No.18017 串焼きが原因と推定された腸管出血性大腸菌散発食中毒事例

[ 詳細報告 ]

分野名:細菌性食中毒
衛研名:新潟市衛生環境研究所
報告者: 町永智恵
事例終息:事例終息
事例発生日:2017/10/16
事例終息日:2017/11/01
発生地域:新潟市及び近隣自治体
発生規模:
患者被害報告数:15名
死亡者数:0名
原因物質:腸管出血性大腸菌O-157
キーワード:腸管出血性大腸菌、EHEC、O157、串焼き

概要:
平成29年10月19日、市内医療機関の医師より腸管出血性大腸菌(以下EHEC)感染症発生届が新潟市保健所にあり、その後も複数の届出が寄せられた。
感染症発生動向調査の結果、患者らは10月1日以降に原因施設が製造した串焼き(豚及び鶏の串焼き)を喫食し、10月16日から11月1日にかけて下痢、血便、嘔吐、腹痛などの食中毒様症状を呈したことが判明した。
患者らに共通する食事は、串焼きのみであり、イベント等への参加はなく、同一に集まる機会はなかった。また、検便の結果、患者及び串焼き製造施設従業者からEHEC O157が検出され、患者の発症状況がEHECによるものと一致した。これらのことより、新潟市保健所は、当該串焼きの喫食を原因とする食中毒であると断定した。

背景:
近年、同一感染源が原因と疑われる腸管出血性大腸菌(以下、EHEC)感染症散発事例が毎年のように発生している。これは分子疫学的解析(PFGE法、MLVA法)の普及によって表面化しているものと考えられ、今まで関連の見えなかった事象でも関連性が明らかになることも少なくない。さらに、昨年度の厚生労働省の働きかけによりMLVA解析を実施可能な施設は全国に増えたため、この傾向はますます加速することが想定される。そのため、地方自治体はより一層、疫学情報を適切に収集することや検査を迅速に実施することが必要になっている。

地研の対応:
検査検体の内訳は以下の通り。
食品 26検体
施設等ふき取り 50検体
従業者便 56検体
患者等便 12検体
なお、O157陽性検体についてIS-printingを行った

行政の対応:
・行政処分
〇当該製造施設に対して危害拡大防止・再発防止のため、営業停止命令(3日間)
〇危害拡大防止のため、当該製品の回収命令
・その他施設への立入
製造施設Aと同様に食肉処理業とそうざい製造を同一施設内で取得している施設に対し立ち入り調査を行い、未加熱製品と加熱後製品等の交差汚染防止を中心に指導した。

原因究明:
1.原因食品の推定
患者は10月16日から11月8日にかけて発症し、患者およびその家族に対して、聞き取り調査または喫食・行動状況調査票による調査および検便検査を実施したところ、10月1日以降に複数の食料品店にて購入した串焼きを喫食している者が多い(87名中31名)ことが判明した。串焼きは製造施設Aで製造され、非加熱喫食調理済み食品として市内を中心に複数の食料品店へ流通していた。また、串焼き以外に患者らが共通する食事や感染症を疑うエピソードは確認できなかったため、O157の感染源は串焼き喫食と仮説を設定した。仮説検証のため、串焼き喫食とO157による発症との関連を症例対照研究で検討した。
症例定義は10月1日から10月27日までに新潟市及び県内近隣自治体の食料品店を利用した者で、明らかな2次感染者を除き、以下を満たす者とした。
1)確定例:10月2日から11月24日の間に少なくとも1つ以上の消化器症状(下痢、血便、腹痛)を呈した者で、EHEC感染症発生届のあった患者。
2)疑い例:10月2日から11月24日の間に少なくとも1つ以上の消化器症状を呈した者で、検便検査未実施または検査陰性者(確定例を除く)。
3)保菌例:無症状かつ、検便検査でO157が陽性で感染症発生届出され、串焼きの喫食の有無が確実に判明したもの。
なお、対照は上記症例を除いた、症例の家族又は生活を共にする者で無症状者とした。
最終的に症例となった者の合計は35名で、その内訳は確定例が23名(66%)、疑い例が4名(11%)、保菌例が8名(23%)であった。症例の男女比は女性が22名(63%)で、年齢は中央値が24歳(範囲:1~88歳)の幅広い年齢層が含まれており、一部の年代だけの発症ではなかったが、10代が10名(29%)で最も多かった。有症者(症例のうち、確定例又は疑い例)は27名であった。有症者の症状は下痢が26名(96%)で最も多く、次いで腹痛が23名(85%)、血便が20名(74%)であった。3名(11%)がHUSを発症したが、急性脳症及び死亡例の発生はなかった。
串焼きと発症との関連の解析は、症例35名のうち、串焼きの喫食の有無が不明な3名を除外した32名を症例として解析した。対照は解析に使用する症例と同居の家族等で10月中に串焼きの喫食の有無が確実に判明している42名とした。串焼きの喫食はオッズ比が11.00(95%信頼区間:3.65-33.16)で、EHEC感染症発症と有意な関連があった。以上のことから串焼きを原因食品と推定した。
2.原因食品の汚染経路の推定
串焼き製造工場である製造施設A(食肉処理業、そうざい製造業の許可あり)への調査を行ったところ、施設ではEHECを保菌するとされる牛等の反芻動物の食肉を取り扱っていないことが判明した。しかし、原材料の遡り調査を行ったところ、豚内臓の仕入元の食肉処理業者Bでは、牛及び豚の内臓を同部屋で処理し、従業員は牛内臓の処理後に着替えを行わずに豚内臓を処理しており、牛由来のEHECにより原材料の豚内臓が汚染されたことが考えられた。また、製造施設Aの従業員4名の検便から患者らと同型のO157が検出されたため、当該施設へO157を持ち込んだ原因としては原材料由来または従業員由来で、汚染拡大の原因はEHECに汚染された原材料の加熱不足によるものと考えた。ところが、加熱調理条件を確認すると、中心温度が95℃に達することを過去に検証しており、串の種類により多少異なるが、食肉が原材料段階でEHECに汚染されていたとしても十分にEHECを殺菌できると考えられたため、以下の4つが串焼きを汚染した要因の可能性として考えられた。
1)製造ラインの原材料取扱区域と加熱後製品取扱区域が交差する場所に設置されたビニールカーテンを介した汚染の可能性
2)原材料及び未加熱製品の運搬容器と加熱後製品の運搬容器の洗浄機が隣接し、洗浄する時間や作業員が共通であり、その際の容器への汚染の可能性
3)施設内のたまり水からのはね水による汚染の可能性
4)O157に感染した従業員からの汚染の可能性
串焼きへの汚染経路は推定された一方で、今回の症例中で串焼きの喫食を確認できなかった者が複数名おり、感染源の検討を行ったが関連性を見出すことはできなかった。

