No.19017 うなぎ料理が原因となったSalmonella Saintpaulによる大規模食中毒事例

[詳細報告]

分野名 細菌性食中毒
衛研名 愛媛県立衛生環境研究所
報告者 衛生研究課 微生物試験室 細菌科 浅野由紀子
事例終息 事例終息
事例発生日 2018/07/20
事例終息日 2018/07/27
発生地域 愛媛県
発生規模
患者被害報告数 299名
死亡者数 0名
原因物質 Salmonella Saintpaul
キーワード  うなぎ料理、サルモネラ、Salmonella Saintpaul、白焼、蒲焼、たれ、細菌学的リスク、衛生管理

概要:
 2018年7月25日、愛媛県今治保健所に管内医療機関から産直市内テナント(A店)で調理・販売されたうなぎ料理の喫食者複数名が胃腸炎症状を呈し、サルモネラが検出された旨の報告があった。調査の結果、384名の喫食者のうち、299名が下痢、腹痛、発熱などを呈し、患者便、従事者便及びうなぎ料理残品からSalmonella Saintpaulが検出されたことから、本事例は7月20日から22日にA店が調理・販売したうなぎ料理がサルモネラに汚染されたことによる大規模食中毒事例であると断定し、7月27日付けで営業禁止処分とした。

背景:
サルモネラ属菌は、鶏卵、食肉のほか、養殖ウナギ、コイ、マス等の淡水魚やすっぽん等の爬虫類からも検出され、それらに起因する食中毒事例が多数報告されている。今回、土用の丑の日に合わせて屋外の臨時営業施設で調理したうなぎ料理を原因とする大規模食中毒事件が発生し、その原因等について考察した。

地研の対応:
保健所で分離されたS. Saintpaul 21株(有症者由来11株、調理従事者由来7株、蒲焼残品由来3株)について、血清型別、薬剤感受性試験及びPFGE法による分子疫学解析を実施した。搬入された21株全て、実施した18剤(ABPC、CTX、GM、KM、IPM、NFLX、CPFX、NA、SXT、MEPM、CAZ、FOM、CP、CFX、AMK、SM、TC、CL)に対して感受性であり、PFGE法により同一株による集団食中毒事例であることを確認した。

行政の対応:
 事例探知の翌日である7月26日、当該うなぎ料理の購入・喫食者に対し、残品の喫食中止、有症者の早期受診及び保健所への情報提供を呼びかける報道発表を行った。翌27日には「A店が7月20~22日に販売したうなぎ料理による食中毒事例」と断定し、営業禁止処分とした。その後、作業手順、衛生管理、組織管理体制の見直し等を指導した結果、約3か月後の10月22日に全面改修を決定し、廃業届を提出したことから、営業禁止処分は事実上失効した。 また、翌年の2019年7月5日には、土用の丑の日を控え、改めてうなぎ蒲焼等による食中毒の発生防止対策を徹底する旨文書を発出し、注意喚起を図った。

原因究明:
A店の施設調査の結果、土用の丑の日に合わせて設置した屋外の臨時施設において、仕入れた生うなぎを蒲焼に調理するとともに、常設の屋内施設でうな重等に加工し、19日~23日の5日間にうなぎ料理を1,310食販売していた。加工後の白焼は、トロ箱に入れて常温で保管し、冷蔵室移動後もトロ箱を重ねた状態で保管していた。調理従事者は、軍手で直接うなぎを掴んで調理し、加熱調理前後の軍手の交換、手洗い等はしていなかった。うなぎのたれは、白焼用と蒲焼仕上げ用のたれを区別していなかった。ウナギ蒲焼の調理等に係る手順書はなく、過去の経験をもとに調理し、リスク評価等は実施していなかった。

診断:
患者便25検体、従事者便11検体、うなぎ料理残品3検体(うち1検体は未開封、冷凍保管品)、調理に使用したうなぎのたれ(未開封品)1検体及びA店施設内拭取り10検体について、病原大腸菌(腸管出血性大腸菌含む)、赤痢菌、サルモネラ属菌、コレラ菌、腸炎ビブリオ、エルシニア・エンテロコリチカ、カンピロバクター・ジェジュニ/コリ、黄色ブドウ球菌、セレウス菌、ウェルシュ菌を対象に、常法に従い分離同定検査を行った。なお、患者便及び従事者便については、Kawaseら1)の方法に準じて病原因子PCRを実施した。蒲焼残品については、サルモネラ菌数をMPN 5本法で、黄色ブドウ球菌数を平板塗抹法で計数した。 その結果、S . Saintpaulが患者便25検体中11検体(44.0%)、調理従事者便11検体中7検体(63.6%)及び蒲焼残品3検体(100%)から検出され、蒲焼残品の菌数は3.3~104 MPN/gであった。また、黄色ブドウ球菌が患者便2検体(8.0%)、従事者便2検体(18.2%)及び蒲焼残品3検体(100%)から検出され、蒲焼残品の菌数は5~107 CFU/gであった。エンテロトキシン型は、患者由来2株は共に型別不能、従事者由来2株はC型及び型別不能、蒲焼残品由来3株は全てB型であったことから、黄色ブドウ球菌が本事例の直接的な原因菌ではないと判断した。その他、セレウス菌が患者便1検体及び蒲焼1検体から分離されたほか、病原因子PCRでeae(EPEC)が従事者便2検体、aggR(EAggEC)が従事者便1検体、nheB(セレウス下痢毒)が患者便1検体から検出されたが、血清型の不一致や限定的な検出状況から、起因菌とは認められなかった。

地研間の連携:
なし

国及び国研等との連携:
なし

事例の教訓・反省:
 A店の調理従事者はうなぎに係る細菌学的リスクの認識が乏しく、生うなぎに触れた手で白焼に触れるなど、調理行程の衛生管理がずさんであったこと、気温30℃を超える屋外の臨時営業施設で大量のうなぎを調理・加工し、製造量に見合った施設規模や適切な人員配置が行われていなかったことが、大規模食中毒発生の主な要因と考えられた。臨時的な営業施設の許可時には、営業者に食品の調理・加工に係るリスクを十分に検討させたうえで、施設の規模に合わせて、交差汚染の防止対策や調理能力を上回らない製造などを助言・指導し、実行させる必要性がある。

現在の状況:
 市販の白焼及び蒲焼に本事例分離株を添加し、屋外臨時施設と同様の条件下での増殖について検証した結果、サルモネラ属菌は白焼上で4時間後に100倍に増加し、蒲焼上でも減少しないこと、黄色ブドウ球菌は白焼上で4時間後に100倍に増加し、蒲焼上でさらに増加することを確認した。また、うなぎのたれに菌を添加した生存試験では、1時間後にサルモネラ属菌は4割、黄色ブドウ球菌は6割に減少するのみであり、死滅にはある程度時間を要することを確認した。これらの結果を講習会等で説明し、調理の際の衛生管理の重要性を説明する資料として活用している。

今後の課題:
 大規模食中毒事例では、原因究明検査、分子疫学解析、検証試験等を並行して迅速に進める必要があるが、第一報の時点では事例の全体像が掴めず、徐々に概要が明らかになる場合がある。複数機関が円滑に連携して原因究明等を行うためには、初期の段階から関係機関で情報共有を図る必要がある。

問題点:

関連資料:
 1) Kawase et al : Jpn. J. Infect. Dis.,69,191-201(2016).  2) 舘野晋治ほか : 日食微誌., 36(2),132-137.(2019).