参照元URL : https://www.mhlw.go.jp/haishin/u/l?p=k24trfegxboH4g4BY
平成22年5月21日作成
平成30年9月27日更新
カプノサイトファーガ感染症について、現在判明している状況など正しい情報を提供することで、予防対策等について理解を深めていただきたく、厚生労働省において、Q&Aを作成しました。
今後、カプノサイトファーガ感染症に関する知見の進展等に対応して、逐次、本Q&Aを更新していくこととしています。
目次
一般の方向け
Q1 イヌ・ネコ由来カプノサイトファーガ感染症とは?
Q2 人への感染経路は?
Q3 臨床症状は?
Q4 国内のイヌやネコの保菌状況は?他の動物の保菌状況は?
Q5 飼っているイヌやネコからの感染の心配はないか?
Q6 飼っているイヌやネコの保菌状況を検査できるか。また、菌の排除は可能か?
Q7 イヌやネコに咬まれたり引っ掻かれたりした時の対処方法は?
Q8 どの医療機関を受診しても、本菌の検査は可能か?
Q9 日本での発生状況は?
Q10 諸外国での発生状況は?
Q11 感染予防のためには?
Q12 イヌ用、ネコ用のワクチンはないか?人用のワクチンはないか?
専門家の方向け
Q13 診断方法は?
Q14 具体的に、どのような臨床症状等によって、本感染症を疑うのか?
Q15 鑑別診断は?
Q16 早期診断が可能な検査方法は?
Q17 治療方法は?
Q18 カプノサイトファーガ感染症と診断した場合に、行政機関への報告は?
Q19 相談窓口は?
一般の方向け
Q1 イヌ・ネコ由来カプノサイトファーガ感染症とは?
- A1 イヌ・ネコの口腔内に常在している3種の細菌、カプノサイトファーガ・カニモルサス(C. canimorsus) 、カプノサイトファーガ・カニス(C. canis)及びカプノサイトファーガ・サイノデグミ(C. cynodegmi)を原因とする感染症です。
この病気は、イヌやネコに咬まれたり、ひっ掻かれたりすることで感染します。なお、動物による咬傷に対し、報告されている患者数は非常に少ないことから、診断に至らなかった患者がいるとしても、本病は感染しても稀にしか発症しないと考えられます。
Q2 人への感染経路は?
- A2 主にイヌやネコによる咬傷・掻傷から感染しますが、傷口をなめられて感染した例も報告されています。
これまで、ヒトからヒトへの感染の報告はありません。
Q3 臨床症状は?
- A3 潜伏期間は、1〜14日とされています(多くは1〜5日)。発熱、倦怠感、腹痛、吐き気、頭痛などを前駆症状として、重症化した例が主に報告されています。
重症化した例では敗血症を示すことが最も多いですが、さらに播種性血管内凝固症候群(DIC)、敗血症性ショックや多臓器不全に進行して死に至ることがあります。敗血症以外では、髄膜炎を起こすこともあります。
なお、敗血症例の約26%、髄膜炎例の約5%が亡くなるとされています。
軽症例については報告が少ないため、その実態はよくわかっていません。
C. canimorsus及びC. canis感染の方が、C. cynodegmi感染よりも重篤な症状を示します。
Q4 国内のイヌやネコの保菌状況は?他の動物の保菌状況は?
- A4 国内のイヌの74〜82%、ネコの57〜64%がC. canimorsusを保菌しているというデータがあります。同様にC. cynodegmiの保菌率はイヌ86〜98%、ネコ84〜86%です。C. canisは近年報告された新しい菌種のため、現在調査中です。
いずれにしても、イヌ・ネコの保菌率が高いことから、全てのイヌやネコが保菌していると考えた方が良いでしょう。なお、これらの菌はイヌやネコの口腔内に常在している菌ですので、イヌやネコは保菌していても症状を示しません。
他の動物にも、その動物に特有のカプノサイトファーガ属菌が存在すると考えられますが、詳細は不明です。
Q5 飼っているイヌやネコからの感染の心配はないか?
- A5 ほとんどのイヌやネコが口腔内に保菌していることから、ペットとして飼育しているイヌ・ネコからの感染も数多く報告されています。また、健康な方でも、持病(糖尿病、高血圧、免疫抑制剤の使用、脾臓摘出など)を持っている方と同程度の患者数が報告されています。したがって、日頃から動物とは節度を持ってふれあうことが重要です。
Q6 飼っているイヌやネコの保菌状況を検査できるか。また、菌の排除は可能か?
