No.17004 輸入感染例を発端とした麻しん患者発生事例

[ 詳細報告 ]

分野名:ウイルス性感染症
登録日:2017/04/04
最終更新日:2018/03/22
衛研名:石川県保健環境センター
発生地域:石川県
事例発生日:2017/04/10
事例終息日:2017/05/22
発生規模:4名
患者被害報告数:4名
死亡者数:0名
原因物質:麻しんウイルス
キーワード:麻しんウイルス、インド、遺伝子型D8

背景:
麻しんは麻しんウイルス(MeV)により引き起こされる感染症で、飛沫核感染(空気感染)すること、また発症前から感染力を持つことから、感染拡大防止対策が非常に重要な疾患である。石川県では、全国に先駆け2002年から、医師会と県が連携し「麻しん迅速対応事業」を実施し、麻しんの全数把握とPCR法による検査診断などの対策を講じてきた。その後、2008年に麻しんは感染症法に基づく全数把握対象疾患となったが、より迅速に検査診断を可能とするため本事業を継続している。その効果もあり、本県では2009年の1例を最後に麻しん患者の発生はなかったが、2017年4月、約8年ぶりに麻しん患者が発生し、当センターにて多くの麻しん検査を実施するなどの対応をしたので、その概要を報告する。

概要:
初発患者は、A市在住の30歳代男性で、2017年3月23日から4月6日までインドに滞在していた。麻しんワクチン接種歴は不明である。最初に症状(悪寒)があったのは4月2日で、帰国後、高熱及び発疹がみられ、4月8日から入院していた医療機関にて麻しんを疑い、当センターのMeV遺伝子検出により診断に至った。帰国から診断に至るまでに、患者は複数の医療機関を受診しており、小学校の入学式参列や写真館の利用があった。初発患者の情報を基に、医療機関で麻しん疑いと診断された症例46人の131検体(咽頭ぬぐい液、血液、尿)について、当センターにてMeV遺伝子検査を実施した結果、3人(8検体)からMeV遺伝子が検出された。これら3人はいずれも二次感染者であり、その後の三次感染はなかった。そして、本事例は国のガイドラインに基づき、最終接触者発生から4週間経過後の5月22日に、A市及び県において終息したと判断された。

原因究明:

診断:
リアルタイムPCR、N遺伝子の遺伝子型解析、BLASTおよび系統樹解析

地研の対応:
MeV遺伝子の検出は、リアルタイムPCRにより行った。初発患者から検出されたMeVの遺伝子型を特定したところD8型であった。D8型は、国内の輸入事例として、近年数多く報告されており、また、インドでも主流の型であることから、当該患者とインドの報告例並びに最近の国内報告例の塩基配列を系統樹解析により比較したところ、インド報告例と近似していたことから同国で感染したと推定された。
また、接触者等46人(131検体)のMeV遺伝子検査の結果、入学式での接触者2人(4月22日;40歳代・女性、24日;30歳代・男性)、写真館での接触者1人(4月24日;10歳代・女性)の計3人(8検体;30歳代男性は尿のみ非検出)からMeV遺伝子が検出された。この3人の8検体から検出されたMeV遺伝子の遺伝子型は全てD8型で、N遺伝子上の遺伝子型決定部位の塩基配列は初発患者も含めて100%一致したことから、3人は初発患者からの二次感染者であることが確定した。二次感染者3人のワクチン接種歴は、順に1回、不明、2回であった。当センターにて、感染者4人の遺伝子検出のために搬入された血液を用いて、PA法による麻しん抗体価を測定したところ、初発患者は16未満で下限値以下であったが、二次感染者の3人は512倍、2048倍以上、1024倍といずれも高力価であったことから、初発患者は初感染であり、二次感染者の3人は修飾麻しんであることが推定された。

行政の対応:
4症例いずれにおいても、報道機関に資料提供することで県民に広く注意喚起を行うと同時に、各保健所にて電話相談窓口を開設し県民からの相談に対応した。そのほか、医療機関を対象とした感染拡大防止のための緊急研修会の開催や、小中学校等教育関係者や保育関係者を対象とした、麻しん対策における意識向上を目的とした研修会を開催し、広く周知を図った。

地研間の連携:

国及び国研等との連携:
国立感染症研究所ウイルス第三部第二室の染谷健二先生ならびに關文緒先生に、MeV遺伝子の系統樹解析等に関する情報および助言を提供していただいた。
国立感染症研究所に実地疫学専門家(FETP)派遣を要請し協力を得た。

事例の教訓・反省:

現在の状況:

今後の課題:
今回の事例において、当センターにおけるMeV遺伝子検査については、概ね正確かつ迅速に実施できたと思われる。しかしながら、近年患者が発生していなかったことから、当センター担当者、保健所担当者いずれにおいても対応に混乱を来した。具体的には、検体搬入において、氏名等情報の齟齬や、搬入予定時間の連絡行き違いなどのトラブルが散見され、情報共有や連携において若干課題が残った。今回のようなアウトブレイク時には、1日に多くの検体が複数の保健所から持ち込まれるため、依頼、搬入時間調整、結果の報告などにおける情報の取り扱いについては、工夫が必要と感じた。
今回の事例はゴールデンウイークと重なり、検査人員のローテーションを組むうえでウイルス担当者のみでは対応が難しく、細菌担当者の協力も得て対応したが、日頃から、健康危機管理時におけるセンター内での協力体制を強化しておく必要性を改めて感じた。また、ウイルスグループ保有のリアルタイムPCR装置は1台のみであり、麻しんの対応と、同機器を使用する必要のある食中毒対応(ノロウイルス)が重なった場合、他グループ所有のリアルタイムPCR装置の検証を行ったうえで使用することとなった。この経験から、危機管理に使用する機器においても相互にバックアップ体制をとっておく必要があると感じた。

問題点:

関連資料: