[ 詳細報告 ]
分野名:自然毒等による食中毒
衛研名:長野市環境衛生試験所
報告者:食品検査担当 市川 洋典
事例終息:事例終息
事例発生日:2017/05/16
事例終息日:2017/05/19
発生地域:長野市内
発生規模:喫食者13名中11名
患者被害報告数:11名
死亡者数:0名
原因物質:リコリン及びガランタミン
キーワード:スイセン、食中毒、リコリン、ガランタミン、誤食、ニラ
概要:
長野市内の学校から「調理実習で調理したニラと玉子の中華スープを食べた生徒らが食中毒様症状を呈している。」旨の通報があった。
患者は、調理実習に参加し中華スープを喫食した生徒10名中9名と教員3名中2名で、喫食から40分後までの間に発症し、主な症状は、嘔気、発熱、頭痛、嘔吐であった。
中華スープに使用された植物の残品を確認したところ、葉の大きさや形態はニラと酷似していたが、ニラ特有の臭気はなく、また当該植物は学校職員が採取したものと判明し、採取場所からは鱗茎を有した類似植物が確認できた。
残品と現地採取品をLC/MS/MSにより検査を実施した結果、スイセン類に含まれるヒガンバナアルカロイドの一種であるリコリンとガランタミンを検出した。
背景:
近年、植物性自然毒による食中毒は全国食中毒事件数の上位に位置しており、その中でスイセン類を原因とした食中毒は、平成19年から平成28年までの10年間、全国で発生した植物性自然毒による食中毒の中で最も事件数が多い。長野市では今回スイセン類による事件を経験し、若干の知見を得たので報告する。
地研の対応:
残品と現地採取品をLC/MS/MSを用い検査した結果、スイセン類に含まれるヒガンバナアルカロイドの一種であるリコリンとガランタミンを検出した。なお、本検査では、リコリン及びガランタミンの標準品がなく、比較検体として、家庭栽培のスイセンと市販のニラを使用した。
行政の対応:
当該学校に対し、身近な有毒植物について教員や生徒に啓発すること、使用する食材の検収方法について改善することを指導した。
原因究明:
当該学校職員がスイセンをニラと誤認して採取し、調理実習の食材として提供した。また、当該学校には調理実習に使用する食材に関する検収規定がなく、採取者が持ち込んだ当該植物を特に確認することなく調理に用いていた。
診断:
地研間の連携:
国及び国研等との連携:
事例の教訓・反省:
事件当時、これら原因物質の標準品がないため、定性・定量分析を実施することができず、スイセンとニラを比較に用いることで調査に有益な若干の情報を得ることができたが、検査結果に対する信頼性の問題、また、分析結果からスイセンの種類や採取環境によってリコリン及びガランタミンの量が大きく異なる可能性が示唆されたことから、標準品を用いての定性・定量分析の必要性を感じた。
現在の状況:
標準品を準備し、ある程度の一斉分析が可能な状態となっている。
今後の課題:
得られる検体の状態により、結果が左右されてしまう可能性もあり、今後も継続的な調査研究が必要と考える。
今回のような事件が発生した場合の(スイセン以外も含め)、原因推定方法(症状や残品などの物的証拠)をマニュアル化し、迅速でより正確な対応を可能にすること。
問題点:
関連資料:
食品衛生検査指針理化学編2015
第45回長野県環境科学研究発表会
橋本知典ら リコリン及びガランタミンの定性分析について
平成30年度全国食品衛生監視員研修会研究発表等抄録
宮下雅行ら スイセン類による食中毒2事例