No.19012 まぐろの味噌がらめによるヒスタミン食中毒事例

[詳細報告]

分野名 自然毒等による食中毒
衛研名 山梨県衛生環境研究所
報告者  
事例終息 事例終息
事例発生日 2018/09/27
事例終息日 2018/09/29
発生地域 山梨県
発生規模 本県K町の管轄保育所8施設中6施設の園児、保育士等の発症
患者被害報告数 89
死亡者数 0
原因物質 ヒスタミン
キーワード 食中毒、マグロの味噌がらめ、ヒスタミン

概要:
保育園の食事で提供された「マグロ味噌がらめ」を喫食した園児と職員を含めた89名が発症した食中毒事例。平成30年9月27日、昼に保育所で提供された食事を喫食後、約60分以内に、口・頬・顎等に、発疹、発赤、湿疹等のアレルギー様症状が認められた。
食事後の発症時間や症状から、ヒスタミンによる食中毒が推定された。食事に提供された食材について、誘導体化―HPLC法によるヒスタミン試験を行った。その結果、試験した原材料のマグロとその調理品の13検体から、原材料では180~5,300㎎/kg、調理加工品では2,300~3,600㎎/㎏のヒスタミンが検出され、この物質による食中毒と断定した。

背景:
平成30年9月27日(木)13時05分頃、K町役場の担当者から、「町の管轄保育所8施設のうち、6施設で複数の園児が、本日昼食後に口、頬、顎、腹部に湿疹、かゆみを発症した。」との連絡があった。喫食から発症に至る時間や症状から、ヒスタミンによる食中毒が強く推定され試験検査に着手した。

地研の対応:
患者症状、喫食調査から原因食品が推定されていたため、当該食品(原材料のマグロおよびマグロの味噌がらめ)のヒスタミン含有量試験を実施することとした。試験を実施するにあたり、試薬の有効期限を確認したところ、誘導体化試薬、ヒスタミン標準品の有効性(有効期限内)は確認できたが、他の腐敗アミンは有効期限切れであり試験できなかった。

行政の対応:
喫食調査、当該食品の流通経路の調査等

原因究明:
〇患者の原因食品等の摂取から発病までに要した時間の状況
喫食時間は保育所ごとにまばらであったが、患者の発症は9月27日11時20分から同日14時であり、平均潜伏時間は概ね1時間であった。
〇原因食品等の摂取者と患者数の割合
(発病率:患者数対推定原因食品摂取者数)
   発病率:89/702=12.7%(食事)
〇患者の症状及び病状別の数
症状 発疹  発赤  しびれ  その他
患者数  87   23   2     3
発顕率 97.8  25.8   2.3    3.4
※発顕率は患者数に対する割合(%)

診断:
1 特定の原因食品を決定するまでの経過及び理由

発症者の共通した食事は、各保育所で提供された9月27日の昼食のみであったことから、当該保育所で提供された食事が原因と判断した。発疹を主要症状としていたため、ヒスタミンによるアレルギー様食中毒が疑われた。原因食品については、提供された食事のうち、マグロの味噌がらめの喫食の有無に発症者と非発症者の有意差が認められたためマグロを原因食品と推定した。保育所6施設分の原材料のマグロ及びマグロの味噌がらめを山梨県衛生環境研究所において、ヒスタミンの定量試験を実施したところ、高濃度のヒスタミン(概要参照)が検出された。

2 原因食品等の流通経路
当該マグロは複数の流通先を経て納品されていた。また、各々の場所で冷凍庫の温度管理の不備及び冷解凍の繰り返しが確認された。保育所においても、前日納品のマグロを22時間にわたり冷蔵庫で解凍作業を行っていた。このため、マグロ内でのヒスタミン含有濃度が高くなったと考えられる。

地研間の連携:
特になし

国及び国研等との連携:
特になし

事例の教訓・反省:
行政(町役場及び保健所)の迅速な対応により、原因食品の推定が可能となった。その一方、ヒスタミンを含む腐敗アミン(プトレシン、カダベリン、チラミン、ウペルミジン)は通常測定されることが少ない。今回の事例では、ヒスタミンを除き、試薬有効期限内の腐敗アミンの標準品が準備できず、定量化を断念した。

現在の状況:
ヒスタミン等の腐敗アミン試験に必要な分析機器は完備されている。これらの機器は通常の理化学試験に用いられる機器であり、設備的な問題点はない。しかし、試験検査のための時間的な制約や人的な体制不備から、多数の検体に対応するためには業務の優先順位と試験内容に対応できる人的補助が重要である。特に、誘導体化による試験は基礎的な技術習得が必要であり、技術習得の機会を設ける必要がある。

今後の課題:
ヒスタミン等の腐敗アミンの検査は誘導体化―HPLC法を用いているため、検査には十分な技術の習得が必要である。そのため、模擬試料や精度管理を通して検査技術を取得する必要がある。また、腐敗アミン類の標準品の整備や誘導体化試薬の有効期限の確認は必須である。
腐敗アミンの定量にLC/MS法による試験が多数報告されているが、当所での試験精度の確認は不十分である。緊急事例に対応するため試験法の確立が必要と思われた。

問題点:
ヒスタミン以外の腐敗アミンの定量を行い、食中毒事例でのそれぞれの濃度の蓄積が必要と思われた。また、通常検査業務以外の試薬管理や技術的手法の確立と模擬試験の実施には、予算や人的な工面など、検討すべき課題があると思われる。

関連資料:
食中毒事件報告書