[ 詳細報告 ]
分野名:自然毒等による食中毒
登録日:2017/04/04
最終更新日:2018/03/22
衛研名:北海道立衛生研究所
発生地域:富良野保健所管内
事例発生日:2017/05/11
事例終息日:2017/5/15(食中毒公表日)
発生規模:1家族3名喫食
患者被害報告数:3名
死亡者数:1名
原因物質:コルヒチン
キーワード:イヌサフラン、ギョウジャニンニク、家庭菜園、コルヒチン、北海道
背景:
イヌサフラン(ユリ科、APG分類体系ではイヌサフラン科)はヨーロッパや北アフリカに広く分布する多年草草本で、日本でもコルチカムの園芸名で一般に広く普及し家庭で栽培されている。自宅庭にギョウジャニンニク等の山菜や野菜とともにイヌサフランを栽培していたために、誤食による食中毒事件が近年急増している。
概要:
富良野保健所管内で、知人宅敷地内から採取した植物をギョウジャニンニクと思い、自宅で炒め物にして喫食した。1家族3名が約30分後に下痢、嘔吐等の症状を呈し、翌日医療機関に緊急搬送された。富良野保健所の調査の結果、有症者が当該植物を採取した場所にイヌサフランが生えていたこと、有症者の症状がイヌサフランに含まれる有毒成分コルヒチンによる中毒症状と一致したことなどから、イヌサフランを原因食品とする食中毒と断定された。なお、有症者のうち1名は容態が悪化し死亡した。
原因究明:
富良野保健所は、有症者の当該植物採取場所の現地調査を行いイヌサフランと思われる植物を発見し、北海道立衛生研究所へ鑑別を依頼した。
診断:
搬入された検体についてHPLC-UVで分析したところ、当該植物(4検体)からコルヒチンを0.46~0.61 mg/g検出した。コルヒチンのヒトにおける最小致死量は経口で86 µg/kgとされており、体重50 kgのヒトで4.3 mgに相当する。今回搬入された植物の葉は1枚約2gあり、4、5枚の喫食で致死量近くに相当する。
地研の対応:
富良野保健所からの依頼により、有症者の当該植物採取場所から採取した植物の形態学的鑑別及び化学的分析を行った。その結果、イヌサフランとの形態が一致したこと、さらに植物からコルヒチンを検出したことから、イヌサフランと同定した。
行政の対応:
富良野保健所は、地元警察署から有毒植物による食中毒が疑われる患者が死亡したとの情報提供を受け、入院中の家族の疫学調査、診察した医師からの聞き取り、植物が生えていた場所の状況確認等を行った。その結果、北海道立衛生研究所の同定結果から、有症者の植物採取場所にイヌサフランが生えていたこと、有症者の症状がイヌサフランに含まれる有毒成分コルヒチンと一致したことなどから、イヌサフランを原因食品とする食中毒と断定した。また、本事件の公表を行い有毒植物による食中毒予防を広く道民に注意喚起するとともに、富良野保健所管内市町村宛にリーフレットを送付し、住民への啓発を依頼した。
地研間の連携:
特になし
国及び国研等との連携:
特になし
事例の教訓・反省:
本事例では、知人不在時に知人宅敷地内から植物を採取したため、ギョウジャニンニクとイヌサフランの誤認が生じた。食用植物を栽培する家庭菜園に有毒植物を混栽しないこと、異常を感じた際には一刻も早く医療機関を受診することなど、住民への注意喚起が必要である。
また、本事例の探知は、患者が死亡したことによる警察からの情報提供であり、有毒植物による食中毒が疑われる患者を診察した場合には、保健所に速やかに届け出るよう医療機関等への周知徹底が必要である。
現在の状況:
北海道立衛生研究所では毒草による食中毒を防止する啓発活動として、平成20年度より北海道食品衛生課及び札幌市と合同で「春の山菜展」を開催しており、近年のイヌサフランの誤食による食中毒の急増を踏まえ、同イベントではこのことに関して特に強く注意喚起を行っている。また、有毒植物による食中毒発生時に対応すべく、形態学的鑑別を行う際に有用な当所薬用植物園の充実及び化学的分析に関する基礎的研究に取り組んでいる。
今後の課題:
全国の食中毒発生動向を注視するとともに、道内において発生が懸念される有毒植物による食中毒に備えた検査体制のより一層の充実が求められる。
問題点:
関連資料:
1) 佐藤正幸, 姉帯正樹, 南収:道衛研所報, 53, 82-83 (2003)
2) 佐藤正幸, 姉帯正樹, 南収:道衛研所報, 54, 107-108 (2004)
3) 佐藤正幸, 姉帯正樹:道衛研所報, 60, 45-48 (2010)
4) 藤本啓, 姉帯正樹, 佐藤正幸:道衛研所報, 64, 75-76 (2014)
5) 髙橋正幸, 藤本啓, 佐藤正幸:道衛研所報, 66, 99-100 (2016)