分野名:自然毒等による食中毒
衛研名:岡山県環境保健センター
報告者:衛生化学科 浦山豊弘
事例終息:2020/09/23
事例発生日:2020/09/23
発生地域:岡山県内
発生規模:1名
患者被害報告数:1名
死亡者数:0名
原因物質:テトロドトキシン
キーワード:ふぐ、テトロドトキシン、嘔吐物、尿
概要:
保健所に医療機関から「ふぐを家庭で調理して食べた後に、食中毒症状を呈している者が入院している」との通報があった。患者は、自ら釣ったふぐ(種類不明)を自ら調理し一人で喫食したところ、約1時間半後に口がしびれる、体が動きにくい、吐き気、流涎などの症状が出現し、症状が悪化したため救急搬送された。患者が一人暮らしで原因食品を入手できなかったため、搬送中に救急隊員が回収した嘔吐物及び医療機関が採取した患者尿をLC-MS/MS分析したところ、いずれからもふぐの毒成分であるテトロドトキシンが検出された。
背景:
ふぐの有毒部位の喫食などの動物性自然毒による食中毒は毎年発生している。ふぐによる食中毒は致死率が高く、迅速な検査が求められている。従来、ふぐが疑われる食中毒発生時は、調理残さ等の食品を試料としていたが、原因食品を入手できない場合もある。
地研の対応:
嘔吐物及び尿中のテトロドトキシンについて、文献1)を参考に試験溶液を調製し、文献2)の条件でLC-MS/MSで測定した。
行政の対応:
ふぐによる食中毒発生について9月28日にプレス発表し、ふぐの素人調理を避けるよう啓発を行った。
原因究明:
患者は9月23日夕方自ら釣ったふぐ(種類不明)を自ら調理した後発症し、医療機関に救急搬送され入院したが、調理残さ等の原因食品を入手することができなかった。このため、入手することができた救急搬送中の嘔吐物を隊員が回収したもの、及び入院中に医療機関において採取された尿(翌日9月24日の夕方に採取)中のテトロドトキシンを分析した。
診断:
嘔吐物から0.71 μg/g (3.2 MU/g)、尿から0.20 μg/ml (0.9 MU/ml)のテトロドトキシンが検出され、食中毒の原因はふぐの有毒部位の喫食であると推測された。
地研間の連携:
なし
国及び国研等との連携:
なし
事例の教訓・反省:
今回は、自ら釣ったふぐを自ら調理、喫食して食中毒が発生した事例であり、引き続きふぐの素人調理を避けるよう啓発を行う。また、地研としては原因食品が入手できない場合も嘔吐物や尿の分析により原因究明にアプローチできることが確認された。
現在の状況:
原因食品を入手できない場合も、嘔吐物や尿を分析することで原因究明でき、また分析に当たっての課題も確認されたことから、食中毒の検査対応に反映させるとともに、保健所に周知を行った。
今後の課題:
尿試料では、試料溶液の測定時に夾雑物質の影響を受けるため、適切な希釈率を選定する必要がある。(文献3)を参照)
問題点:
尿試料では、夾雑物質の影響により、検体の保持時間が標準物質と一致せず、希釈率とピーク面積(定量値)が反比例しない現象が確認されるため、十分に希釈して測定する必要がある。
関連資料:
1) 臼井力ら:鹿児島県環境保健センター所報,17,74-77,2016、2) 浦山豊弘ら:岡山県環境保健センター年報,37,133-136,2013、3) 浦山豊弘ら:第58回全国衛生化学技術協議会年会講演集,178-179,2021