[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性食中毒
登録日:2017/04/04
最終更新日:2018/03/22
衛研名:熊本市環境総合センター
発生地域:熊本市
事例発生日:2016/05/06
事例終息日:2016/05/06
発生規模:
患者被害報告数:34名
死亡者数:0名
原因物質:黄色ブドウ球菌
キーワード:黄色ブドウ球菌、おにぎり、避難所、地震、
背景:
2016年4月14日と16日に発生した平成28年熊本地震により、熊本市内では最大約11万人が避難した。それから約半月が過ぎた5月6日、A避難所で提供されたおにぎりを原因とした黄色ブドウ球菌による食中毒が発生したので報告する。
概要:
2016年5月6日、熊本市消防局から「指定避難所となっているA避難所において10名程度が嘔気、嘔吐、下痢を発症し、うち数名を救急搬送した。」との連絡が市保健所に入った。
調査の結果、5月6日の昼食を原因とし、喫食者数54名、有症者数34名の食中毒となった。
搬入検体
食品9検体、ふき取り10検体、有症者便7検体、嘔吐物8検体、調理従事者便1検体。
検査項目;食中毒起因菌
原因究明:
患者の共通食は避難所で喫食したものだが、飲食店で調理したおにぎりと避難所で準備した災害支援物資が混在し、詳細な情報が不明であった。検査の結果、有症者便7検体中7検体、嘔吐物8検体中7検体、食品9検体中2検体、ふき取り10検体中4検体(作業台、手洗い用水道のコック、手洗い用水道のシンク、調理従事者の手)から黄色ブドウ球菌が検出され、全てエンテロトキシンA型産生株であった。黄色ブドウ球菌の検出された食品2検体は、10倍乳剤から直接エンテロトキシンAが検出された。なお、調理従事者便1検体からは黄色ブドウ球菌は検出されなかった。黄色ブドウ球菌およびエンテロトキシンAが直接検出された食品は、「おかかおにぎり」であった。
以上のことから、保健所は、飲食店で調理した「おかかおにぎり」を原因とするエンテロトキシンA産生黄色ブドウ球菌による食中毒と断定した。
診断:
地研の対応:
環境総合センターは、多くの職員が発災直後から避難所運営業務や支援物資搬送など所外での災害対応業務に従事し、所内に残っている職員が少ないという状況の中で、BCPに基づき定例の検査業務は中止となっていたものの、本市を含む連携中枢都市圏内での断水を受け、市民等が保有する井戸の水質検査を応急業務として受付けるなど、混乱を極めていた。
また、施設も停電、断水のほか様々な被災状況が明らかになる中、微生物部門では機器等の転倒により多くの培地が廃棄処分となったうえに新たな培地の作製が厳しく、多数の検体、多項目の検査への対応が困難な事態となっていた。このように、人員も検査器材も限られた状況の中での食中毒発生を受け、可能な限り効率的に原因究明ができるよう心がけた。
食品9検体、有症者便7検体、嘔吐物8検体、ふき取り10検体、調理従事者便1検体が搬入されたが、有症者症状と発症時間が(喫食12:30初発13:00)短時間であることから、黄色ブドウ球菌やセレウス菌による毒素型食中毒を疑い、先ず食品10倍乳剤をグラム染色のうえ鏡検したところグラム陽性球菌が多く確認されたため、食品10倍乳剤を検体としてデンカ生研製の検査キットSET-RPLAによりエンテロトキシン検査を行った。地震の影響で培地の準備が十分できなかったことから、直接培養を主とし、増菌培養はグラム染色の顕微鏡所見から黄色ブドウ球菌のみとし、増菌培養対象検体は「拭き取り検体」、「患者検体」とした。直接培養に用いた培地はソルビトールマッコンキー培地、MSEY培地、DHL培地、SS培地、NGKG培地、カナマイシン加卵黄CW培地、CCDA培地、TCBS培地各1枚ずつ使用した。また、ノロウイルスは発症時間(2時間弱程度)と食品のグラム染色の所見から検査を行わなかった。結果は原因究明に示しているとおりとなった。
行政の対応:
市保健所食品保健課では、熊本市消防局からの連絡を受け、食中毒疑い事例として調査を開始した。患者の共通食は5月6日の昼食にA避難所で提供された食事のみであり、患者の発症状況が黄色ブドウ球菌食中毒の特徴と合致していること、熊本市内の飲食店で調理された「おかかおにぎりの残品」や「患者の便及び嘔吐物」から黄色ブドウ球菌が検出されたことから、「おかかおにぎり」を原因とする黄色ブドウ球菌食中毒と断定した。
「おかかおにぎり」を調理した飲食店については、施設の清掃・消毒の指導及び従事者の衛生教育を実施した。また、本事例を踏まえ、全避難所に対し食品の消費期限遵守及び温度管理等に重点をおいた啓発・指導を実施した。
地研間の連携:
なし
国及び国研等との連携:
なし
事例の教訓・反省:
熊本地震では、事前に策定されたBCPの想定を上回る事態が発生したことから、BCPを策定するうえでは、過去の事案の情報をH-CRISIS等で収集し、より現実的な内容を盛り込むことが必要と考えた。災害を含め様々な混乱した状況下では、職員が如何に多くのアイデアを自ら搾り出し、組織は短時間にこれを判断し具現化していくことが如何に重要かということが経験から得た教訓である。
現在の状況:
今後の課題:
災害時の大規模食中毒事例や健康被害発生時の対応
問題点:
関連資料:
なし