[詳細報告]
分野名 細菌性食中毒
衛研名 山梨県衛生環境研究所
報告者
事例終息 事例終息
事例発生日 2018/10/2
事例終息日 2018/11/5
発生地域 山梨県
発生規模 本事例は、複数の宿泊施設にそうざいを提供したそうざい店の食材が原因と推定された食中毒。宿泊施設を利用し、原因と推定された食品を喫食した者469人のうち99名が患者と確認された。
患者被害報告数 99
死亡者数 0
原因物質 D群赤痢菌(Shigella sonnei)
キーワード 食中毒、そうざい 、赤痢菌
概要:
平成30年10月2日にAを利用した県外グループの複数名が、下痢、嘔吐、発熱症状を訴えた。保健所がAを調査したところ、Aにそうざいを納品したBの従業員からS. sonneiを検出した。
保健所は、Bが納品した他の宿泊施設利用者の喫食状況や下痢嘔吐等の有無、検便を調査した。その結果、原因食品を喫食した469名中99名に下痢・腹痛等の症状があり、また、197名の検便協力者(うち患者68名)の34名からS. sonneiを検出した。Bのそうざいは各宿泊施設利用者へ夕食の一部として提供されていた。素泊まり又は朝食の喫食のみの利用者に患者はおらず、生食そうざいが提供されている宿泊施設のみで患者が確認された。
これらのことからBの生食そうざいによる食中毒が推定されたが、原因食材を特定するには至らなかった。また、井戸水汚染の可能性もあったが、検査から汚染経路の特定には至らなかった。
背景:
平成30年10月10日、O県から本県食品衛生主管課へ、10月2日に山梨県内の宿泊施設A(以下、A)に宿泊したO県内のグループの複数名が下痢、嘔吐、発熱の症状を呈している旨の情報提供があった。Aを管轄する保健所(以下、保健所)が調査を行ったところ、Aにそうざいを提供しているそうざい店B(以下、B)の従事者がD群赤痢菌(Shigella sonnei)に感染していることが判明した。Bは他の14宿泊施設にもそうざいを提供していたことから、計15宿泊施設の調査と他自治体等から協力を得る中で患者調査を行った。
地研の対応:
山梨県衛生環境研究所において、次の検査を実施した。
Bの調理従事者の検便検査の結果、2検体からS. sonnei検出した。
また、Bが納入するAを含む15宿泊施設の調理従事者66検体の検便検査結果は、すべてS. sonnei陰性であった。
Bのふきとり10検体、井戸水1検体、検食(別ロットの輸入エビ・イカ)2検体、他宿泊施設のふきとり77検体、水道水以外を使用している宿泊施設の自家水(沢水等)7検体、のS. sonnei検査はすべて陰性であった。
行政の対応:
(1)食品衛生法第55条に基づき平成30年10月29日、Bへの営業禁止処分措置。
(2)厨房内の清掃消毒及び調理器具の洗浄消毒の実施、再発防止策の策定を指示。
(3)施設の衛生状況を確認するとともに、調理従事者を対象とした食中毒再発防止のための講習を実施。
(4)汚染原因に対する再発防止の対策を営業者が策定し、その対策が有効であり、かつ、現場で実施可能であることを保健所が確認したことから、同年11月5日に営業禁止処分の解除。
原因究明:
保健所の調査により感染源として、従事者、原材料、使用水が推定された。
Bの従事者2名から10月12日、10月15日にS. sonneiが検出された。この2名の発症時期は患者の発症ピーク(10月5日)より遅く、赤痢の潜伏期間からBの従事者による汚染の可能性は高いとは言えなかった。
Bが提供したそうざいの原材料による交差汚染の可能性について、輸入魚介類(インドネシア、インド、タイ、スリランカから輸入)を原材料として使用しており、まな板や包丁から、交差汚染があった可能性は否定できなかった。しかし、当該原材料は県内の地方市場で仕入れており、県内に流通していると考えられるが、県内の赤痢患者の発生報告はなく、交差汚染の可能性は極めて低いと考えられた。輸入魚介類のうちエビとイカについては、参考として別ロットの検査を実施したが、S. sonneiは検出されなかった。その他の生食する使用野菜(大根・大葉)は、水洗いのみで消毒せずに調理されていたが、県外産であり、他県等にも広く流通していると考えられ、これらが汚染されていた可能性は低いと考えられた。また、湯葉やこんにゃくは同保健所管内業者が製造し、B以外にも販売されているが、他に有症事例の苦情はなく、これら原材料の汚染は否定できた。
