『保健医療科学』 2021 第70巻 第5号 p.459(2021年12月)
特集:難病患者と家族の尊厳を保持した共生社会の探求 <巻頭言>
難病患者と家族の尊厳を保持した共生社会の探求
丸谷美紀
国立保健医療科学院統括研究官
The pursuit of an inclusive society guaranteeing the dignity of intractable disease clients and their families
MARUTANI Miki
Research Managing Director, National Institute of Public Health
<巻頭言>
日本は法治国家であり,全ての国民の健康で文化的な生活は憲法により保障されている.難病患者と家族の生活も然りであり,思いやりや優しさといった人々の善意に頼るものではなく,尊厳ある生活を送る権利を有する.
難病患者と家族の尊厳を保持し,地域で安心して生活を営むための共生社会の実現を目指し,難病の患者に対する医療等に関する法律(以下,難病法)が平成26年に成立した.具体的には,難病診療 連携拠点病院等の指定の推進,身近な医療機関と専門医療機関との連携,治療と就労や学業との両立支援,患者支援体制整備のための難病対策地域協議会の設置,難病相談・支援センターの充実,人材育成等が取り組まれている.
難病は発症後,疾病との共存を余儀なくされ,生活の再構築が求められるため,難病患者と家族の尊厳を保持した共生社会の実現には,患者と家族の生活を考慮した支援が特に重要となる.
国立保健医療科学院では,医療・福祉・就労・住まい等,患者と家族の生活を包括的に支援する研究・人材育成に取り組んでいる.難病法施行後の本院の取り組みを患者と家族の視点から集約することは,難病法付帯決議に示されている「難病に関する国民,企業,地域社会等の理解の促進」及び,今後の難病法改正への大きな示唆となろう.
難病患者と家族の尊厳ある生活は法で保障されているが,法は最低の倫理といわれ,本特集の著者は倫理観に基づき法の範疇を拡大すべく取り組んでいる.本特集が難病に関する理解を促進し,誰ひとり取り残さない社会の盤石となることを心より願う.