[ 詳細報告 ]
分野名:その他
登録日:2017/04/04
最終更新日:2024/08/21
衛研名:横浜市衛生研究所
発生地域:横浜市内
事例発生日:2016/06/28
事例終息日:2016/06/28
発生規模:14校
患者被害報告数:19名
死亡者数:0名
原因物質:乳タンパク
キーワード:横浜市、小学校、給食、食物アレルギー、乳タンパク、コロッケ、脱脂粉乳、ELISA
背景:
小学校児童の食物アレルギー患者数は全国的に増加傾向にあり、給食による食物アレルギーの発症事例も報告されている。横浜市では食物アレルギーを有する児童が全体の3%程度おり、給食による食物アレルギーを未然に防ぐため、教育委員会が作成したマニュアルに基づいて様々な取り組みがなされている。横浜市の小学校給食は約350校20万食規模で、基本的に全市統一の基準献立により実施されている。給食食材は概ね公益財団法人よこはま学校食育財団(以下、食育財団)が一括調達しており、食材を各校に配送し、各校の給食室で調理する「自校調理方式」である。また、市域を4ブロックに分け、メニューの提供日を変えている。
概要:
横浜市立小学校で給食を喫食後、同一献立(同一ブロック)である78校のうち14校19名の児童が喉の違和感・かゆみ、発疹等の食物アレルギー様症状を呈する事故が発生し、2名が救急搬送された。原因食品として共通食材のコロッケ(一括調達)が疑われ、発症者全員が乳アレルギーを有していたことから、5校分の検食のコロッケ5検体について、通知法1)に従いELISA法による乳タンパクの検査を横浜市衛生研究所で実施したところ、いずれも10ppm以上で陽性となった。併せて、食育財団による調査の結果、コロッケの製造記録から脱脂粉乳の使用が確認された。本件は、給食物資の一括調達の中で、食物アレルギー対策として乳由来の原材料は使用しない仕様の冷凍コロッケを発注したのに対し、製造業者が誤って市販品と同じ脱脂粉乳入り冷凍コロッケを製造・納入したために、喫食した乳アレルギー児童が複数発症した事故であった2)。
原因究明:
発症者全員が乳アレルギーを有していること、共通食材のコロッケの検査結果がいずれも乳タンパク陽性であったこと、製造記録から脱脂粉乳の使用が確認されたことから、本件は乳タンパクによる食物アレルギー事故と判断した。
診断:
検食のコロッケ5検体について、通知に従い森永生科学研究所製ELISAキット(以下、Mキット)および日本ハム製ELISAキット(以下、Nキット)の2種類で乳タンパクを検査したところ、Mキットでは650~1,500ppm、Nキットでは1検体が1,200ppm、4検体が20ppm以上(緊急検査のため、4検体は数値化できなかった)であり、いずれの検体も陽性の判断基準となる10ppm以上であった(検出値は参考値)。なお、食物アレルギーの検査として通知に示されている特定原材料(乳、卵、小麦、そば、落花生、えび、かに)の検査では、特定原材料表示の記載、ELISA法の検査結果および製造記録の確認を踏まえて「確認検査」の実施の有無を決定する。今回は原材料表示に乳の記載がなく、ELISA検査は陽性となったが、製造記録に乳使用の記載があったことから、通知の判断樹に基づいて乳の「確認検査」(ウエスタンブロット法)は実施しなかった。
地研の対応:
横浜市保健所からの依頼により、検食のコロッケ5検体について、2種類のELISAキットで乳タンパクを検査した。
行政の対応:
教育委員会、各小学校、食育財団、横浜市保健所およびコロッケの製造業者を管轄する自治体の保健所が連携して、状況の把握(発症校、発症児童数、症状、発症時間および食物アレルギーの有無など)や業者への聞き取り調査等を行った。また、当所において原因食品の疑いがあったコロッケの検査を実施し、上記内容と併せて原因究明を図った。教育委員会および食育財団では、本件発生直後に各校に注意喚起するとともに、翌日に調査結果や当所での検査結果を含めて記者発表を行った。なお、コロッケの製造業者を管轄する自治体の保健所において、後日、当該食品を表示違反とした。横浜市では今回の事例を踏まえ、教育委員会において小学校給食に関するマニュアルを改訂し、さらに、保育所を管轄するこども青少年局並びに食品衛生を担当する健康福祉局において新たに食物アレルギーに関するマニュアルを作成し、食物アレルギー防止対策や事故発生時の対応・連絡体制等の強化を図った。
地研間の連携:
神奈川県内衛生研究所等連絡協議会理化学情報部会において事例紹介し、情報共有した。
国及び国研等との連携:
特になし
事例の教訓・反省:
横浜市では、過去にも2008年度の小学校給食で卵を使用しないように発注していた竹輪で、製造業者が卵を使用したうえ、原材料表示に卵の記載をしなかったことが原因で、卵アレルギーの事故が発生している(12校13名が発症)。今回も同様に、製造業者が誤ってコロッケに脱脂粉乳を使用し、さらに原材料表示に乳の記載をしなかったことで乳アレルギーの事故が発生したことから、改めて製造業者等への指導・啓発の重要性と、給食による事故が児童の健康に大きな影響を及ぼすことを再認識した。一方、衛生研究所の役割として、健康被害発生時の迅速な検査対応による原因究明が求められる。しかし、通知法である特定原材料の検査方法は、使用するELISAキットが特定原材料別であるうえ高額で、使用期限も比較的短いことから、一検査機関で各種のELISAキットを常備することは難しい。今回の事例では当所に乳のELISAキットの在庫があり、迅速に検査対応することができたが、在庫がなければ迅速対応できない可能性が高く、ELISAキットの常備や他の検出法の検討の必要性を感じた。横浜市では以前に特定原材料の緊急検査を行った際、当所にELISAキットの在庫がなかったために、近隣自治体の衛生研究所からELISAキットを借用して対応したことがある。食物アレルギー対応だけに限られたことではないが、健康危機事案の発生に対しては、地方衛生研究所間の連携も重要と思われた。
現在の状況:
横浜市健康福祉局では、2011年度から食の安全に関する重点事業の一つとして食物アレルギーによる健康被害の防止対策(自校調理におけるコンタミネーション防止等の指導、除去給食の検査結果のフィードバック等による支援)に取り組んでおり、この検査を当所で実施している。今回の事例を踏まえ、横浜市では食物アレルギー事故の緊急対応のため、2017年度から当所に小学校給食で食物アレルギーの発症頻度が高い乳と卵のELISAキットを常備し、迅速な検査体制を維持することとした。
今後の課題:
乳および卵以外の特定原材料についてはELISAキットが常備されていないため迅速な対応ができない可能性があり、さらに特定原材料以外についてはほとんど対応できないことが課題である。今後、イムノクロマトの導入やPCRでの判定、LC/MS/MSでの検査検討も必要と思われる。
問題点:
食物アレルギー全般への検査対応
関連資料:
1) 消費者庁通知(平成 27年3月 30日消食表第139 号)
2) 池野恵美ら、食品に関する化学物質などによる事故および苦情事例(第24報)、横浜市衛生研究所年報 第56号(2017年)