No.22008 トリカブト誤食による食中毒事例

[ 詳細報告 ]
分野名:自然毒等による食中毒
衛研名:富山県衛生研究所
報告者:化学部 堀井裕子
事例終息:事例終息
事例発生日:2021/5/10
事例終息日:2021/5/13
発生地域:富山市保健所管内
発生規模:摂食者数9名
患者被害報告数:2名
死亡者数:0名
原因物質:アコニチン系アルカロイド
キーワード:トリカブト、モミジガサ、アコニチン系アルカロイド、植物性自然毒

概要:
 2021年5月10日(月)、富山市保健所に富山市内の医療機関から「5月10日昼に、市内の飲食店で食事をした1名が意識障害、嘔吐、下痢等の症状を呈し、救急搬送された。患者と共に食事をした他の1名も別の医療機関に救急搬送されている。」旨の連絡があった。同保健所が調査したところ、5月9、10日に市内の飲食店で野草(モミジガサ)のおひたし等を喫食した9名のうち2名が食中毒症状を呈していたことが判明した。野草は飲食店の店主が県内で採取したものであった。同保健所が当該飲食店の調理残品であるモミジガサのおひたしの鑑別を富山県中央植物園に依頼したところ、別の葉片が含まれていることが確認され、形態学的な鑑別の結果、この葉片はトリカブトであると判明した。また、患者の共通食は、当該飲食店における提供物のみであること、患者の発症状況がトリカブトによる食中毒の症状及び潜伏期間に合致したことから、トリカブトの自然毒による食中毒と断定した。後日(2021年10月)、この調理残品を富山県衛生研究所で検査したところ、アコニチン、メサコニチンを検出した。

背景:
 トリカブトは早春から初夏にかけての山菜採集時期に、トリカブトの芽生え期の葉と酷似しているニリンソウやモミジガサなどの食用野草と間違って誤食される中毒事故が多く発生している。

地研の対応:
 5月の食中毒発生時にはアコニチン系アルカロイド測定の対応ができなかった。その後検査体制を構築し、10月(調理残品が警察から返却後)にトリカブトが有するアコニチン系アルカロイドを測定し、アコニチンとメサコニチンを検出した。

行政の対応:
 富山市保健所は、調理残品の形態学的な鑑別の結果、トリカブトが含まれていることが確認されたこと、および患者の共通食や発症状況から、トリカブトの自然毒による食中毒と断定し、当該飲食店に対し2日間の営業停止を命じた。営業停止期間中に再発防止のため、店主に対して衛生管理研修を行い、食用野草の生育環境には有毒植物も生育していることがあること、および食用野草と有毒植物の芽生え期(若葉)の形態が似ていることがあるので、野草を採取する際は、1本1本確認し、食用野草の中に有毒植物が混ざらないよう細心の注意を払うよう指導した。さらに、市のホームページやSNS、研修会等を通じて有毒植物について市民へ注意喚起を行っている。

原因究明:
 富山市保健所は、5月11日(火)に当該飲食店に残っていたモミジガサのおひたしの鑑別を富山県中央植物園に依頼した。

診断:
 調理残品にはモミジガサと別の葉片が含まれていることが確認され、形態学的な鑑別の結果、この葉片はトリカブトであると判明した。
 後日、調理残品中のアコニチン系アルカロイドをLC-MS/MSを用いて分析した結果、アコニチン0.40 μg/g、メサコニチン0.66 μg/gを検出した。

地研間の連携:
 検査試料中の自然毒成分分析法について、岐阜県保健環境研究所から技術情報の提供を受けた。

国及び国研等との連携:
 なし

事例の教訓・反省:
 アコニチン系アルカロイドの分析にすぐに対応できる検査体制ができておらず、食中毒発生時直ちに毒成分の検査を実施することができなかった。

現在の状況:
 今回、岐阜県保健環境研究所から情報提供を受けた自然毒成分一斉分析法を基に検査法の検討を行っている。

今後の課題:
 自然毒食中毒発生時に迅速に対応できるように、検査作業書の整備、自然毒標準品の確保が重要である。

問題点:
 検査試料はおひたしの凍結保存品であり、解凍したところ固形分(葉)と水分が分離したため、前処理用の試料は葉と水分の各々の重量が試料全体と同じ割合になるように採取して測定をおこなった。また、解凍試料の水分のみについてもアコニチン系アルカロイドを測定したところ、アコニチンとメサコニチンが検出され、この値から計算すると葉に約70%、水分に約30%含まれていた。このように加工食品など試料が均一でない場合には採取部分によって濃度に違いがあるため、喫食した食品の状態を考慮して試料を採取すること、測定結果はどのような試料に由来するかを明らかにすることが必要である。

関連資料:
1.南谷臣昭.(2020).令和2年度厚生労働科学研究費補助金 食品の安全確保推進研究事業「植物性自然毒による食中毒対策の基盤整備のための研究」分担研究報告書,11-45
2.黒崎 薫.(2022).食品衛生学雑誌,63(2),J33‐J34