使用水による汚染の可能性について、Bでは町の簡易水道水と井戸水を使用しており、井戸水は殺菌されていなかった。9月30日に到来した台風により、Bの所在する地域は大雨に見舞われ、水道水や井戸水の水質悪化の可能性が考えられた。患者の発症時期は台風到来後の10月1日の利用者以降にみられ、その後1週間ほどの間の利用者に限られた。井戸水は施設の洗浄、食材の洗浄・解凍に使用されていた。しかし、水道水以外の使用がある他の宿泊施設の従事者からS. sonneiは検出されておらず、この地域の住民から赤痢患者の発生情報はなかった。また、B付近の下水道や浄化槽の越流情報は町に寄せられていなかった。井戸水の水質検査から赤痢菌は検出されておらず、汚染経路の特定には至らなかった。
診断:
病因物質を特定するための微生物学的検査を実施した結果、Bの従業員2名からS. sonnei検出された。また、Bが納入するAほか14宿泊施設において喫食者469名中197名(うち患者68名)の検便を実施し、34名から同菌が確認された。さらに、宿泊施設のふきとり、井戸水の検査を実施したが、S. sonneiは陰性であった。
これら検査結果から、次の理由により病原物質をS. sonneiと断定した。
(1)患者の検便からS. sonneiが検出されたこと。
(2)患者の症状がS. sonneiの食中毒の特徴及び潜伏期間と一致していたこと。
(3)グループ間での感染は否定できること。
(4)Bから同時期にそうざいを納入した複数の宿泊施設の利用者に消化器症状を呈している者が確認されたこと。
地研間の連携:
特になし
国及び国研等との連携:
本県内で検出されたS. sonnei2株(B従事者2名)については、国立感染症研究所へ菌株を送付し分子疫学(MLVA)解析が実施され、2株の遺伝子は一致していた。
その後、国立感染症研究所から、本事例関連において、他複数県の患者から検出されたS. sonnei株は、B従事者分離株の遺伝子と一致もしくは類似(MLVA型はSsV18-065もしくはSsV18-066)している株であった旨連絡があった。
事例の教訓・反省:
当事例の第一報は、赤痢菌以外の別の菌が複数検出されているとの通報内容であったため、当初は、その菌の潜伏期間から、Aを原因施設と考えるにはかけ離れていた。複数のグループから同一菌が検出されると、その菌を念頭に調査を進めてしまうが、多人数が長時間行動を共にしている場合は、食中毒事件の原因とは別の菌が複数検出される偶然も考えられるので、先入観を持たないことや、調査範囲の絞り込みを慎重に行う必要がある。
現在の状況:
保健所と情報等を共有し、保健所等からの病原微生物や検査等に関わる相談があれば、地衛研でアドバイスできる体制を整えている。
また、県では食中毒や感染症事例に対応する県・保健所・地衛研等の部署の職員の疫学的な知識・技術の向上のため国立感染症研究所の講師を招聘し、疫学調査などを中心とした健康危機管理研修を定期的に開催している。
今後の課題:
団体宿泊者以外は各宿泊施設から利用者の情報を得る必要があった。しかし、個人情報の観点から、情報取得の困難や便検査実施の遅延、さらに、時間経過によるS. sonneiの不検出や他の感染による異なる菌株の出現の可能性も生じると考えられる。
今後、個人情報の取り扱いはさらに難しくなっていくことも予想される中、関係者に食中毒調査の重要性を理解してもらい調査協力が得られるよう取り組んでいく必要があると思われる。
問題点:
特になし
関連資料:
特になし