- A6 イヌ・ネコの保菌検査に対応している民間検査機関はありません。本菌はイヌやネコの常在菌であることから、排除することはできません。従って、飼っているイヌやネコが保菌していることを前提に、過度なふれあいは避けましょう。
Q7 イヌやネコに咬まれたり引っ掻かれたりした時の対処方法は?
- A7 傷口を石けんと流水でよく洗いましょう。傷が小さくても感染する可能性があるので、万が一の時に医療機関に咬掻傷歴を伝えられるよう、家族にイヌやネコによる咬傷があったことを伝えておきましょう。
また、傷口をイヌやネコになめられないようにしましょう。
Q8 医療機関において、本菌の検査は可能か?
- A8 血液培養が行える検査施設であれば、菌の分離及びカプノサイトファーガである可能性が高いことを確認することは可能です。ただ、生育が遅い菌であり分離・同定に一定程度の時間を要することから、必要な治療は菌の同定を待たずに始めることになります。治療の手助けのためにもイヌやネコの咬掻傷歴を伝えることは重要です。
Q9 日本での発生状況は?
- A9 日本においては、1993年から2017年末までに計93例(うち死亡19例)が確認されています。大半がC. canimorsusの感染例ですが、このうちの重症例3例(うち死亡1例)は2016年に登録された新しい菌種であるC. canisの感染であることがわかっています(参考文献6参照)。また、C. cynodemgi感染は軽症例2例の報告があります。
感染事例の内容をみると、患者の年齢は、40歳代以上の中高年齢者が95%超を占めており、平均年齢は約64歳です。性別は男性が68例、女性が25例です。患者のうち、糖尿病、肝硬変、全身性自己免疫疾患、悪性腫瘍などの基礎疾患を有する方は約半数にとどまります。生来、健康な方でも感染・発症することが確認されています。
感染原因は、イヌの咬掻傷52例、ネコの咬掻傷20例、イヌ・ネコとの接触歴のみ18例、不明3例となっています。93例のうち、2011年以降の症例が68例で、本感染症の認知度の高まりや検査法の進歩によって確認される症例数が増えていると考えられます。しかしながら、把握されていない患者も多く存在していると推測されています。
Q10 諸外国での発生状況は?
- A10 1976年に米国で報告された敗血症例が、最初の文献報告とされています。その後、2017年末までに世界中で約500人の患者が報告されています。敗血症発症時の致死率は25%程度で、国内の報告とほぼ同様です。1996年のデンマークの報告では、人口100万人あたりの患者数が0.5人、致死率31%とされていましたが、2016年のフィンランドの報告によると同4.1人、5%です(重症例の致死率は19%)。軽症例がより多く把握されるようになったことにより患者数が増え、致死率は低下する傾向にあります。
Q11 感染予防のためには?
- A11 一般的な動物由来感染症予防の対応をしてください。日頃から、動物との過度のふれあいは避け、動物と触れあった後は手洗いなどを確実に行ってください。また、イヌやネコに咬まれたり、ひっ掻かれたりしないように注意しましょう。
本感染症だけでなく、一般的な動物由来感染症予防のためにも、ペットには、このような感染症のリスクもあることを理解した上で飼うことが重要です。
Q12 イヌ用、ネコ用のワクチンはないか?人用のワクチンはないか?
- A12 動物用及び人用、いずれもワクチンはありません。
専門家の方へ
Q13 診断方法は?
- A13 血液や脳脊髄液、傷口の滲出液を培養して、菌を分離・同定します。培養サンプルからの遺伝子検出(PCR法)も可能です。また近年では、質量分析法による菌種同定が可能であり、国内でも普及しつつあります。ただし、C. canisは新しい菌種のため、まだ質量分析法の菌種同定用データベースに登録されておらず、菌種不明と判定されます。PCR法はイヌ・ネコが保有するカプノサイトファーガ3菌種全てに対応しています。
しかし、患者が医療機関を受診した時には、すでに敗血症の状態であることが多く、急激な転帰をたどること、また、生育が遅い菌で、分離・同定に一定程度の時間を要することから、患者の臨床症状等に応じて早期に適切な治療を開始する必要があります。
なお、血液培養が行える検査施設であれば、菌の分離及び属レベルまでの同定は可能です。
Q14 具体的に、どのような臨床症状等によって、本感染症を疑うのか?
