等を受診して皮膚の刺し傷を確認してもらい、炎症を起こしている場合は治療をしてもらいましょう。
そして、数週間は体調の変化に注意をはらい、発熱等の症状が認められた場合は、急いで医療機関で診察を受けて下さい。
オリンピックも感染症対策も、戦い方が重要です。
草むらなどには極力入らない、入る時は肌の露出を少なくするなど、マダニに勝つためには防御の戦術を取ること。
その結果、生命のメダルを死守することになります。
チームニッポン、よろしくお願いいたします。
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