インゲン豆は通常の調理法(水に十分浸してから、沸騰状態で柔らかくなるまで十分に煮る)を行えば、食品安全上全く問題ありません。今般、テレビ番組で紹介された調理法により、加熱不足の状態となった白インゲン豆を摂取したことによる健康被害事例が発生したため、生のままや加熱不足の白インゲン豆の摂取による健康被害を防止するため、次のとおり本事例に関するQ&Aを作成しました。(さやいんげんなど未成熟のさやを利用するものは、本件に関係ありません。)
Q1 どうして生のままや加熱不足のインゲン豆(完熟した乾燥豆を指す。以下同じ。)を食べると消化器症状を発症するのですか?
A1 インゲン豆は中央アメリカ原産で、完熟した乾燥豆を煮豆、餡、スープ等に利用する乾燥子実用と、未成熟のさやを利用する野菜用に分けられ、それぞれ多くの品種があります。完熟した乾燥豆は昔から加熱調理を行わず生のままで食べると嘔吐、下痢等の消化器症状を起こすことが知られています。生のインゲン豆を食べることにより嘔吐、下痢等を起こす原因物質の一つとして、インゲン豆に含まれる「レクチン」という糖結合タンパク質が知られています。
Q2 レクチンとはどのような物質ですか?
A2 レクチンは、糖に結合するタンパク質の総称で、動物や植物に広く分布しています。植物の中でインゲン豆の仲間は特にレクチンを多く含むことが知られています。インゲン豆のレクチンは赤血球に結合して凝集させる性質があることから、赤血球凝集素(haemagglutinin)とも呼ばれます。インゲン豆には,白インゲンや赤インゲンといった栽培品種がありますが,学術的にはどちらも同じ植物種であり,レクチンを含んでいます。インゲン豆のレクチンは75℃での加熱では毒性が残るものの、沸騰状態で5~10分の加熱で壊れた等の報告があります。また、不完全な加熱では、生のままのインゲン豆よりも毒性が強くなるという報告もあります。実際、海外において、生のままや加熱不足のインゲン豆を食べたために、レクチンによる中毒を起こした事例が多数報告されています。
Q3 生のままや加熱不足のインゲン豆の摂取による中毒の症状等について教えてください。
A3 生のままや加熱不足のインゲン豆を摂取すると、数時間(1~3時間)以内にひどい吐き気、嘔吐を呈した後下痢、腹痛等の症状を発症します。しかし、重篤化することはなく、患者のほとんどは発症から数時間後に回復するといわれています。また、年齢や性別に関係なく全ての人に等しく中毒を起こすと報告されています。
Q4 今回、白インゲン豆を食べて嘔吐、下痢などを起こす人が多く発生したのはなぜですか?
A4 テレビ番組で、白インゲン豆の摂取によるダイエット法の特集があり、この番組の視聴者が、番組で紹介された調理法に基づき白インゲン豆を調理・摂取したところ、嘔吐・下痢などを発症したという事例が多数報告されました。患者さんに対する白インゲン豆の摂取方法の聞き取り調査によりますと、ほとんどの方が番組で紹介された「白インゲン豆を2~3分煎り、粉末状にして食べる」という方法で調理を行ったようです。豆を煎るという行為は,ゆでるという行為と比較して熱の通りが確実ではありません。よって、2~3分煎っただけでは中心まで火が通らず、レクチンが充分に熱変成しなかったため中毒を起こしたと考えられます。
Q5 生のままや加熱不足のインゲン豆による中毒を起こさないようにするにはどうしたらよいですか?
A5 インゲン豆中に含まれるレクチンは、十分に加熱すれば活性を失います。インゲン豆によって中毒を起こすことは昔から知られており、長年の経験で煮るという調理法でインゲン豆を食べてきました。よって、インゲン豆を食べる際には、通常の調理法である、十分に水に浸して戻した後、沸騰状態で柔らかくなるまで十分に加熱することが必要です。