【感染症エクスプレス@厚労省】Vol.457(2022年2月18日)
英国健康安全保障庁(UK Health Security Agency : UKHSA)は2022年2月9日、東イングランドでラッサ熱の症例が2例確認され、その後2月11日には更に1例の症例が発生した旨を発表しました。
なお、3例目の症例はイングランド東部ルートン&ダンスタブル病院で亡くなりました。これらの症例は東イングランドの同一家族内で発生しており、第1例については西アフリカへの渡航歴がありました。
現在これらの症例がラッサ熱と確認される前に接触のあった可能性のある人々に対して連絡を取り、適切な対処や助言がなされています。
なお、英国健康安全保障庁は一般市民のリスクは「非常に低い」としています。
近年シエラレオネ、トーゴ、リベリア、ナイジェリア等の西アフリカ諸国から散発的にヨーロッパに輸出症例がみられます。
しかし、ヒトとの接触を介したラッサ熱の二次感染は稀であることが知られています。2016年には、トーゴからドイツへの旅行関連症例1例、リベリアからスウェーデンへの旅行関連症例1例が報告されています。
2019年にはシエラレオネからオランダへの輸入症例が2例報告されています。1980年以降、英国では合計8例のラッサ熱が報告されており、最後に2症例が報告されたのは2009年です。
日本国内でも、1987年3月にシエラレオネから帰国した人に1例の輸入例が報告されています。
WHOによると、ラッサ熱はラッサウイルスにより起こるウイルス性出血性疾患で、主にげっ歯類の尿や糞で汚染された食品や家庭用品との接触を介してヒトに伝染します。
人から人への感染は、特に医療機関等において、ラッサ熱に感染した患者の血液、尿、便、他の身体分泌物との直接接触によって起こり得ます。
潜伏期間は2~21日で、主な初発症状としては発熱や全身倦怠感が多く、数日後に頭痛、咽頭痛、筋肉痛、胸痛、嘔気、嘔吐、下痢、咳、腹痛が続くことがあります。
多くの症例は寛解しますが、重症例も報告されています。早期の診断と治療の開始が非常に重要です。死亡率は約1%ですが、重症化し入院が必要となった症例に関しては、死亡率が約15%にのぼります。
現在、ラッサ熱に対して承認されたワクチンはありません。水分補給と対症療法による早期治療が、予後を改善します。家族や医療従事者は、患者の血液や体液との接触を避けるように注意が必要です。
日本国内では、ラッサ熱は感染症法上の1類感染症に位置づけられており、全数報告対象となり、診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出なければなりません。
西アフリカの流行地域からの渡航者の発熱患者では、ラッサ熱を鑑別診断に入れることが大切です。ラッサ熱に対する行政対応や、診療については、手引きを作成しておりますので以下のリンクをご参照ください。
○ 厚生労働省 ウイルス性出血熱 診療の手引き
https://www.mhlw.go.jp/content/000772042.pdf
○ 厚生労働省 ウイルス性出血熱への行政対応の手引き
https://web.pref.hyogo.lg.jp/kf16/documents/2_3.pdf
(参考資料)
○ Lassa fever cases identified in England, following travel to West Africa - GOV.UK
https://www.gov.uk/government/news/lassa-fever-cases-identified-in-england-following-travel-to-west-africa-1
○ WHO Lassa fever
https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/lassa-fever
○ 国立感染症研究所 ラッサ熱とは
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/344-lassa-intro.html
○ ドイツのラッサ熱症例
https://extranet.who.int/ihr/eventinformation/print/event/2016-e000100
○ スウェーデンのラッサ熱症例
https://extranet.who.int/ihr/eventinformation/print/event/2016-e000139
○ オランダのラッサ熱症例
https://extranet.who.int/ihr/eventinformation/event/2019-e000488