No.21001 保育施設を起点とした腸管出血性大腸菌感染症の集団発生

分野名:細菌性感染症
衛研名:秋田県健康環境センター
報告者:保健衛生部 細菌班 今野 貴之
事例終息:事例終息
事例発生日:2020/10/25
事例終息日:2020/11/07
発生地域: 秋田県
発生規模:被検者数294名 菌陽性者51名(O26:H11 49名、O103:H2 1名、O5:H- 1名)患者被害報告数:56名
患者被害報告数:56
死亡者数:0
原因物質:腸管出血性大腸菌O26:H11
キーワード:腸管出血性大腸菌、ベロ毒素、保育施設、無症状病原体保有者、二次感染

概要:
 保育園児を含む家族内感染の探知をきっかけに、保育施設での腸管出血性大腸菌の集団感染が発覚した。発症者数56名で、被検者294名の内、O26:H11が家族内二次感染を含め49名で確認された。その他に、O103:H2が1名、O5:H-が1名で確認された。いずれの菌株についてもベロ毒素遺伝子としてstx1が検出された。

背景:
 腸管出血性大腸菌はベロ毒素を産生し、強い感染力を有する。特徴として、出血性大腸炎や溶血性尿毒症症候群などの重篤な合併症を引き起こす場合がある。国内では、腸管出血性大腸菌感染症の集団発生の早期探知やその原因究明を目的として、厚生労働省通知に基づき菌株の分子疫学解析が進められている。秋田県における腸管出血性大腸菌感染症の報告数は例年40件前後であり、規模の大きな集団発生はまれである。

地研の対応:
 保健所からの依頼により、接触者等からの腸管出血性大腸菌の分離同定を実施した。医療機関、民間検査機関で分離同定された菌株について、分与を依頼した。分子疫学解析のため、菌株を国立感染症研究所に送付した。

行政の対応:
 施設内の消毒や手洗い等の感染予防指導、患者等の医療機関への受診勧奨、報道機関への発表を通じて地域住民への予防対策の呼びかけなどの対応がとられた。

原因究明:
 保育施設における食中毒の可能性を考慮し、給食10日分の検食10件を検査したが腸管出血性大腸菌は検出されなかった。分子疫学解析の結果、O26:H11の遺伝子型はすべて同一のMLVA complexに含まれると判定されており、保健所による疫学調査から施設内や家庭内における接触感染により感染が拡がったと推察された。

診断:
 PCR法により、腸管出血性大腸菌の病原遺伝子(stx1、stx2、eae)と大腸菌特異的なbeta-glucuronidase遺伝子(uidA)を検査し、腸管出血性大腸菌の同定を行った。また、血清群を免疫学的手法、PCR法により確認した。

地研間の連携:
 なし

国及び国研等との連携:
 国立感染症研究所にて、血清型の確認と分子疫学解析が実施された。

事例の教訓・反省:
 腸管出血性大腸菌感染症は、原因となる菌株によって軟便程度の軽症者や無症状病原体保有者が多い場合があるが、感染力は強いためそれらの患者から接触感染等によって感染が拡大する可能性があり、注意が必要である。 菌陽性者の内、2名の感染者は保育施設との関連はなかったが、分子疫学解析により集団発生事例由来の菌株と遺伝子型が一致した。その後、集団発生事例の患者の家族と接点があったことが管轄保健所の疫学調査で判明しており、集団発生に含める患者範囲の特定に分子疫学解析の結果が有用であった。

現在の状況:
 分子疫学解析のため、関係機関と協力して積極的に菌株を収集している。

今後の課題:
 腸管出血性大腸菌感染症については全国的に菌株の分子疫学解析が進められているが、集団発生した際は、リソースの乏しい地方では迅速な対応が難しくなることも想定されるため、国立感染症研究所等との連携が今後も重要と考えられる。

問題点:
 特になし

関連資料:
 病原微生物検出情報, 42, 87–89 (2021)

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