[ 詳細報告 ]
分野名:ウィルス性食中毒
登録日:2017/04/04
最終更新日:2018/03/22
衛研名:東京都健康安全研究センター
発生地域:東京都
事例発生日:2017/02/17(事例探知日)
事例終息日:2017/03/09(最終の検査結果報告日)
発生規模:4,209名(喫食者)
患者被害報告数:1,193名
死亡者数:0名
原因物質:ノロウイルスGII.17
キーワード:ノロウイルス、刻みのり、学校給食
背景:
これまで、複数事例の原因として、単一の食品が特定されたノロウイルス食中毒はあまり報告がない。今回、東京都において、学校給食で提供された刻みのりを原因とした食中毒事例が短期間に連続して4事例発生したので報告する。
概要:
2017年2月、東京都内の小中学校で食中毒が4事例発生した。患者は10の学校にわたり、いずれの事例においても患者からノロウイルス(NoV)GIIが検出された。従事者においては、給食を喫食していた1名を除きNoVは検出されず、また調理施設等の拭き取り検査においても検出されなかった。事例ごとに給食メニューは異なっていたが、全事例に共通して提供されていたものは同一業者が2016年12月に製造した刻みのりであり、検査に供された31の刻みのりのうち7検体がNoVGII陽性となった。刻みのりと4事例の患者検体のNoV塩基配列は一致し、その遺伝子型はGII.17であった。これらの結果から、今回の4事例は同一刻みのりを感染源としたNoVGII.17による食中毒と断定された。
原因究明:
- 患者はいずれの事例においても、全員当該施設で調理・提供した給食を喫食していた。
- 患者は全員、刻みのりを喫食していた。
- 4事例の患者由来のNoV遺伝子塩基配列が100%一致した。
- 刻みのりと患者由来のNoV遺伝子塩基配列が100%一致した。
- 刻みのり31検体中7検体(同一ロット5、残品1、検食1)よりNoVGIIが検出された。
診断:
地研の対応:
- 患者、従事者糞便等および拭き取り・食品について細菌およびウイルス検査を実施した。NoVの検査は厚生労働省通知を一部改変したワンステップリアルタイムRT-PCR法にて行った。刻みのり31検体および一部の検食27検体については、nested リアルタイムPCR法も実施した。食品検体の前処理は細菌添加法(関連資料1、2参照)にて行った。陽性検体のうち、患者20検体(4事例由来)および刻みのり7検体については厚生労働省通知に基づき、COG2F/G2SKR、G2SKF/G2SKRプライマーセットを用いてnested PCRを実施した後、ダイレクトシーケンス法により塩基配列を決定した。
- 患者(給食を喫食し、発症した従事者1名を含む)糞便265検体中207検体よりNoVGIIを検出
- 従事者糞便165検体、検食等食品70検体、拭き取り43検体からはNoVを検出せず
- 刻みのり31検体中7検体よりNoVGIIを検出
- 患者より食中毒起因菌は検出せず
行政の対応:
- 保健所は探知した日から調査を開始
- 給食施設に対し食品衛生法に基づく行政処分の実施(給食供給の停止)
- 事件の発生・行政処分の実施について報道機関に公表
- 学校等における感染拡大防止対策の指導
- 給食施設等への指導
地研間の連携:
- 地方衛生研究所全国協議会を通じて、刻みのりの検査法を公開
- 地方衛生研究所全国協議会を通じて、GII.17のRdRp領域およびVP1領域の塩基配列決定法、ならびに他自治体でのGII.17事例配列を入手
国及び国研等との連携:
- 全国の流行株(GII.2)の情報と一部地域でのGII.17の流行情報を入手
事例の教訓・反省:
- あらゆる食品(乾物)が感染源となりうることが分かった。
- NoVが約2ヵ月間感染性を保持していることが疫学的に示された。
現在の状況:
- ウイルス付着量が少ないと予想される食品からの検出には、細菌添加法ならびに遺伝子検出系にnestedリアルタイムRT-PCR法を用いて検出効率の増加を図っている。また、食品検体の処理には、専用の実験室とスタッフによる専任制を用いて行っている。
今後の課題:
- 刻みのりの様な乾物が汚染された場合、検出のための検体供試量の算定は困難である。
問題点:
関連資料:
- 秋場哲哉他:細菌添加培養処理によるカキ等からのノロウイルス検出率の向上、食衛誌、49、407-410(2008)
- 秋場哲哉他:ノロウイルス検査における細菌培養処理法(A3T法)の市販カキを用いた実用化に向けた検討、日食微誌、28、128-132(2011)
- 食品衛生研究 第67巻第11号、7-47頁、「特集「刻み海苔」に関連するノロウイルス食中毒事件」