診断:

地研間の連携:

国及び国研等との連携:
・当該製品の流通が広域に渡ったため、報道発表の際、国へ連絡。
・MLVA解析の結果
新潟市衛生環境研究所およびその他検査機関にてO157(VT1、2)が検出された30名の菌株を国立感染症研究所細菌第一部に送付し、MLVA解析を実施した。その結果、MLVA Complexは30名すべて「17c049」(17c049pを1名含む)であった。この中には5つのMLVA type「17m0361(19名)、17m0362(4名)、17m0372(5名)、17m0220(1名)、17m0374(1名)」が含まれた。

事例の教訓・反省:
本事例は、当所管内で発生したEHECアウトブレイクとしては最大で、対応に苦慮した。疫学情報の解析方法・解釈の妥当性に関して当所職員のみの判断では不十分だと考え、厚生労働省に依頼し、国立感染症研究所疫学センターの八幡氏をご紹介いただいた。調査・解析方法等、様々な助言をいただき、我々としては大変心強かった。この経験から、アウトブレイク発生当初から専門家に相談し、助言をいただくことで適切・迅速な調査を実施できると考えた。早急に原因を特定し、被害を拡大させないためには「自分たちだけで解決しようとせず、困ったらすぐに専門家に相談する」という姿勢で今後も対応する必要があると考えている。

現在の状況:
現在、EHEC発生届があった場合、食品担当、感染症担当の2名で患者及び同居家族等の聞き取り調査を行っている。聞き取り時は「腸管出血性大腸菌による広域的な感染症・食中毒に関する調査について」(平成30年6月29日付け事務連絡)にて示された、腸管出血性大腸菌感染症・食中毒共通曝露調査票を用いて、聞き漏らしのないよう調査を実施している。また、国立感染症研究所とは現在も情報共有を続けており、いつでも助言をもらえるような体制を整えている。その他にも職員の疫学的な知識・技術の向上のため、国立感染症研究所の講師を招聘し、県・市、食品・感染症・検査等の部署の垣根を越えて参加者を募集し、疫学研修会を開催した。

今後の課題:
EHECなど比較的潜伏期間の長い病原微生物に由来する感染症・食中毒の際に、喫食及び行動調査を実施しても、時間が経過しているため記憶が曖昧で十分に聞き取りできない場合が多い。実際に、本事例では一定数の患者から串焼きというキーワードを聞き出した後に、再度患者らに聞き取り調査を行ったところ、喫食歴が判明した患者が複数いた。今回のように共通の飲食店の利用や旅行等のイベントへの参加がない場合、より詳細な食料品店での購入状況の確認が必要になる。しかし、飲食店の利用やイベントへの参加という情報よりも記憶に残りにくい情報のため、如何にして聞き出すかが課題となる。

問題点:
近年、MLVA法の普及は目覚ましく今まで関連が見えなかった事象でも関連性が明らかになることがある。しかし、MLVA解析の情報のみでは不十分で、その他の疫学情報の記述が重要になる。そのため、我々は喫食及び行動状況調査から得られた情報を基に原因食材や汚染経路の特定を進めていくが、共通する食材が浮上してもその食材の遡り調査が十分に行えない場合がある。この理由としては、食品の流通経路が不透明かつ複雑であることがあげられる。こうしたことから、牛や米と同様の食品トレーサビリティの普及が望まれる。

関連資料:
焼き串が原因と推定された腸管出血性大腸菌O157散発食中毒事例 IASR 39:77-78,2018