保健医療科学 HAM患者レジストリ「HAMねっと」を用いたデータベース研究

『保健医療科学』 2023 第72巻 第4号 p.317-326(2023年10月)
特集 : 公衆衛生分野での観察研究による新たなアプローチ ―データベース研究によるエビデンスの創出に向けて―

<総説>

HAM患者レジストリ「HAMねっと」を用いたデータベース研究

山野嘉久1, 2, 3)
1)聖マリアンナ医科大学脳神経内科学
2)聖マリアンナ医科大学難病治療研究センター
3)聖マリアンナ医科大学臨床研究データセンター

Database study using the HAM patient registry “HAM-net”

YAMANO Yoshihisa 1, 2, 3)
1) Department of Neurology, St. Marianna University School of Medicine
2) Department of Rare Diseases Research, Institute of Medical Science, St. Marianna University School of Medicine
3) Center for Clinical & Translational Science, St. Marianna University School of Medicine

抄録
 HTLV-1 関連脊髄症(HAM)は,進行性の歩行障害や膀胱直腸障害を来たす稀な難治性疾患である.HAMの治療はいまだ確立されていないのが現状で,これはHAM患者が様々な医療機関に点在し,その情報が集約されないことが原因となっている.
 近年,患者レジストリのデータの重要性が広く認識されるようになってきており,レジストリにより収集したデータは,真の実態を示すリアルワールドデータとして考えられはじめている.そこで我々は,2012 年から患者会と連携して全国的なHAM患者レジストリ「HAMねっと」の運営を開始した(UMIN000028400).HAMねっとでは,患者情報やHAMの症状などを1人の登録患者につき年に1回,電話による聞き取り調査を実施しているが,質の高い情報を高い充足率で継続的に得るために,調査担当者として,看護師・CRC等の医療知識を有するキュレーターを設けている.また得られた情報は,情報管理体制および情報の信頼性を高める工夫をしたデータシステムを使用している.これらHAMねっとの運営にかかわる業務全般について,手順書および運営マニュアルを整備することで,業務の標準化を図っている.
 HAMねっとの運営により,HAMに関するリアルワールドデータが蓄積され,安定的な臨床情報の収集に成功し,経過や予後因子が解明した.しかしながら,患者の病状判断に重要な検査データが収集されていないという問題や,HAMの疾患活動性の判定や治療効果の評価に必要となる検査が保険未承認で実施できないという問題があることから,HAMねっとによる臨床情報の集積だけでなく,臨床情報にリンクした検体をあわせて収集する新HAMねっとに移行した(UMIN000039930).新HAMねっとでは,検体の提供に協力した主治医には,保険未承認の検査を研究で実施している.
 以上のようにHAMねっとは我々研究者と患者を結ぶ強力なツールとして活用され,その存在価値を高めている.また現在,さまざまな難病研究班が運営するレジストリデータの統合を目指す「難病プラットフォーム」という取り組みも始動している.これにより,HAMのみならず我が国の難病全体が共通基盤のもと連携し,希少難治性疾患の制圧が可能になるものと期待される.

キーワード:HTLV-1,HAM,患者レジストリ,HAMねっと,リアルワールドデータ

 
Abstract
 Human T-cell leukemia virus type 1 (HTLV-1)-associated myelopathy (HAM) is a severe refractory disease characterized by progressive paraparesis due to chronic inflammation of the spinal cord for which only a few effective treatments exist. Given its low prevalence in developed countries outside of Japan, only limited data on biomarkers and treatment strategies are available internationally. Consequently, there is no globally recognized treatment for HAM, resulting in suboptimal clinical care. In the case of rare diseases, such as HAM, conducting large-scale studies to continuously collect clinical data has proven challenging. Recognizing the potential value of a patient registry in gathering information from a diverse patient population, we established the nationwide registration system “HAM-net” in 2012, which has proven to be an invaluable tool for advancing epidemiological research.

keywords: HTLV-1, HAM, patient registry, HAM-net, real-world data

HAM患者レジストリ「HAMねっと」を用いたデータベース研究

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