- A14 重症例では、急激に悪化した敗血症で、イヌやネコとの接触歴がある場合、本感染症が疑われます。激しい腹痛を伴う場合もあります。創部には腫脹などといった明瞭な病変が認められないことが多く、通常、炎症のフォーカスは不明です。軽症例の場合は、発熱等の一般的な風邪様症状や創部の発赤等の局所症状であり、本感染症を積極的に疑う特徴的な所見はありません。
Q15 鑑別診断は?
- A15 本感染症と同様にイヌやネコから感染する疾患として、パスツレラ症や猫ひっかき病等の細菌性感染症や重症熱性血小板減少症候群(SFTS)などが挙げられます。
Q16 早期診断が可能な検査方法は?
- A16 血液培養が陽性になるのに数日を要することから、早期診断が可能な検査法はありません。ただ、培養陰性の段階でも、血液培養サンプルのグラム染色等による直接鏡検によって、細長いグラム陰性桿菌が認められることもあります。その他、血液をサンプルとした質量分析法による菌の検出も可能ですが、まだ例数が少なく、さらなる検討が必要です。
ただし、菌が分離された後であれば、その菌種同定には簡易同定キットを用いた生化学的性状検査及び上述の遺伝子検査法、質量分析法が有用です。
Q17 治療方法は?
- A17 カプノサイトファーガ感染症が疑われる場合には、患者の臨床所見等に応じて早期に抗菌薬等による治療を開始することが重要となります。咬傷に対する抗菌薬としては、ペニシリン系、テトラサイクリン系や第3世代セフェム系抗菌薬等が一般的に用いられています。ただ、C.canimorsusにはβラクタマーゼを産生する菌株もあるため、ペニシリン系の抗菌薬を用いる際にはβラクタマーゼ阻害剤との合剤が推奨されます。
(検査に関する相談はQ19をご確認ください。)
Q18 カプノサイトファーガ感染症と診断した場合に、行政機関への報告は必要か?
- A18 カプノサイトファーガ感染症は、感染症法の届出対象疾病ではありませんので、保健所等への届出は不要です。しかし、本感染症の調査研究の進展のためにも、国立感染症研究所獣医科学部第一室への情報提供にご協力をお願いします。
Q19 相談窓口は?
- A19 国立感染症研究所獣医科学部第一室(03-5285-1111)にお問い合わせください。
参考文献&リンク
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- 1. 厚生労働科学研究費補助金疾病・障害対策研究分野新興・再興感染症研究「動物由来感染症のコントロール法の確立に関する研究」報告書(9.1.カプノサイトファーガ属菌に関する疫学的調査・研究)
http://mhlw-grants.niph.go.jp/ - 2. 国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)Webサイト研究成果報告書
https://www.amed.go.jp/seika/houkoku.html - 3. 高橋ら、病原微生物検出情報: 2007. 28(10): p299-300.
http://idsc.nih.go.jp/iasr/28/332/kj3322.html - 4. 竹川ら、病原微生物検出情報: 2010. 31(4): 109-110.
http://idsc.nih.go.jp/iasr/31/362/kj3625.html - 5. 渡辺ら、病原微生物検出情報: 2016. 37(3): 57-58.
https://www.niid.go.jp/niid/ja/route/vertebrata/1484-idsc/iasr-in/6328-kj4333.html - 6. 鈴木ら、Microbiol.Immunology. 2018. 62(9): 567-573.
- 7.Bobo RA & Newton EJ. Am.J.Clin.Pathol. 1976. 65(4): 564-569.
- 8.Pers C. et al. Clin.Infect.Dis. 1996. 23(1): 71-75.
- 9.Hästbacka J. ActaAnaesthesiol.Scand. 2016. 60(10): 1437-1443.
- 10.厚生労働省「愛玩動物の衛生管理の徹底に関するガイドライン2006 −愛玩動物由来感染症の予防のために−」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/02.html#2
- 1. 厚生労働科学研究費補助金疾病・障害対策研究分野新興・再興感染症研究「動物由来感染症のコントロール法の確立に関する研究」報告書(9.1.カプノサイトファーガ属菌に関する疫学的調査・研究)
<Q&A 作成に協力をいただいた専門家>
鈴木道雄主任研究官、今岡浩一室長(国立感染症研究所獣医科学部)