[ 詳細報告 ]
分野名:自然毒等による食中毒
衛研名:鹿児島県環境保健センター
報告者:食品薬事部 山下清佳
事例終息:事例終息
事例発生日:2020/01/31
事例終息日:2020/02/07(保健所の食中毒断定日及び公表日)
発生地域:鹿児島県日置市
発生規模:
患者被害報告数:1名
死亡者数:1名
原因物質:コルヒチン
キーワード:コルヒチン、グロリオサ、植物性自然毒
概要:
2020年2月4日11時30分頃,鹿児島市の医療機関から食中毒疑いで死亡した事例があると,鹿児島市保健所に食中毒(疑い)の届出があった。 患者住所地の管轄保健所である伊集院保健所が調査したところ,2020年1月31日昼頃,夫が自宅の畑で掘り出した根を山芋と思い込み調理し,夫婦で食べたところ,妻の方は苦みを感じたため,すぐに吐き出したが,夫は山芋ではなくウコンだったかもと思い直し,そのまま完食した。同日15時頃,腹痛,下痢,16:30頃,嘔吐の症状が加わったため,2月1日8時15分頃,かかりつけであった近所の医療機関(A)へ救急搬送され,一時,帰宅したが,再度,かかりつけの医療機関(A)で検査を受け,同日18時頃,鹿児島市内の医療機関(B)へ救急搬送され,入院し,治療したが,2月3日に死亡した。
背景:
グロリオサは,燃える炎のような形をした赤や黄色などの花色を持つイヌサフラン科グロリオサ属の園芸植物で,最近では生花として利用されることも多く,園芸店でも塊茎部が販売されている。グロリオサは全草に有毒アルカロイドのコルヒチンを含有しているが,全量の約94%は塊茎部分に存在している。塊茎部分はヤマイモに似ており,2006及び2007年※1に誤食による食中毒事例が報告されており,いずれも患者は死亡している。 当県でも2020年2月にグロリオサを誤食したと考えられる患者1名が死亡したコルヒチンによる食中毒事例が発生した。
地研の対応
今回,LC-MS/MSによる植物性自然毒の迅速一斉分析法(当センターの所報に記載※2)を用いてコルヒチン濃度の測定を実施した。
行政の対応:
鹿児島市保健所は,食中毒届出を受理後,速やかに県と連絡を取り合い,医師への聞き取り調査等を実施した。 伊集院保健所は,当該家庭での現地調査を実施し,検体(患者宅にあったグロリオサの塊茎)を採取し衛生研究所に搬入した。 調査終了後は,公式ホームページ,講習会等を通じた市民への注意喚起を実施した。
原因究明:
今回の事例は,患者が死亡した後に届出があったため,喫食からの時間が経過しており,食品の残品の確保ができず,また,患者から直接,聞き取りができずに詳しい情報を得ることができなかった。しかしながら,患者が死亡する前に,喫食したものがグロリオサの球根だったかもしれないと家族に言い残していたことと,治療した医療機関(B)において,患者の尿が採取・保管されており,検体として提供されたことで病因物質の特定ができた。
診断:
LC-MS/MSを用いて分析した結果,コルヒチンが患者の尿から970 ng/mL検出されたので,死因はコルヒチン中毒によるものと断定された。また,患者宅にあった鉢植えのグロリオサの塊茎(2検体)からは,1.64 g/kgと2.20 g/kg検出された。 ヒトのコルヒチンの最小致死量は体重50kgの場合約4.3mg※3とされ,今回分析した塊茎は,わずか3gで最小致死量を超過することになる。
地研間の連携:
なし。
国及び国研等との連携:
なし。
事例の教訓・反省:
今回の食中毒事例は,家庭菜園で野菜と観賞植物を一緒に植えることの危険性を再認識した事例であった。
現在の状況:
2017年度の九州ブロックの模擬訓練(原因食材:グロリオサ)で,経験があり,植物性自然毒の迅速一斉分析法が確立されていた。
今後の課題:
キノコの毒等も含めた多くの自然毒による食中毒発生事案に備えた標準品の確保等試験検査体制の整備が必要である。
問題点:
なし。
関連資料:
※1 H-CRISIS 健康危機管理支援ライブラリー(国立保健医療科学院)No.1349 及びNo.1423 ※2茶屋真弓,他;LC/MS/MSによる植物性自毒の迅速一斉分析法の検討,19,67-71(2018) ※3厚生労働省;自然毒のリスクプロファイル(高等植物,イヌサフラン), http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000058791.html(2020/06/30アクセス)