[詳細報告]
分野名 自然毒等による食中毒
衛研名 三重県保健環境研究所
報告者 衛生研究室微生物研究課 衛生研究室長兼微生物研究課長 赤地 重宏
事例終息 事例終息
事例発生日 2018/09/10
事例終息日 2018/09/17
発生地域 三重県桑名保健所管内
発生規模 1名
患者被害報告数 1
死亡者数 1
原因物質 植物性自然毒(ニセクロハツ由来)
キーワード ニセクロハツ、植物性自然毒、三重県
概要:
2018年9月10日、桑名市内の一般家庭(一人暮らし・75歳男性)において野外採取のキノコを加熱調理後夕方喫食、翌朝下痢嘔吐を発症し午後8時頃上半身および首の痛みを訴え桑名市内の医療機関に救急搬送された。9月12日午前8時頃に患者の容態が急変し、人工呼吸器装着となった。9月13日に医師より桑名保健所に食中毒の届出があり、本件は毒キノコ(ニセクロハツ)による食中毒と確定した。当該家庭に残されたキノコ残品を三重県保健環境研究所において日本薬局方真菌類の遺伝子同定法に基づき検査したところ、遺伝子配列解析によりニセクロハツと同定された。患者は9月17日、多臓器不全により死亡した。
背景:
近年、野生毒キノコを食用と誤認し喫食する事例が増加し、2018年4月に消費者庁が注意喚起をするなど社会的問題となっている。
地研の対応:
三重県庁より、桑名保健所管内のキノコ食中毒事例について、調理済残品しかなかったことから形態学的に種の判別が困難であるため、遺伝子学的手法により種を同定できないかとの依頼を受けた。桑名保健所より搬入された複数の患者宅残品を遺伝子学的に同定したところ、すべての残品からニセクロハツ由来遺伝子増副産物が得られ、ニセクロハツであると同定された。
行政の対応:
桑名保健所は以下の対応を実施した。 ① 患者宅周辺の探索 患者がキノコを採取した場所は不明であるものの、自宅周辺で採取したことが疑われたため桑名保健所職員と桑名市職員が共同で探索したところ、多種多様なキノコの存在とニセクロハツの自生を確認し得た。この結果を踏まえ、桑名市に対し地域住民への早急な注意喚起を依頼した。 ② 啓発リーフレットの作成 毒キノコ食中毒に対する根本的な対策は食用と確実に判断できない場合は喫食しないという点に尽きる。そこで桑名保健所で啓発リーフレットを作成し大型量販店や農産物直売場での配布・掲示を依頼した。また、管内市町の担当者向けに緊急会議を開き、広報誌や自治会回覧等の地域住民向け啓発を呼びかけた。 ③ 講習会等での啓発 再発防止のために広く周知する必要があることから、食品関係事業者のみならず、生活衛生関係、動物関係等、あらゆる事業者を対象とした講習会等を活用し、キノコに関する普及啓発を行った。
原因究明:
桑名保健所が患者宅を訪問し、残っていた調理済キノコ等を回収し三重県保健環境研究所に種別同定を依頼した。また、患者宅周辺を桑名保健所職員と桑名市職員が共同で探索したところ、周辺には多種多様のキノコが自生し、ニセクロハツも確認し得た。
診断:
搬入された検体に対し日本薬局方真菌類の遺伝子同定法により解析したところ、得られた遺伝子増副産物はニセクロハツ由来であると同定された。
地研間の連携:
特になし
国及び国研等との連携:
特になし
事例の教訓・反省:
本件は三重県で初めての毒キノコ食中毒による死亡例となった。調理済残品しか存在しない場合は加熱等の影響で形態学的同定が困難となる場合が多いが、本件は分子生物学的手法を活用することで同定が可能であった。また、その後の検討で調理済煮汁中にニセクロハツ由来の特徴的な胞子が顕微鏡観察で確認されたことから、キノコ本体が認められない場合においても残品から同定が可能な場合もあることを示した。
現在の状況:
三重県庁のHPを活用し、きのこ・有毒植物に対する情報発信を継続中。また、桑名保健所職員により得られた知見を各種学会等で報告するなど啓発に努めている。
今後の課題:
ニセクロハツの指標成分(シクロプロピルアセチルカルニチン)を合成し、ニセクロハツの理化学的同定に活用できないか検討中。
問題点:
現在のところ顕著なものは見当たらず
関連資料:
1) 坂上吉一ら. 第16改正 図説日本薬局方微生物試験法の手引き. 文教出版. 2012.