成田空港検疫所にて検出された新型インフルエンザ(A/H1N1pdm)の集団発生
-隔離および停留の対象者に対する疫学調査報告書-
2009年8月12日
国立感染症研究所 実地疫学専門家養成コース(FETP)
国立感染症研究所 感染症情報センター
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要旨
5月8日、カナダでの交流事業に参加し帰国した教員を含む高校生のグループの計36名のうち3名が成田空港における検疫にて新型インフルエンザ(A/H1N1pdm)と診断され、入院となった。残る交流事業参加者全員と航空機内で座席の近かった乗員乗客に対し、停留施設にて健康観察が行われ、5 月9日に1名の交流事業参加の高校生が新型インフルエンザと確定診断され入院した。積極的症例探査を行った結果、計4名の確定例、および症例定義に合致した10名の疑い例が検出され、記述疫学の結果により、5月5日から5月9日にかけて、6日がピークである患者の集積があり(7例)、確定例はすべてこの集積に含まれていた。この集積の殆ど(85.7%)はA高校(6例)からのものであった。感染源については、3生徒の確定例は仲の良いグループの中で発生していたが、さらなるさかのぼりは不可能であり、また、教師が確定例である患者については、生徒からの曝露によるものか、カナダにおける市中の感染か不明であった。臨床像については、確定例については全例が38℃以上の発熱を呈し、また、確定例4例のうち3例では38℃以上の高熱を来たす2-4日前から咽頭痛や咳が発症するという特徴が認められた。解析疫学では学校については、P値は0.054となり10%水準では有意であった。学年については2年生であることが統計学的に有意な結果となった(P値=0.0061)。行動については、感染の成立に明らかに有意な結果を示すものはなかった。今事例の検疫の対応は、その後発生し得た集団発生~流行の可能性を阻止し、また、早期に臨床像の大まかな特徴をつかむことが出来たという点においては意義があった。国に対して、新型インフルエンザ(A/H1N1pdm)に関して行われてきた検疫・停留の有効性や問題点などを科学的な観点から明らかにし、今後の検疫のあり方なども含めたより有効な対応方法を検討していく必要性を提言した。
(2009/9/18 IDSC 更新)